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ヨーロッパフットボール回廊『イングランドU21ユーロ選手権優勝』

23・07・15
 「将来のスター=そしてクラブ隆盛へ」

 ヨーロッパのフットボールシーズンは8月末から開始される。先シーズン閉幕の5月末から既に1か月半を切り、選手は年間70試合も戦った後の休養に当て、クラブは7月からの移籍解禁に備え、戦力補強と戦力外選手の放出移籍に躍起となっている。

 その中、英国のクラブ別選手評価額が発表された(トランスファーサービス社)。

 総選手評価額は、【獲得時移籍金額総額と期待すべき移籍時の移籍金額:マーケット価格】の差で表される。差引勘定としてプラスになっているクラブとしては優等生のアーセナルと、劣等生のチェルシーが目に付く。


 1:アーセナルは選手買収総額£5,72億(1,018億円)に対し移籍評価総額は£9,15億(1,628億円)で利益額£3,43億(610億円)の断トツトップ。その要因はユース上がりの現イングランド代表のサカ。移籍評価額は1億ポンド(178億円)とも言われている。ユースを育てて代表選手にすることがクラブにとって大きなビジネスと言われるゆえんである。

 監督はアルテタ。アーセナルでの選手として活躍、その後マンチェスターシティ(MC)のグアラディオラ監督の下でアシスタントとしてプレミア優勝の立役者にもなった。その実績でアーセナルに戻り、あわや優勝のチャンスもつかむ2位に押し上げた実績がある。選手の移籍にもその卓越したマネージメント能力は高く評価されている


 2:2位にはアストンビラが選手買収総額£3,4億に対し移籍評価額総額は£4,34億となっており、利益額は£1,4億。昨シーズンは元アーセナル監督であったエメリー。スペインのヴィア・レアル監督からの横滑りながら先シーズンは何とか7位につけ1ポイント差で来季のヨーロッパリーグを逃したが今後に期待されるクラブとなってきた。


 3:3位には ボーンマスが移籍評価総額£2,2億となり利益額は37百万ポンド(66億円)となっている。


 4:そしてプレミアリーグセンセーションを起こしたブレントフォードが移籍評価総額£1,79億で、リーグ4位の移籍利益を生んでいる。

 
 5:劣等生のチェルシーは選手買収総額ではリーグ1の£8,8億(1,556億円)をあげているが移籍評価額は£7,56億(1,356億円)、差し引き200億円の損失を喫してしまった。結局数多くの選手獲得に評価以上に移籍金を上乗せし、その結果成績もリーグ12位と低迷、資金力に勝るも戦績悪しの典型的アメリカンチームのレッテルが貼られてしまったのである。その為まだ移籍シーズンが始まったばかりのなか、クラブの主力選手の放出を第一義として行っているのが実情である。

 FWのハベッツをアーセナルへ、中盤の要のコバチッチをMCヘ、ロフタス=チークをACミランへ、さらにGKメンディ、及び中盤のカンテ、センターバックのクーリベイをサウジへ、そしてバコヤコをACミランへそれぞれ移籍整理をし始めた。監督には新たに元スパーズ、そしてPSGで指揮したポチェティノを招聘し立て直しを図ろうとしているがどうなるのか不透明である。


 6:マンチェスターユナイテッド(MU)は選手買収総額では£8,3億(1,477億円)を使っているがマーケット移籍評価額は£7,15億(1,270億円)とマイナス評価となっている。先シーズン3位となり今年はユーロチャンピオンズリーグに出場出来るが補強ままならず、今シーズンの出来は危ぶまれている。

 GKのデ・ギアも契約を更改せずフリーとして現在ヨーロッパのクラブと交渉中、さらにチームキャプテンのマグワイアーもテン・ハグ監督と合わず、来シーズンはキャプテンから外されることが決まっており、他クラブの移籍を模索している。中盤のフレッド、マックトミーも構想外として移籍する模様であるがMUにとっての一大事は、クラブオーナーがカタールの銀行となるのか、マンチェスター育ちの英国人実業家になるのか、まだ決定する段階に至っておらず、今後のクラブ経営そして移籍選手がどうなるのか疎んじられている。


 7:王者MCはこの総選手評価額では£1,05Billion(1,870億円)となり選手買収総額は、£8,52億とチェルシーに次ぐ額であるが、安定した経営を行っており安泰ともいえる。しかしユーロのFinancial Fair Play(財政制限)に違反しているとの判定で移籍行為が出来なくなる可能性もあり、予断を許さない状況ではある。


 このような状況下にある中でイングランドにとって明るいニュースが飛び込んできた。

 ユーロのU−21大会で宿敵スペインとの決勝戦で1−0と快勝、これは1984年来の快挙である。時代を背負う若手が育ってきたともいえる。

 イングランドがTHE FAとしてのフットボールセンターを設けたのは2012年の事である。場所はSt,George Park(バーミンガムに近い)に練習場、ジム、研修室を設け、代表の各層が研修、合宿が出来る施設を開設したのである。

 1998年フランスW杯でフランスが優勝したが、その本拠地となったのが、1988年にフランスで開設されたパリ郊外のクララファンテインのナショナルフットボールセンターであった。この構想と施設をモデルとして、The FAも持ちたいとフランスに遅れること24年、センターを開設したのである。これがやっと今回の結果となったのだ。

 ともあれまた熱い戦いがこれから始まる。目を離せないシーズンになることを期待しよう。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)

伊藤 庸夫