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ヨーロッパフットボール回廊『フットボール栄華の陰で何が?』

23・02・14
 ■1月31日ヨーロッパ冬の移籍シーズンが幕を閉めた。シーズンなかばの選手補強に躍起のクラブもあれば、現状維持で夏の移籍シーズンに掛けるクラブもある。しかしタイトルを賭け、ベスト4を確保し、次年度のヨーロッパ・チャンピオンズリーグに入ることを使命としている、いわゆるビッグクラブにとってはその資金を盾に移籍金に糸目をつけず補強に走るのは当然のこととしている。

 一方、選手の立場からはトップクラブで戦えるだけではなく、高額な報酬を得られる絶好な機会であり、選手に価格を付け、売り、買うのである。更に選手の代理人エージェントにとっても移籍金額が高く成ればなるほどその手数料が上がり、富める者はますます富むという縮図のマネーゲームになってきている。

 その結果はどうであったか?

 まず移籍金支払い金額ナンバーワンのヨーロッパのリーグは英国プレミアリーグであった。その総金額は今年の冬シーズンで736百万ポンド=1,150億円にも上る。

 次いで、フランスリーグ1でプレミアのわずか15%の116百万ポンド(181億円)、ドイツブンデスリーグが60百万ポンド(94億円)そしてスペインラ・リーガが28.4百万ポンド(44億円)イタリアは27.5百万ポンド(43億円)と続く。プレミアの移籍市場はバブル化し他国の追随を許さない程の高額となっているのだ。

 最高移籍額選手はプレミアのチェルシーに加入のアルゼンチン出身のエンゾー・フェルナンデス(ベンフィカ・リスボン)であり、その移籍金は1億ポンドを超える1.07億ポンド(167億円)というもの。これぞ英国プレミアリーグなのか? ちなみにチェルシーはこの冬の移籍期間に8人の選手を獲得しているが、トップ選手全員で32名となり選手登録が出来ない選手も出てきている。監督のポッターも頭を悩ませていると言われている。

 そのチェルシーは2月11日、ウエストハムとのロンドンダービー戦では移籍効果はなく1−1の引き分け、相変わらずリーグ9位と低迷している事には変わらない。チェルシーのこの冬の移籍金総額は320百万ポンド=500億円と独、仏、伊、スペインの移籍金合計総額を超えており、断トツトップ。皮肉な結果となっている。マネーゲームの成れの果てになるのか興味ある事実でもある。


 ■そして現在アーセナルを追う2位マンチェスターシテイ(以下MC)にこれまたマネーゲームでの成れの果てになるのか? というスキャンダルが発生して来たのである。

 そもそもの経緯は2020年、UEFAが「MCは2009年から2018年にわたって『Financial Fair Play=FFP』に違反し、スポンサーへの支払い金額を粉飾していた。かつ、その資金が実際にはオーナーであるアブダビの首長から供与されていたと認定(これもUEFA ルールに反する)。更にマネージャーもアブダビ首長の会社が契約しているとのことでMCを処分する事を決めた」ことから起因している。

 この件については、MCがCAS(スイスにあるスポーツ仲裁裁判所)へ上訴した結果、CASの判決はその事実認証はなかったとし、UEFAの処分は取り消された。

 しかし今回はこの問題をプレミアリーグ(以下PL)が取り上げ「審査やり直しをする」と宣言、「今後再審議しその結果で処分をする」と発表したのである。その理由は「UAEの首長であるオーナーがクラブを保有することは国営クラブとみなされFFPの趣旨に反する」という点である。PLはPL内に独立した調査団を結成し調査するとしている。

 その審議でプレミアのFFP規約に反していると判断されれば
1.罰金
2.勝ち点減額
3.プレミアリーグからの除名の措置が取られることになる。この場合は、マンチェスター近郊の地方リーグから始まり、プロリーグの4部(現在はプロリーグ2部)から1部、そしてチャンピオンズシップを経てプレミアへ復活できるが最低でも5年はかかることになる。

 PLは本件を英国政府のスポーツ担当省にも報告するとしている。もし勧告がPLからMCへ出された場合、MCは再度CASへ訴えることになると言われている。MC監督ペップ・グアルディアラは「もしそのような判決が出た場合は辞任する」と言っており、今後のMCの動向から目を離せない。これまたマネーゲームの為せる業か?


 ■そしてもう一つのマネーゲームは一旦姿を消した『Europe Super League(ESL)』の亡霊がよみがえってきたのだ。『A22 Sports Management』なるスポーツマネージメント会社が、新たに『European League(EL)』の再興を図ったコンセプトを発表しUEFAへ投げかけたのである。

 スキームは提唱者のライチャート氏(ドイツ人)によれば、構成はヨーロッパのクラブ60〜80チームに参加してもらい、1シーズン14試合保障し、他は国内リーグ試合を充てるというもの。まだ詳細は明らかではないが、つぶれたESLに対抗できるスキームとするというもの。

 この構想に真っ先に反対を表明したのはスペインの会長タバス氏で、「ESLがつぶれた今、またこのような汎ヨーロッパ横断的リーグを作るのは、スポンサー、サポーターの賛成を得られない」と批判している。

 英国ではサポーターのバックアップは得られないのでは−とこの構想に懐疑的である。

 今やアメリカのアメフット、バスケ、ベースボールのスポーツ・マネージメントシステムとフランチャイズシステムがその豊富な資金でヨーロッパのホームアンドアウエーシステムのフットボールに侵入し席巻しようとしているのではないかと思われる。

 その一方で世界を目指す日本のスポーツ界は今後どこへ向かうのであろうか?


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫