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ヨーロッパフットボール回廊『今シーズンの覇権を占うクリスマス、正月戦線』

23・12・18
 年も迫り毎年恒例のクリスマス、新年シリーズともいうべき今シーズンの覇権を懸けた試合が迫ってきた。

 過去、伝統的に行われていたクリスマスイブ(12月24日)、クリスマスデー(12月25日)、12月26日のバンク・ホリデー(銀行も休業する日)の決戦はイングランドリーグ100年を超える歴史の中でのハイライトであった。

 このクリスマス戦線、そして開けての新年決戦(1月1日または1月2日)でトップに躍り出たチームがそのシーズンの覇者となる比率は圧倒的に高い。イングランドフットボールは不文律の過密日程を勝ちぬいたクラブにこそ栄冠が与えられるのである。

 しかし時代の流れは変わってきた。その伝統も昨今のテレビマネーの高騰、外国人監督の導入、かつ有力クラブのオーナーシップも外国資本に委ねられ、今シーズンは今までのフットボールカレンダーとは異なる様相を呈してきているのだ。

 この決戦を勝ち抜き覇権に王手をかけるのはどこのチームか? 12月11日現在16試合を消化し、トップはシーズン初め低迷していたリバプールが2位アーセナルに1ポイント差でリード。3位には元アーセナルの監督であったウナイ・エメリの指導ぶりが功を奏しアストンビラが1981年優勝以来のトップ3に落ち着いてきた。12月10日の因縁の試合対アーセナル戦に1−0と快勝し勝ち点35と2位アーセナルとの差は1ポイント、トップのリバプールとは2ポイントの差。久しぶりにバーミンガム市に栄冠が戻るか注目されている。

 トップ独走かと思われていたマンチェスター・シティは過密日程の為トップ選手(センターバック、ストーンズ)がけがで脱落。昨シーズンの得点王、圧倒的なスピードとシュート力の持ち主絶対的ストライカー、ノルウエー代表ハーランドもけがもあり不調、得点源不足で勝ちきれず4位に低迷している。しかしまだトップとの差は勝ち点4しかなく今後地力があるチームだけにこのクリスマス、新年で巻き返すことが出来るのか。

 クラブ売却騒動でこの1年、経営陣の混乱、監督指揮能力の欠如、選手間の不調和、移籍選手の過大評価、キャプテンシー問題で揺れる名門マンチェスターユナイテッド(MU)。アレックス・ファーガソン監督が2013年辞任以来、リーグ優勝はなくアメリカ人オーナーのアメリカナイズされた経営姿勢はイングランドでは馴染まず、12月11日現在トップ4にも程遠い6位に甘んじている。

 果たして巨象MUの行く末はいかに? 多くのサポーター、ジャーナリストが論表しているが早急な解決をドラスチックに実施するしかないであろう。


1:クラブの株式25%を取得する予定(法的にはまだグレイザー会長から取得しておらずまだ公式の経営発言力を保有していない)のラットクリフ氏(マンチェスター育ちの英国人)の案としては、まず監督を更迭、後任にはチェルシーの監督を追われたポッター監督を就任させるという案が浮上している。しかしあくまでラットクリフ氏がMUの株25%を取得してからの話であり、この株の売買はニューヨーク市場に上場している為時間が掛かっており年を越すとみられている。


2:選手間のあつれきが激しく、シーズン初めにテンハグ監督はキャプテン・マグアイアーを更迭、フェルドナンド(ポルトガル人)を任命、チーム内に不協和音が出てきた。そしてドルトモンドから獲得したイングランド代表サンチョは練習に遅刻したとし、1軍出入り禁止としいまだにユースと練習をせざるを得ない状況にある。

 加えてイングランド代表グリーンランドがセクハラで裁判と無罪とはなったが、サポーターが復帰を反対しスペインへローン移籍。そしてブラジル代表アントニーも現地でセクハラ問題を起こし、裁判となるスキャンダルが多発しチームがガタガタとなってしまった。

 今やチームとしての機能がポジテイブに働かず、その為か昨年チーム一の得点を挙げたイングランド代表ラッシュフォードも今シーズンわずか2ゴールと極度の『ゴールシャイボーイ』に成り下がっているのも勝ちにつながっていない。


 3:このような状況を起こし成績も上がらず、また今シーズンのヨーロッパチャンピオンズリーグでもグループ4位でベスト16に入れず、現在MUは今や三重苦状態にあるチームとなってしまっている。この難問を打開する道はひとえにクラブ経営の刷新であり、次に現場監督の更迭、そして伝統であるマンキュニアンによるマンキュニアンの選手によるチーム全体の手術をしなければ優勝もサポーターの支持も受けられないであろうと思われる。


 そして昨今の日本選手についてもその動向を観察してみたい。過去プレミアで活躍した選手はそれほど多くはない。ボルトンの中田選手、アーセナルの稲本選手、MUの香川選手、レスターの岡崎選手、サンサンプトンの吉田選手が思い浮かぶ。しかし1シーズンを通して毎試合90分戦った選手はそれほど多くはない。中田選手と吉田選手くらいか、あとは出たり入ったりの選手スカッドメンバーであった。

 現在はというと、アーセナルの富安選手、ブライトンの三苫選手、そしてリバプールの遠藤選手が現役として登録されている。この3人のプレミア選手のうち、真にレギュラーとして試合に毎試合出場しているのは三苫選手だけである。彼の評価は昨年センセーションなデビューを飾り得点も11点稼ぎブライトンの新星となったが、今年は読まれて得点は2点になってしまっている。

 しかし毎試合90分出場は日本選手の中でNo.1であろう。一方、富安選手はアーセナルのフルバックとしてけが無くばスタートから出ているが、いかんせんけがが多く現在は欠場中。しかしアーセナルの守りの要として評価は高い。

 一方、リバプールにドイツから移籍してきた遠藤選手はスカッドリストには入るが出場分数は少なく、あくまでベンチ組でカップ戦及び下位との勝ち試合の後半交代要員として時々出場の選手としか評価されておらず、移籍先を間違えたのではないかと思える。

 イングランドで求められるのは「スピード」、「One−Touch Football」、「むき出しにしたファイテイングスピリット」でボールにはタックル、そしてタックル、その後のスピードある正確なパス出しができることが必須である。その点ではスピード(走力、読むスピード)がないと見られ評価は低い。多分にドイツ向きであり、イングランド向きではないという識者は多い。

 ともあれ皆様より良き年をお迎えください。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫