サッカーアラカルチョ
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17・02・16
2026年のW杯の参加国が現在の32か国から48か国に増加することが決まったが、併せてルールも見直すことをFIFAの技術委員会で検討を始めた。
近代フットボールのルールは1863年イングランドFAが発足、各地で行われていたルールを当時ケンブリッジ大学で行われていたルールに統一された。以降、時代に即して若干の変更はあったが、根幹のルールは変わることなく現在にまで来ている。
しかし、プレーが激しく速く展開するようになるにつれ、プレーの反則、ごまかし、審判の誤審、見逃しも多くなり、勝負をかける国、プロクラブ、熱狂的なサポーター、そしてフットボールを資金的に支えるスポンサーからの圧力もあり、得点が入ったのか入らなかったのかを公正無比に判定する手段としてビデオ判定が2014年のブラジルW杯より採用されている。
人間たる審判が唯一の判定決定者ではなくなったのである。ゴールラインテクノロジーの開発、採用によって機械が公正な判定をするようになってきたのだ。
このような傾向はフットボール以外のスポーツでも積極的に行われており、ラグビー、フィールドホッケー、アイスホッケーにおいても納得のいく公正な判定を機械的に下し、観客を魅了している。また罰則に対しても、試合の流れを変えず、公正な処置をするように改善されてきた。
例えばラグビーにおけるビデオ判定、シンビン制度、負傷者へのピッチでの治療、アドバンテージの採用、アイスホッケーのシンビン制度、フィールドホッケーにおけるペナルティーシュートの方式などである。
試合の流れを止めず、エキサイティングな試合展開を増長するためのルール改正は、これからのフットボールにおける課題となっていることからFIFAも重い腰をあげたのであろう。
その先頭に立って改革を計画しているのが、元オランダ代表ストライカー、ファン・バステンFIFA技術開発主幹(Chief officer of Technical Development)で、彼のルール改正の骨子は抜本的なものである。その内容を包括的にみてみよう。あくまでアイデアの段階ではあるが。
1.まず試合人数は常時11人対11人であること。
つまり退場者が出た場合でも、その退場者に代わる交代選手がピッチに入り、
11人対11人をキープすることである。10人となったチームがディフェンシブに
なり、試合に面白さがなくなることを回避したルールである。このルールは英国の
アマチュア試合とかプロの練習試合では数多く行われており、そのシステムを
一般化しようとするものである。
2.イエローカードに値するファールをした場合、ラグビーと同じくシンビン制度で10
分間の退場をさせる罰則を科す。
この10分間は11人対10人となる。このルールは上記1との整合性を今後詰め
ていく必要はあろう。
3.完全退場、シンビン退場者に対応するため現行の3人交代枠を拡大。
ラグビー方式での11人ないし7人交代枠を認める。負傷一時退場者が再度入
場することを容認する(その間一時交代者がプレーできる)。あるいは前半45分
間での退場者の交代は認めるが後半の退場者は認めないというルールもありう
るであろう。
4.同じ選手が4回(あるいは5回)以上ファールした場合(イエロー、レッドではなく)
交代させる。
5.オフサイドを廃止する。
昨今の国際試合では「負けないフットボール」が横行し0−0、1−0の試合が多
くエキサイティングではない。グループスポーツの中で一番得点が少ないスポー
ツがフットボールであり、90分得点が入らない試合を面白いとするサポーターや
観客がいるであろうかという視点から、ゴールを増やすことを主眼に置いたもの。
これは戦術を根本的に変える必要が起こる。ロングキックが復活し、ドリブラーが
目立たなくなる弊害は出てくるであろう。しかし、10対7とか5対4とかの大量得
点試合が普通になれば、圧倒的に観客を魅了することは必至である。これに伴
い副審が必要か否かも論議の対象となろう。副審2人の代わりに主審2人という
アイスホッケールールに変わるかもしれない。
6.ゴールライン・テクノロジーだけでなく昨年行われたクラブワールドカップで実施
されたビデオ判定も継続し普及させる。
7.ペナルティーキックについてもフィールドホッケー並みにペナルティーコーナー方
式に変更するということも検討する。
8.同点の場合の決着方法としてのPK戦の方法を再検討し新たな方法を設定する。
などなど大きな変更の提案も含まれている。もしこのようなドラスティックなルールが改正された場合、あなたが監督・コーチであったならどのようなシステムを組み戦いますか?
背の高いヘディングの強い選手を相手GKの前に置き、その後ろにこぼれ球をシュートできる選手を置くのか、サイドからのウイング攻撃を重視し攻めるのか、そのディフェンスはどうするのか、1800年代に採用されたFW8人、バック2人、GK1人に戻るのか。シミュレーションしてみてはどうでしょうか。
興味は尽きないが、実現するにはInternational Football Association Board(FIFA、England、Scotland、Wales、Northern Irelandの5団体)で決定されることになっている。
FIFAが率先して改革に乗り出したが、果たして伝統的な英国4か国の賛同が得られるか今後見守っていく必要があるだろう。英国人のメンタリティとしてルールを統括するのはレフリーであり、レフリーは人間である。従い間違えることもある。それでも判定には従うのがスポーツであるとする、ジェントルマンのプリンシプル(原則)があるからだ。
◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
89−04:日本サッカー協会欧州代表
94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
08 :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
近代フットボールのルールは1863年イングランドFAが発足、各地で行われていたルールを当時ケンブリッジ大学で行われていたルールに統一された。以降、時代に即して若干の変更はあったが、根幹のルールは変わることなく現在にまで来ている。
しかし、プレーが激しく速く展開するようになるにつれ、プレーの反則、ごまかし、審判の誤審、見逃しも多くなり、勝負をかける国、プロクラブ、熱狂的なサポーター、そしてフットボールを資金的に支えるスポンサーからの圧力もあり、得点が入ったのか入らなかったのかを公正無比に判定する手段としてビデオ判定が2014年のブラジルW杯より採用されている。
人間たる審判が唯一の判定決定者ではなくなったのである。ゴールラインテクノロジーの開発、採用によって機械が公正な判定をするようになってきたのだ。
このような傾向はフットボール以外のスポーツでも積極的に行われており、ラグビー、フィールドホッケー、アイスホッケーにおいても納得のいく公正な判定を機械的に下し、観客を魅了している。また罰則に対しても、試合の流れを変えず、公正な処置をするように改善されてきた。
例えばラグビーにおけるビデオ判定、シンビン制度、負傷者へのピッチでの治療、アドバンテージの採用、アイスホッケーのシンビン制度、フィールドホッケーにおけるペナルティーシュートの方式などである。
試合の流れを止めず、エキサイティングな試合展開を増長するためのルール改正は、これからのフットボールにおける課題となっていることからFIFAも重い腰をあげたのであろう。
その先頭に立って改革を計画しているのが、元オランダ代表ストライカー、ファン・バステンFIFA技術開発主幹(Chief officer of Technical Development)で、彼のルール改正の骨子は抜本的なものである。その内容を包括的にみてみよう。あくまでアイデアの段階ではあるが。
1.まず試合人数は常時11人対11人であること。
つまり退場者が出た場合でも、その退場者に代わる交代選手がピッチに入り、
11人対11人をキープすることである。10人となったチームがディフェンシブに
なり、試合に面白さがなくなることを回避したルールである。このルールは英国の
アマチュア試合とかプロの練習試合では数多く行われており、そのシステムを
一般化しようとするものである。
2.イエローカードに値するファールをした場合、ラグビーと同じくシンビン制度で10
分間の退場をさせる罰則を科す。
この10分間は11人対10人となる。このルールは上記1との整合性を今後詰め
ていく必要はあろう。
3.完全退場、シンビン退場者に対応するため現行の3人交代枠を拡大。
ラグビー方式での11人ないし7人交代枠を認める。負傷一時退場者が再度入
場することを容認する(その間一時交代者がプレーできる)。あるいは前半45分
間での退場者の交代は認めるが後半の退場者は認めないというルールもありう
るであろう。
4.同じ選手が4回(あるいは5回)以上ファールした場合(イエロー、レッドではなく)
交代させる。
5.オフサイドを廃止する。
昨今の国際試合では「負けないフットボール」が横行し0−0、1−0の試合が多
くエキサイティングではない。グループスポーツの中で一番得点が少ないスポー
ツがフットボールであり、90分得点が入らない試合を面白いとするサポーターや
観客がいるであろうかという視点から、ゴールを増やすことを主眼に置いたもの。
これは戦術を根本的に変える必要が起こる。ロングキックが復活し、ドリブラーが
目立たなくなる弊害は出てくるであろう。しかし、10対7とか5対4とかの大量得
点試合が普通になれば、圧倒的に観客を魅了することは必至である。これに伴
い副審が必要か否かも論議の対象となろう。副審2人の代わりに主審2人という
アイスホッケールールに変わるかもしれない。
6.ゴールライン・テクノロジーだけでなく昨年行われたクラブワールドカップで実施
されたビデオ判定も継続し普及させる。
7.ペナルティーキックについてもフィールドホッケー並みにペナルティーコーナー方
式に変更するということも検討する。
8.同点の場合の決着方法としてのPK戦の方法を再検討し新たな方法を設定する。
などなど大きな変更の提案も含まれている。もしこのようなドラスティックなルールが改正された場合、あなたが監督・コーチであったならどのようなシステムを組み戦いますか?
背の高いヘディングの強い選手を相手GKの前に置き、その後ろにこぼれ球をシュートできる選手を置くのか、サイドからのウイング攻撃を重視し攻めるのか、そのディフェンスはどうするのか、1800年代に採用されたFW8人、バック2人、GK1人に戻るのか。シミュレーションしてみてはどうでしょうか。
興味は尽きないが、実現するにはInternational Football Association Board(FIFA、England、Scotland、Wales、Northern Irelandの5団体)で決定されることになっている。
FIFAが率先して改革に乗り出したが、果たして伝統的な英国4か国の賛同が得られるか今後見守っていく必要があるだろう。英国人のメンタリティとしてルールを統括するのはレフリーであり、レフリーは人間である。従い間違えることもある。それでも判定には従うのがスポーツであるとする、ジェントルマンのプリンシプル(原則)があるからだ。
◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
89−04:日本サッカー協会欧州代表
94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
08 :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫