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ヨーロッパフットボール回廊『2023年のフットボールシーズン開幕にまつわる2大噺』

23・09・15
 
 暦では秋到来、しかし英国は暦とは異なり7月、8月は冷夏、毎日20度前後、公園の芝は夏枯れるのが普通なれど緑のまま。それが9月の声を聞くと一挙に30度超えが1週間続き、一気に芝が黄色くなった。気候変動はまさしく世界的な現象となってきている。

 2023年度のフットボールシーズンは8月から始まったが世界的にも異常事態とも言うべき事件が勃発、テンヤワンヤの騒ぎとなっている。列挙してみよう。


◆女子フットボールW杯
 ◇『Kiss Gate』で優勝スペイン協会長辞任、優勝監督更迭
 ◇女子W杯準優勝のイングランド、報酬問題勃発、報奨金アップを選手要求
 ◇女子W杯優勝スペイン代表選手報酬問題でストライキを計画

◆プレミアリーグ
 ◇プレミアリーグ史上最高額の移籍金:2.24Bnポンド=約4千億円:
サウジマネー移籍膨大化
 ◇マンチェスターユナイテッド(以下MU)
 ・ニューヨーク株式市場上場停止、グレーザ会長のMU売却延期、クラブ負債の増加       
 ・グリーンウッド選手のセクハラ裁判決着、MU更迭しスペインへ移籍
 ・アントニー選手ブラジル及び英国セクハラ暴力問題で裁判へ(当面出場停止)
 ・イングランド代表サンチョ選手、監督批判で移籍か?


 まず女子ワールドカップはスペインチームがイングランドを1−0と下し初優勝した。その表彰式、列席したスペインFA協会会長ルイス・ルブラレスが選手のジェニー・ヘルモーソを抱擁し、彼女の唇にキスをした。

 この行為はプロトコールに反するセクハラであると見なし、FIFAは彼に3か月職務停止処分を決定し発表した。これに対しスペイン協会はルブラレス会長がお互い合意の上でのキスしたことであり処分を持ち越したのである。しかし世論、そしてスペイン女子代表選手はこぞってルブラレス会長を非難、辞任を求めた。そして当のヘルモーソ選手も法的に裁判所へセクハラを受けた事件として上訴したのである

 それに対しスペイン協会は彼の会長職を取り下げ、とりあえず代理を任命したが、更迭の決議とはならなかった。一方、選手側は今後代表に選出されてもルラブレス会長が続投するのであればその招聘を受けないと強行に訴えた。

 更にスペイン女子代表選手は、獲得賞金が1人当たり2万5千ユーロであり少ないという理由で3万ユーロを支払うよう要求したが、協会は拒否した。更に加えて女子選手の組合Spanish Players Association(SPA)は、リーガF(スペイン女子フットボールリーグ)の最低賃金1万8千ユーロ/年は少ないと、これを2万5千ユーロに賃上げを要求。しかしリーガFは、「3年後に賃上げする」としたため、SPA選手はストライキも辞さないと現在も揉めている。

 そして9月に入って、上記スキャンダルのらちが明かず、スペイン協会はまず選手に不人気であり、大会中も選手との関係が悪化していたことで優勝監督ジョルギ・ベルダを更迭。それを受けて会長ルブレラスは辞任を発表し、やっと女子フットボールの闘争『KISS GATE SAGA』は終わった。しかし課題は残ったままである。

 このスペインの措置に追随したのがイングランド代表女子選手である。イングランドはスペインに敗北し、優勝祈願は実らなかったが、ヴイーグマン監督がベスト監督に、そしてGKマリー・イアープスがベストGKに選ばれた。しかし準優勝後The FAと報奨金で合意が得られず現在も交渉中であり、合意されなければ代表選手を辞退すると息巻いている。

 23名の登録選手へのThe FAからの報奨金は一人当たり2万4千ポンドであり、準優勝賞金は15万3千ポンドとなっていることから、その分も分配すべきというのが選手の言い分であるが現在も交渉中である。

 このネガテイブな紛争を置いて、この女子W杯が盛り上がった点は
 1.審判がすべて女性であり、異議が出なかった。
 2.女性をアッピールし男子の激しい速い展開から優雅で予測可能なゲームとしていわばこれぞ『Women’s Football』であることを世界に認知させた事であろう。その中でほとんどの選手(除く日本選手及びアジアの選手)が髪を長くし女性をアッピールしていたファッションは、特出に挙げられる事象であろうかと思われる。    

  
 さてシーズンが始まったプレミアリーグであるが、ここでもスキャンダルが横溢している。

 まずここ数年、優勝の栄冠から遠ざかっているManchester Unitedであるが、ここでもスキャンダル的な事象がクラブ経営、そしてチームのパーフォーマンスにも影響している。

 1.まず経営的には、昨年の10月過ぎよりクラブオーナーのグレーザがチームの成績不振、そしてオールド・トラフォード・スタジアムの再改築、練習場の改築等の資金工面が不足している為、更にMUコアのサポータから「グレーザ、アウト!」の抗議とも会わせ、クラブ売却の手続きを開始し、売却先のオファーを求めていた。売却金額目標は5ビリオンポンド=(9千億円)で、現在までに2グループが応札している。サウジのファイナンスグループと英国人のファイナンスファンド会社である。

 しかしこの売却競争の最中、上場していたニューヨーク株式市場での株価が下落し、オーナーのグレーザは買収予定額を2倍の10ビリオンポンド(1兆8千億円)に上げざるを得なくなった。このため買収劇は一時頓挫し、新たな投資も出来ない状況に陥っているのだ。

 2.そこへまた新たなチーム内の選手、監督を巡るトラブルが発生チームとしての伝統のReds魂は揺らいでいる。リーグ開幕から4試合2勝2敗の順位10位は優勝争いから遠い存在となっている。チーム内がガタガタに崩れている要因を挙げる。

 ・キャプテンであったマグワイアが監督テン・ハグから今シーズン、キャプテンを剥奪され中盤の要のフェルナンデスが腕章を巻いているが短気なな性格で、チームリーダーとして疑問が持たれている。

 ・ストライカー若手のホープとして注目されていたマーソン・グリーンウッドが女性暴行事件に関与し、MUは当分登録を抹消、出場出来なくなっていた。そして裁判で相手女性が訴えを取り下げたため無罪となったが、クラブとしてまたサポータークラブ、特に女性サポータ、そして女子チームメンバーから復帰はNOと突きつけられ、やっとスペインのフェタフェへ9月より期限付き移籍した。

 ・ブラジル代表のアントニーもブラジル及びイングランドの3名の女性からセクハラ行為をしたと裁判所に訴えられている。このためクラブは期限無しの出場停止となっている。

 ・ボルシアドルトムンドより7千3百万ポンド(約125億円)で獲得したイングランド代表サンチョ選手(FW)は監督テン・ハグが「練習態度が良くない」とし今シーズン試合のメンバーにも呼ばれていない。これに対しサンチョは反論、両者の口争いとなっており先のクリスチャン・ロナウドと同じく監督対選手の闘いに発展し、クラブ・チーム内あつれきが露呈しており、サポーターからまたOBからテン・ハグ監督の技量が図られている(現在2勝2敗11位)。

 今年のプレミアリーグ移籍総額は2.24ビリオンポンド=約4千30億円、1位はチェルシーの459百万ポンド=約880億円なれど順位は12位。フットボールは金で買えないのだ。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫