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ヨーロッパフットボール回廊『フットボール試合時間は100分なのか?』

23・08・16
 8月6日、ヨーロッパのフットボールリーグの先駆けとしてイギリスのプレミリーグが恒例のコミュニティ・シールド戦を行った。

 本来は、昨シーズンのプレミアリーグ優勝チームとFAカップ優勝チームの対戦となるのだが、マンチェスター・シティがどちらも優勝していたので、プレミアリーグ2位のアーセナルが対戦相手となった。当日は快晴、気温19度の夏とは思えぬ、まるで秋空のような気候の中、ウエンブレースタジアムで行われた。

 昨シーズン最後のコーナーでMシティに抜かれ、2位に甘んじたアーセナルは何とか覇を唱えたいシーズン初戦であった。

 初戦だけに相手を見ながらボールポゼッションの戦いでミスなしのパス試合を展開。前半は0−0。後半に入ると動きが出てきたが、昨シーズンの得点王Mシティのハーランドはアーセナル・ディフェンスのマークでシュートを打てず、21才のパーマーと交代させられた。パーマーはシティの期待の若手選手、背番号は80番とU23チームのもの。そのパーマーが期待に応えて、77分、右からドリブルで抜け強烈なシュート。ボールはゴールを割り、昨シーズンの3冠(プレミアリーグ優勝・FAカップ優勝・チャンピオンズリーグ優勝)に付け加える勝利かに見えた。

 そして90分が経過。今年からThe FAは要らぬ時間稼ぎのプレーを排除するため、実質プレー時間を計測し、審判は実質90分の試合を全うするように変更された。

 この試合で90分過ぎた時に第4審判が掲示したアディショナルタイム(AT)は何と11分。そして101分の終了間際に交代選手として入っていたアーセナルのトロサードが右サイドからカットインしてシュート。そのボールはシティの選手に当たりゴールイン!

 1−1となり、本来なら90分で終わる試合が101分試合となった。コミュニティシールドは延長戦がないので、PK戦に突入。結果はPK戦でアーセナルが4−1で勝ちシールド(楯)を獲得、Mシティは過去3期連続でこのコミュニテイシールド戦には勝てないジンクスを破ることは出来なかった。

 Mシティ監督グアルディオラは「何たるアデイショナルタイムなのか? このまま行けば明日の朝8時まで試合をしなければならない」と嘆いたが、The FAはイングランドでは時間稼ぎのような悪質、のろまの試合を求めていないとし、キックオフから実質90分を取り下げないと、断固としてこのルールを今シーズンから徹底させるとしている。

 そして8月7日からイングランドプロリーグ3部、4部に当たるEFL(England Football League)も開幕。ノウザンプトン対ステベネッジ戦が22分36秒のAT、アクリントン対ニューポート戦が20分47秒のATを記録した。下のリーグに行くほどATが伸びる傾向が窺える。

 そしてプレミアリーグの開幕となった8月12日の試合も長々とATが取られ、ニューカッスル対アストンビラ戦では前半だけで11分のAT(結果はホーム、ニューカッスルが5−1と快勝)、ブレントフォード対スパーズ戦も同じく前半11分のATを取られた(結果は2−2の引分)。

 この日だけで1試合平均101分掛かったことになり論議を呼んでいる。もっともブレントフォードは昨年のシーズン、スタジアムにドローンが到来した為71分中断したケースもあるが、これは外部によるATなので参考とはならないだろう。

 また今季、オーストラリアとニュージーランド共同開催で女子のW杯が行われている。今日現在4強には地元オーストラリア、イングランド、スペイン、スエーデンが勝ち残っており(執筆時点)、惜しくもJapanはスエーデンに及ばず敗退してしまった。

 この大会で論議を呼んでいるのは、同点のままATが10分、つまり試合時間100分となり勝負がつかなかった場合は、30分の延長戦が行われ、さらに勝負がつかなければPK戦に突入、男子と同じ時間形式で行なわれている。

 男子に比べて体力的にも厳しい女性選手に、男子と同じ120分以上の時間(90分+30分+PK戦)を課すのが合理的なのか。そして更に、上記男子リーグで採用しているATルールを適用することで試合時間は100分以上となることになる。

 8月7日に行われたイングランド対ナイジェリア戦では0−0のまま延長戦入り点が入らず、120分戦いPKとなり、イングランドが4−2で勝ち準決勝に進出したが、果たして120分+AT10分以上の戦いをするのか論議を呼んでいる。

 女子に限れば90分+AT10分後に勝負が付かなければ即PK戦で良いのではないだろうか。

 今後FIFAそしてイングランド、スコットランド、ウエールズ、北アイルランドで構成されるフットボールの規則委員会で論議され規則改正とならないのだろうか。

 時間稼ぎ防止のために採用された新ルールATに関しては、規則としては正当性があるが、何をもってフットボールの試合時間を90分としたのか?

 極端な論議はその時間稼ぎを防止するためにはバスケット、アイスホッケー等に採用されている実質プレー時間のタイムキーパーが審判以外に必要となり、そのタイムキーパーがどう秒数をカウントするのか、VARと同じく規則運用の方法を確立する必要が出てくることだろう。

 ただそのような規則改正はVARを見る限り、スタジアム内にその為のビデオ設置等の機械的・技術的な機材が必要となり、フットボールの人口のうち90%以上は旧来の審判の絶対判定に頼らざるを得ず、特にジュニアー、ジュニアーユース、ユース、アマチュア、学校等での機械的・判定機の設置は難しいことは明らかであろう。

 選手、コーチ、監督を含めてのフットボールの試合に関わる判定は、やはり主審、副審の人間に頼らざるを得ないのが現実的であり、逆に主審の判定が機械的VARであれば、間違いであっても、審判の主体性を重んじ、審判の判定が最終的判断とする、選手に暗黙のスポーツマンシップ尊重精神の向上を促すことが肝要ではないかと思える。

 このことから、要らないファールをしなければATを縮めることにつながるのではないだろうか。例えばの話だが、日本の選手の3分の1のスローインはファールスローである。いわゆるちょん投げ、お辞儀投げである。英国であれば即ファールスローとなるであろう。この女子W杯で中国の選手のスローインをお辞儀投げで連続してファールスローを取った審判が正解であり、流してしまう主審が多いことに失望を覚えている。

 なぜファールスローが日本で認められているのか、コーチ、審判、そしてファンも「たかがスローインされどスローイン」として笛を吹かないのが不思議である。

 1980年代ユニバシアード代表戦、90年代初めプロチームがマンチェスターで試合をした際、日本の選手がお辞儀投げで反則を取られ、更に3回連続取られて観客から爆笑、嘲笑をされたことを思い出す。フットボール後進国の烙印をされてしまったのだ。

 特にスローインはジュニアー時代、ユース時代に正確に投げることを指導されないと癖となり、後年反則を取られることになる(最近の代表選手の中にもイタリアに移籍したフルバックの選手ですらお辞儀投げしているのは滑稽な風景だった。反則を取られていたのでその後改善した)。

 筆者は80年代にJFAの機関誌に投げ方の図式をレポートしたが、いまだにジャパン病として投げているのは見ていて嘆かわしい限りである。特にジュニアー、ユース時代のコーチの諸君、是非正しいスローインを指導してほしい。

 ともあれ今シーズンの巻頭言は 『The 100−Munite Era Has Arrived!(100分時代の到来)』です。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)

伊藤 庸夫