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ヨーロッパサッカー回廊『ロイ・ホッジソン』

12・05・15
 今年2月、イングランドキャプテンであったチェルシーのジョン・テリーのアントン・ファーディナンド(代表のレオの弟)への人種差別発言に端を発し、The FAがテリーのキャプテンの任を取り上げたことに反発し、カペッロがイングランドの監督を辞任。その後任にロイ・ホッジソンが任命された。ユーロまであとわずか1か月半の猶予しかない中での任命である。

 カペッロ監督辞任後、大多数のジャーナリスト及びイングランドサポーターはトッテナム・ホットスパーの監督ハリー・レドナップがその任に就くことを期待していたが、The FAの会長バーンスタインはホッジソンの国際経験を買って任命に踏み切ったのである。

 ここ10年、イングランドの監督はマックラーレンが06年から07年イングランド人として指揮を執っただけで、2000年から初めての外国人監督として任命されたスウェーデン人、エリクソンが2001年から2006年まで指揮を執り、その後2008年からは「イングリッシュにはイングリッシュ監督を」との声にもかかわらず、The FAはイタリア人カペッロに監督を任せた。

 しかし、カペッロ監督は英語をマスターすることなく、代表選手とのコミュニケーションが取れず、また2010年南アフリカワールドカップでは厳しい合宿生活を課し、選手のモチベーションも上がらず敗退、内外から更迭の声が出ていた。

 では、ホッジソン監督とはどんな人物か―

 彼はロンドン南部の生まれでグラマースクール出身、クリスタルパレスの選手でもあったが22歳でユースコーチに任命されて以来、コーチ専門の経歴を経ている。76年にはスウェーデンに渡り、ハルムスタッドの監督でスウェーデンリーグを制覇、その後はマルモの監督を経て90年からスイスに渡りニューシャテル・ザマックスの監督、そしてスイス代表監督に就任、1994年アメリカワールドカップ出場の経験を持つ。

 余談だが、筆者は当時サンフレッチェ広島のGMとしてザマックスの選手を獲得に行った際、ホッジソン監督には選手の評価を語ってもらった経験がある。紳士であり、彼の戦術眼は当時から注目されていた。

 その後イタリア・インターミランの監督、ウヂネーゼ監督、そしてフィンランド代表監督も経験、やっとその実績を認められてイングランドに戻ったのは2007年フラムの監督になってからである。フラムをUEFAカップの決勝へ導き(敗退したが)一躍、イングランドでもホッジソンの名前が注目されてきたのである。次のリバプールでは戦績上がらずシーズン途中に更迭の憂き目にあったが、昨年からWBAFCの指揮を執り、降格候補のチームを今年は10位まで上げている。

 久し振りのイングリッシュによるイングランド代表は果たして6月のユーロでどこまでいけるのか、ルーニーが予選2試合出場停止のなかでイングランドの3位以内の期待に対しどのような選手を選ぶのか、またどうモチベーションを上げられるのか、いつも冷ややかなメディアの中で耐えられるのかも試されている。ただ一つの特点は本命がレドナップであったことで、メディアもサポーターもホッジソンにそれほどの期待をかけていない点であろう。

 選手からすればやっと自国の言葉がわかる監督が来たという安心感はあるだけに一つにまとまる可能性は高い。

 過去、イングランドで成功した監督としては66年のワールドカップで優勝させたラムゼーも、90年イタリア大会で準決勝まで進んだロブソンも、そして96年ユーロで準決勝まで進めたベナブルスも総じてタクティカルで冷静な監督であった。ロブソンもオランダ、スペイン、ベナブルスもスペインでの外国チーム指揮の経験者でもある。筆者も両氏には何度となく会ってフットボール談義を交わしたが、その眼力は卓越したものがあった。

 またホッジソンはサポートスタッフの選任でも特色を出し、監督と選手の年齢、時代差を考慮し、元MUのギャリー・ネビルをコーチに起用するものとみられている。これからの選手選択の課題は果たしてファーディナンドとテリー両者を選ぶのか、1人にするか、また誰をキャプテンにするのか、次の2014年ブラジルワールドカップを見据えて若手の誰を選ぶのかであろう。

 ホッジソンの評価も最近では上がり、冷静に見て、期待に応えられる監督として結果を出すのではないかとみられている。年齢は64歳だが、ナショナルチームの監督は60歳以上が適任というMUのアレックス・ファーガソンの言葉もあり、今年のユーロに注目したい。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫