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一覧に戻るヨーロッパフットボール回廊『古豪MU復活か?プレミアの監督・ヘッドコーチ(HC)とは』
26・02・18
監督が代わればチームも変わるのか。このアイロニーを如実に表したのがマンチェスター・ユナイテッド(以下MU)であろう。
1月5日に発表されたルベン・アモリムヘッドコーチ(HC)の更迭は、それまでの戦績ですべてのカップ戦敗退、プレミアリーグ6位の無残な結果から遅きに失した感があった。代理監督としてU18コーチ、ダレン・フレッチャーが任命されたが、惨めなチームを立て直すすべもなく、1月13日に今シーズン限りの契約で元MUの選手であったマイケル・カーリックHCが後を託された。
カーリックは現役時代、ウエストハム・ユナイテッドからトッテナム・ホットスパーズを経て、当時のファーガソン監督が中盤のボランチとして2006年に移籍で獲得、MUの黄金時代を経験した選手であった。2018年に引退した後はMUのアカデミースタッフに加わり、2021年11月21日にはソルシアー元監督の後任でトップチームの暫定監督に就任したが、12月2日に退任しクラブを去っていた。2022年にはミドルスブラ(2部にあたるチャンピオンシップ所属)の監督に就任し昨季まで指揮を執っていた。
彼を監督に任命したMUは生き返った。ただ今季限りの暫定なので「当面は」という但し書きが付くが。まず1月17日のデビュー戦は、宿敵マンチェスターシティとのマンチェスターダービー戦で2−0で勝利した。
この試合からカーリックは前任者アモリムが採用していたシステム3−4−2−1の3バックシステムを4−2−2−1の4バックスに変更し、ファーガソン元監督黄金期以来のシステムに変更した。この効果はMUの選手を蘇えらせた。MUのDNA復帰であり、4バックスには元キャプテン、マグワイヤーとアルゼンチン代表CBマルチネスのコンビがセンター2バックスとなり左FBにはショーを、右FBにはダロットを配し過去の守備陣の穴を埋めた。3バックスの空いたスペースを埋め守備が堅固となった。
中盤にはMU生え抜きユース上がりイングランド代表選手のメイヌー(前HCのアモリムがクラブキャプテンのフェルナンデスと同じポジションという理由で使わず、年明けには他チームへの移籍がほぼ確実であった選手)をカーリックHCはレギュラーに復帰させ、移籍を断った。今年のW杯にはイングランド代表選手としての期待も込めて、中盤のアンカーマンとして起用、バックスと中盤のバランスが良くなった。
更に日替わりのように攻撃陣を変えていたアモリム前HCから本来のMUスタイルのスピードあるトップ陣に変更、馬車馬的スピードのある、ムベウモそして前HCの時には細かい指示に対応しきれていなかったストライカー、セシュコの復活もありカーリック率いる新生MUの成績は下記の通り負け無しで推移している。
1月17日第22節:対MC戦ホーム2−0勝利
(得点:ムベウモ、ドルグ)
1月25日第23節:対アーセナル戦アウエー3−2勝利
(得点:ムベウモ、ドルグ、クーニャ)
2月1日第24節:対フラム戦:ホーム3−2勝利
(得点:カゼミーロ、クーニャ、セシュコ)
2月7日第25節:対トッテナム・スパーズ戦:ホーム2−0の勝利
(得点:ムベウモ、フェルナンデス)
2月10日第26節:対ウエストハム戦アウエー:1−1の引き分け
(得点セシュコ)
2月14日現在、プレミアリーグ4位となっておりこのままいけば来シーズンUEFAチャンピオンズリーグへの出場権が得られる。
なぜカーリックは今の所MUで成功しているのか? 答えは今シーズン終了まで待たねばならないが、現段階で言えることは次のような事であろう。
*彼はイングリッシュであり、多国籍の選手に、そしてホームアカデミー出身選手に対して、明確な言葉、英語で指示を出し、選手の持ち味を最大限引き出していることであろう。
2013年ファーガソン元監督が引退後はモイーズ(イングリッシュ)が務めたが、以降はオランダのファン・ゴール監督、モリーニョ(ポルトガル)、ソルシャー(ノルウェー)、ラングニック(ドイツ)、テン・ハグ(オランダ)、ニステルローイ(オランダ)、アモリム(ポルトガル)とヨーロッパ人HCが12年に渡り指揮してきたがプレミア優勝という栄誉を勝ち取ることは出来なかった。
英語が堪能とは言え、人間の機微にわたる表現での意思疎通は難しく選手との機微にわたるやり取りも十分出来ていなかった。MUにとってはカーリックこそファーガソン元監督・モイーズ元監督以降初めてのイングリッシュとして就任したHCなのだ。
*外国籍HCにとってはMUのHCならば成功して当たり前という観点から、自己のシステムに固執し柔軟性ある指揮が得てして取れず、頑固にHCの特異なシステムを試行することが多いため、柔軟性を欠き選手との齟齬が発生し、結果的には勝利のホーミュラ(公式)が描けなくなってしまったのではないだろうか。
*外国人HCはほとんどの場合、アシスタントとして彼のスタッフをコーチとして引き連れ、就任する。言葉及び国民性が異なる集団との協働に選手からはEnjoyする場を失いパフォーマンスが落ちてくる。
*そこでカーリックはアシスタントコーチに元イングランド代表U21及びトップイングランド代表チームのホランドコーチを任命し毎日のトレーニングを行っている。ホランドコーチは2017年から24年までイングランド代表チームのアシスタントコーチとして先のW杯帯同サウスゲート元監督の片腕として活躍していた名コーチである。
*一方、戦術面からはカーリックがMUに在籍していた当時から両翼からのスピードのある攻撃が武器となり優勝の栄誉を勝ち取っていた伝統を引き継ぐべく、フォワード陣のムブムー(カメルーン代表)、ドルグ(ドイツ代表)の突破力が生かされ、カーリック就任以降5試合11点を挙げている。これからのプレミアに旋風をもたらす兆しが見え、過去12年にわたりトロフィーから遠ざかっていた暗黒期を払拭するシーズンになりそうである。
フットボールは集団スポーツ、その集団が一致同行して初めて勝ちに繋がり栄誉に繋がるのだ。これから後2か月半シーズンプレミアは熱い闘いを続けていく。そしてクラブDNAを発揮できなければ下位へ転落するのがフットボールの宿命であろう。果たして今シーズンプレミアの覇者はアーセナルなのか、はたまたMCなのかまだまだ激戦が続く。
MUもやっとHC交代でその戦線に片足を乗せたばかりだ。請うご期待!
◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
89−94:日本サッカー協会欧州代表
94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫











