サッカーアラカルチョ
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24・01・16
新年あけましておめでとうございます。
世界中紛争に明け暮れ、また転変地異にまみれた年明けでしたが、何とか人間の叡智(えいち)で平穏な世の中になって欲しいものです。
さて、昨年末から約2週間が経ち、例年ならプレミアリーグの正月決戦が繰り広げられる時期だが、今年はアフリカ・カップとアジア・カップが年明けこの1月から始まったこともあり、ヨーロッパで活躍するアフリカ、アジアの選手が不在。その日程上の問題からイングランドではリーグカップの準決勝及びThe FAカップの3回戦が行われ、リーグ戦は1月12日から再開となった。ヨーロッパをみてもスペインスーパーカップも1月10日に行われリーグはいったん休憩の時期となっている。
1月15日現在のイングランドプレミアリーグの順位は
1位:リバプール:勝点45
2位:マンチェスターシティ:勝点43
3位:アストンビラ:勝点43
4位:アーセナル:勝点40
5位:スパーズ:勝点40
6位:ウエストハム:勝点34となっており上位4強の覇権争いとなってきている。
シーズン初めの移籍総額434百万ポンド=782億円のチェルシーはスカウティングの失敗と新監督のポッチェティーノの手腕をしても勝利に結びつかず勝点31で8位と低迷している。
クラブ売却騒動と監督と選手の軋轢(あつれき)からチームプレーとは言えないマンチェスターユナイテッド(以下MU)は勝点32と7位に位置しており、トップチームとは言えず中堅チームに成り下がっている。おまけにUEFAチャンピオンズリーグでもグループ最下位となり、来シーズンの出場資格も獲得出来ず。イングランドリーグカップでも11月にニューキャッスルに0−3で敗退しており、タイトルのチャンスは今の所FAカップしか残っていない惨状である。
前半戦トップ4に位置していたニューキャッスルは最近5試合で1勝しか挙げられず、10位に転落。ジョウデイ(ニューキャッスル地域の人々の別名)の熱烈なサポーターを失望させている。サウジの資本を入れ潤沢な移籍金で選手を獲得しているが、一方では勝点10ポイントを剥奪されたエバートンと同じくFFP(UEFA Financial Fair Play Regulation=クラブの移籍金及び人件費の総額がクラブ収入を上回ってはいけない。借入金での補填も不可とするUEFA加盟クラブの財政的規則)の条件を満たさないのでは―と疑惑を持たれていることもチームの不振のもとになっているのではとも言われている。
FFPとは何か? もう少し解説してみよう。
このFFP違反の疑いを掛けられているチームはプレミアには多いことも事実である。アブダビ首長国の資本を受け入れているマンチェスターシティも調査の対象となっており、今後の補強に支障をきたす可能性もある。プレミアリーグトップ6のうち、このFFPに触れないクラブとしてはアーセナルが比較的健全な経営をしていると言われているが、今後各チームはむやみやたらな高額での補強をする事での勝点剥奪の罰則適用もあり得ることも肝に銘じておく必要はあると言えよう。
プレミアリーグの冬の移籍シーズンは1月1日より解禁となり1月31日に閉じる。この間、MUのように常時トップを宿命化されているクラブは何とか補強しトップの座を狙っている。しかしこのFFPが足かせとなりむやみに補強は出来ない。
そこで選手の合理化、つまり選手を放出し人件費を抑え、また補強するにしても完全移籍ではなくローン(期限付き移籍)での選手の補強、放出をすることでコストセーブをし、FFPに抵触しない方法を採っているクラブが多いのも事実だ。
今シーズン話題になったMUの若手トップ選手サンチョは監督テン・ハグと合わず、監督は「サンチョは遅刻常習者であり、練習でも手を抜いている。トップチームから外し、練習参加を禁止する」とし移籍先を模索していた。70百万ポンド(130億円)でドイツのドルトムンドから獲得したイングランド代表選手である。彼を干したまま給与を支払い、移籍金支出勘定に入れていれば、いずれFFPに抵触する材料となり、クラブの勝点剥奪、罰金等が降りかかることになる。そのため本人は移籍を希望していたが、MUの25%資本を獲得した新役員(CEO)ラットクリフ氏(フットボール部門のトップ)の口添えで結局この冬の移籍期間に古巣のドルトムンドへローンで貸し出すことに決めた(わずか3,4百万ポンドのローンで)。
そのサンチョは移籍後のブンデスリーグ戦で貴重なアシストし勝利に結びつけた。まるで「俺はまだ生きているぞ!」とMUのテン・ハグ監督に訴えるが如く。
選手も人の子、環境改善すれば瀕馬も駿馬になった例であろうか。監督と選手どちらも人間でありお互いが尊重してチームを作り、勝利に導くのがManagerの仕事であろう。
それでは皆様にとってより良き年でありますように。
◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
89−94:日本サッカー協会欧州代表
94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
世界中紛争に明け暮れ、また転変地異にまみれた年明けでしたが、何とか人間の叡智(えいち)で平穏な世の中になって欲しいものです。
さて、昨年末から約2週間が経ち、例年ならプレミアリーグの正月決戦が繰り広げられる時期だが、今年はアフリカ・カップとアジア・カップが年明けこの1月から始まったこともあり、ヨーロッパで活躍するアフリカ、アジアの選手が不在。その日程上の問題からイングランドではリーグカップの準決勝及びThe FAカップの3回戦が行われ、リーグ戦は1月12日から再開となった。ヨーロッパをみてもスペインスーパーカップも1月10日に行われリーグはいったん休憩の時期となっている。
1月15日現在のイングランドプレミアリーグの順位は
1位:リバプール:勝点45
2位:マンチェスターシティ:勝点43
3位:アストンビラ:勝点43
4位:アーセナル:勝点40
5位:スパーズ:勝点40
6位:ウエストハム:勝点34となっており上位4強の覇権争いとなってきている。
シーズン初めの移籍総額434百万ポンド=782億円のチェルシーはスカウティングの失敗と新監督のポッチェティーノの手腕をしても勝利に結びつかず勝点31で8位と低迷している。
クラブ売却騒動と監督と選手の軋轢(あつれき)からチームプレーとは言えないマンチェスターユナイテッド(以下MU)は勝点32と7位に位置しており、トップチームとは言えず中堅チームに成り下がっている。おまけにUEFAチャンピオンズリーグでもグループ最下位となり、来シーズンの出場資格も獲得出来ず。イングランドリーグカップでも11月にニューキャッスルに0−3で敗退しており、タイトルのチャンスは今の所FAカップしか残っていない惨状である。
前半戦トップ4に位置していたニューキャッスルは最近5試合で1勝しか挙げられず、10位に転落。ジョウデイ(ニューキャッスル地域の人々の別名)の熱烈なサポーターを失望させている。サウジの資本を入れ潤沢な移籍金で選手を獲得しているが、一方では勝点10ポイントを剥奪されたエバートンと同じくFFP(UEFA Financial Fair Play Regulation=クラブの移籍金及び人件費の総額がクラブ収入を上回ってはいけない。借入金での補填も不可とするUEFA加盟クラブの財政的規則)の条件を満たさないのでは―と疑惑を持たれていることもチームの不振のもとになっているのではとも言われている。
FFPとは何か? もう少し解説してみよう。
このFFP違反の疑いを掛けられているチームはプレミアには多いことも事実である。アブダビ首長国の資本を受け入れているマンチェスターシティも調査の対象となっており、今後の補強に支障をきたす可能性もある。プレミアリーグトップ6のうち、このFFPに触れないクラブとしてはアーセナルが比較的健全な経営をしていると言われているが、今後各チームはむやみやたらな高額での補強をする事での勝点剥奪の罰則適用もあり得ることも肝に銘じておく必要はあると言えよう。
プレミアリーグの冬の移籍シーズンは1月1日より解禁となり1月31日に閉じる。この間、MUのように常時トップを宿命化されているクラブは何とか補強しトップの座を狙っている。しかしこのFFPが足かせとなりむやみに補強は出来ない。
そこで選手の合理化、つまり選手を放出し人件費を抑え、また補強するにしても完全移籍ではなくローン(期限付き移籍)での選手の補強、放出をすることでコストセーブをし、FFPに抵触しない方法を採っているクラブが多いのも事実だ。
今シーズン話題になったMUの若手トップ選手サンチョは監督テン・ハグと合わず、監督は「サンチョは遅刻常習者であり、練習でも手を抜いている。トップチームから外し、練習参加を禁止する」とし移籍先を模索していた。70百万ポンド(130億円)でドイツのドルトムンドから獲得したイングランド代表選手である。彼を干したまま給与を支払い、移籍金支出勘定に入れていれば、いずれFFPに抵触する材料となり、クラブの勝点剥奪、罰金等が降りかかることになる。そのため本人は移籍を希望していたが、MUの25%資本を獲得した新役員(CEO)ラットクリフ氏(フットボール部門のトップ)の口添えで結局この冬の移籍期間に古巣のドルトムンドへローンで貸し出すことに決めた(わずか3,4百万ポンドのローンで)。
そのサンチョは移籍後のブンデスリーグ戦で貴重なアシストし勝利に結びつけた。まるで「俺はまだ生きているぞ!」とMUのテン・ハグ監督に訴えるが如く。
選手も人の子、環境改善すれば瀕馬も駿馬になった例であろうか。監督と選手どちらも人間でありお互いが尊重してチームを作り、勝利に導くのがManagerの仕事であろう。
それでは皆様にとってより良き年でありますように。
◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
89−94:日本サッカー協会欧州代表
94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫