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ヨーロッパフットボール回廊『ヨーロッパ戦線波瀾の幕開け』

26・01・17
 新年明けましておめでとうございます。世界の情勢が混沌となり戦争と平和の行く末はどこに収まるのかが問われる年明けとなりました。そしてヨーロッパのフットボールも波乱含みの新年を迎えました。

 まずは年越し交代ともいえるビッグチームの監督更迭が起こり、一方では下部リーグのクラブがトップリーグのクラブに勝利するジャイアントキラーも出現しました。


■監督更迭その1
 チェルシー:今シーズン前7月に行われたクラブ世界選手権大会に優勝し、今シーズンへの期待がかけられていたチェルシーはプレミアリーグ優勝の目標を掲げていたが新年1月1日に監督エンゾー・マレスカ(イタリア人)がクラブ首脳との確執により突然更迭された。

 後任にはチェルシーと関連会社登録となっているフランス・ストラスブルグ(フレンチリーグ1部7位)の監督であるライアム・ロシニオーが呼ばれ急遽指揮を執ることになった。彼の最初の試合はThe FAカップ3回戦対チャールトンであったが5−1とアウエーで勝ちまずまずの滑り出しとなった。1月14日時点リーグ順位は8位と下がっており来季のヨーロッパチャンピオンズリーグの切符が取れるのかこれからの勝負である(リーグトップ5クラブが出場権を得られる)。


■監督更迭その2
 マンチェスター・ユナイテッド(MU):アレックス・ファーガソン監督が2013年引退して以降、12年間で代理監督含め10名の監督が任命され更迭されている。財政的には世界一ともいわれるクラブではあるが、この12年間覇権を勝ち取ることなく低迷し、今年もアモリムヘッドコーチ(注:MUヘッドコーチ(HC)として契約している)の指揮のもと、何とか現在7位に位置しているが厳しい状況に置かれていた。

 そして1月4日、英国百年戦争後の「薔薇戦争」当事者であるランカシャー(赤バラ)のMUとヨークシャー(白バラ)のリーズのプレミアリーグがリーズのホームで行われた。結果は1−1の引き分けながらアモリムHCは記者会見の席上、自分を監督(Manager)と呼び、MUの実質チーム責任者であるDirector of Football(フットボールの実質取締役)ジェーソン・ウイルコックス氏の逆鱗に触れ、即刻更迭の処置を取らされたのである。

 就任当時から彼自身のリスボンでの成功例である3バックスシステム3−4−2−1に固執しファーガソン以降のHCとしては最悪の成績(昨シーズン15位、今シーズンは現在6位)を示していた。その中多くの熱烈なサポーター、そして『The Class of 92(ベッカム、ネビル兄弟、スコールス、バット、ギッグス)』と言われるユースからの生え抜き選手を軸としたチーム作りで優勝を勝ち得た伝統を壊すコーチとして遅かれ早かれ更迭されると言われていただけに電撃的ながら妥当な判断であったと思われる。

 後任にはMUをよく知るコーチ(Manchester DNAを継承する)を任命するとし、短期的にはまずU21のコーチである生え抜きともいえるダーレン・フレッチャーを任命した。しかしプレミアの19位のバーンレイに2−2の引き分け、次のThe FAカップ3回戦ホームでのブライトン戦に1−2と敗戦し、フレッチャー代理ヘッドコーチの役目は終わった。そして新たにMU生え抜きのイングランド代表選手でもあったマイケル・カーリックを今シーズンの代理HCとして任命したのである。

 今後残された試合はプレミアの17試合のみとなったMU。Manchester DNAを持つヘッドコーチの手腕はどうなるのか注目したい(今季はカップ戦全て敗退したため残り試合はプレミアの試合のみとなった)。


■監督更迭その3
 スコットランドのセルチック:監督ウイルフレッド・ナンシーはわずか33日で更迭された。日本人選手、前田、旗手らを擁するスコットランドの名門セルチック(カソリック系のクラブ)は、近年常勝クラブとして輝いていたが今シーズンは宿敵グラスゴー・レンジャーズに首位の座を渡しており、その責を取ってロジャーズ元監督は更迭され、後任にマーチン・オニール監督が代理監督として就任していたが、クラブはアメリカMSLで好成績を上げたナンシーを正式に監督として12月に就任させた。しかし8試合で2勝しか挙げられず、クラブは即刻1月5日更迭した。わずか33日間の最短記録の監督となった。後任は前監督のマーチン・オニールが就任、現在2位。トップのハーツを追い、同勝ち点の3位レンジャーズに追われている。ナンシー監督はアメリカのリーグで好成績を挙げた監督ながらヨーロッパの激烈な闘いの中で勝つための戦術に乏しかったと言われている。


■監督辞任
 スペインのリアル・マドリッド:監督のアロンソがスペインスーパーカップの決勝戦で宿敵バロセロナに2−3と敗れ辞任した。会長ペレスとのコミュニケーション不足及び一部選手とのあつれきなどによるとされている。アロンソはスペインのレアル・ソシエダB、ドイツのレイバクーゼンを指揮し将来の名コーチになるとみなされていただけに今後の動向に注目したい。


■ジャイアントキラー
 The FA Cup3回戦、前年度の覇者クリスタルパレス(プレミアリーグ)に対抗したのは、プレミアから117番目に位置するアマチュア主体のノンリーグ(Non League)のチーム、マカレス・フィールドFC。マンチェスター南部に位置する町のチームが巨人に対抗し2−1と勝利したのである。
 今季リーグカップ2回戦でMUをPK戦で破ったリーグ2(上から4部)のグリムスビーFC以来の今年最大のジャイアントキラーと言われている。


 なお名門クラブは、MU以外にも独自のDNAを持っていると言われている。

1)LiverpoolはBoot RoomがチームDNAである。Boot Roomとはスパイクシューズの事でこの保管場所が監督、コーチのたまり場であった事より歴代監督はこのBoot Roomから出ている。ビル・シャンクリー監督がその創設者と言われている

2)バロセロナはPossession、ボールをキープする事がDNAとなっている。

3)アヤックスはTotal Football(=10人攻撃、10人守備)がDNA。その立役者はヨハン・クライフであった。

4)レアル・マドリッドはWining(勝つこと)がDNAであると言われている。

4)West HamユナイテッドのDNAはアカデミーと言われている。イングランドユース育成機関をアカデミーというのはこのWest Hamがアカデミーと称していたからでもある。
 ちなみに日本もJリーグ発足時、各プロクラブはアカデミーを持つことを義務付けたのはこのWest Hamの仕組みを継承したからでもある(筆者はJリーグ黎明期にプロクラブはアカデミーを持つことを提唱し、ヨーロッパ各国の育成制度のミッションを組み、結果アカデミー制度を日本も採用した事が今日の日本が強くなった一因でもあると自負している)

 さて皆様のクラブのDNAは何?


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−94:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫