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ヨーロッパサッカー回廊『The FA Youth C upの行方』

11・05・19
 イングランドのフットボールシーズンもこの5月21日で終了する。プレミアはまだ1試合を残して、マンチェスターユナイテッドのアレックス・ファーガソン監督が1986年に就任して以来9回目の優勝を遂げた。クラブとしては通算19回目となり、今までの記録を持つリバプールの18回を越えた。

 そのマンチェスターユナイテッドはFAカップこそ逃したが、5月28日のUEFAチャンピオンズリーグの決勝戦をスペイン、メッシを擁するバロセロナとイングランドウエンブレイスタジアムで対戦する。2冠も夢ではない。

 そしてもう一つ、3冠目を賭けた試合が5月20日に行われる。「The FA Youth Cup」である。1992年ファーガソン監督が手塩にかけたゴールデンボーイズのギッグス、ベッカム、スコールス、バット、そしてキャプテンガリー・ネビルがこの「The FA Youth Cup」を勝ち取り、その後のユナイテッドの中枢として活躍した。今年もギッグス37歳、スコールス36歳のベテランがチームを引っ張って優勝したことは、いかにホームグロウン選手を育て、チームの中心に置くかがそのクラブの発展につながるかを証明している。

 過去9回優勝の歴史を持つマンチェスターユナイテッドユースに更に栄光が輝くか。次代を背負う若手の選手のはつらつとしたプレーは、過去にも2003年の準決勝戦アーセナル対マンチェスターユナイテッド戦で38,187人のサポーターが詰めかけている。

 このユースカップから多くの代表選手が出ていることも決して2番手3番手の試合ではないことを物語っている。ジョージ・ベスト、ジョン・バーンズ、ギッグス、ランバード、オーエン、ジェラード、ルーニーも名を連ねている。

 さて今年のマンチェスターユナイテッドの相手はというと、クラブとしては1889年創立の古豪ながら近年はプレミアの下部に当たる、チャンピオンシップに属すシェフィールドユナイテッドとなった。今シーズン、トップチームはあえなく23位と低迷し、リーグ1に降格が決まった矢先のユースカップ決勝戦である。その1回戦はシェフィールドの地元ブラマルレーンで行われ、結果は2−2と同点で終わり、10回目の優勝を賭けた戦いは5月20日にマンチェスターユナイテッドのホームで行われる。

 このシェフィールドユナイテッドでの1回戦には29,977人ものサポーターが詰めかけ、今シーズン、シェフィールドでのトップの試合の最高観客数23,728人を上回った記録を作った。トップチームのふがいなさに飽きていた熱烈なサポーターがユースの初優勝に期待を寄せてスタジアムに集まったのであろう。彼らこそ近未来にチャンピオンシップへの昇格、そしてプレミア(2006/2007年に上がっている)への道を託す我が選手たちなのである。

 果たして結果はどうなるか。マンチェスターユナイテッドは今や世界のトップフットボール企業ながら地道にユースを育てていくクラブであることは知られている。ユースと言えどもFAアカデミー制度の中で提唱している地元の選手ばかりではない。外国の才能ある選手もそのスカウト網で契約し連れてきている。

 しかるにシェフィールドユナイテッドは財政的にも外国人ユース選手を抱えるだけの余裕はない。地元の選手だけでの決勝戦である。ユース監督の通称ペンボ(ペンバートン)は「我々は決して才能があるわけではないがチーム一丸となって勝つというメンタリテイだけはある。フットボールはもちろん技術も戦術もそして体力も必要であるが、この年代ではお互い助け合うカバリング、そして相互理解によって各選手個人個人のよさを引き出すことが重要なことだ。チームワークも一つの技術、戦術なのだ。我々の強みは1回戦でも先行されながらも同点に追いつくチームワークだ」と強調している。

 さあどちらが勝つか―。

 イングリッシュFAも1997年スタートのアカデミー制度の見直しを行い2013年には新たなスキームが実施されることになっている。このシェフィールドユナイテッドの生き方は反映されるのであろうか。資金力あるクラブだけが選手を生み出せるのかの実験台としても5月20日は注目されている。


◆筆者プロフィル
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫