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一覧に戻る大津一貴のエンジョイフットボールライフ『海外の給料未払い対処法』
21・05・11
上写真/2019年のモンゴルリーグ・FCウランバートルで、未払い真っ最中でもプレーする大津選手
2021年5月2日、日本代表FWの浅野拓磨選手が自身のインスタグラムで「度重なる給料等の未払い、またそれに対する不誠実な対応により、クラブからのリスペクトを感じられなくなった」として、所属先であったセルビアリーグの名門、パルチザン・ベオグラード(以下:パルチザン)との契約解除を発表しました。
この報道に対してクラブ側は、「根拠のない退団であり、契約違反である。FIFAの管轄機関へ訴える」として反論し、サッカー界をにぎわすニュースに発展しています。
日本のJリーグを始め、日本社会ではあまり耳にしない『給料未払い』の問題ですが、世界各国ではこのような問題が横行しています。そして、何を隠そう私自身も、かつて「給料未払い」を経験した選手の1人です。
そこで今回は、海外サッカーにおける『給料未払い』について、考えていきます。
●不利な状況に陥るのは選手側
まず、今回の浅野選手のケースを整理します。
浅野選手は、所属先であるパルチザンからの給料を受け取っていない状況でした。このような契約違反の状況に陥った場合、FIFAでは選手を守る目的で規則が設けられています。その内容は以下の通りです。
「2度(2か月)給料が遅れた場合、選手はクラブに公式のリクエスト(レター)を送り、15日以内に回答を受ける権利がある。そして、その答えにかかわらず一方的に契約を選手側から解除する権利も得る」
この規則に従い、浅野選手はパルチザンとの契約を自ら解除した、というのが今回の事例です。
特に外国人選手にとっては、給料が遅れた場合に「現地に頼る人すらいない…」という状況も大いに考えられます。一部の報道によれば、浅野選手が住む自宅に家賃の取り立ても来ていたとか…。本来であればクラブが支払う約束になっていた家賃も、支払われていない状況であるなど、クラブ運営に関して様々な問題があったと考えられます。
なかなか日本では考えられない状況ですが、先述したように海外では頻繁にこのような事件が起きています。
2019年、私もモンゴルのチームで給料の未払いを経験しました。その際、浅野選手と同じようにクラブに対するリクエスト(レター)を提出し、FIFAとクラブに対して問題の解決を求めました。ただ、私の場合はリーグ戦の終盤であったことをはじめ、様々な理由からチームを離れる選択は取りませんでした(給料を受け取らずにプレーしていた期間がありました)。
解決には少々時間がかかりましたが、最終的に契約通りの給料を受け取る事ができ、その後もクラブと契約を更新しました。
しかし、給料が支払われていない期間はとても苦しい事が多いです。現地での生活費、家賃、食費など、サッカー選手である前に人間として最低限必要な経費は掛かります。その上で、毎週試合は開催されていく状況に陥るので、経済的な問題に付随して、メンタル的な負担も大きいのです。
選手にとっては、大好きなサッカーをしているのに生活が成り立たない状況に追い込まれてしまいます。ましてや、海外という日本の常識が通用しない土地での生活は、更に精神的な負担が大きいのです。私が未払いを経験したとき、チームメイトだった日本人選手は、日本に帰国せざるを得ない状況になってしまいました。ある意味、サッカーで生きることの「厳しさ」を痛感したシーズンでした。
●日本が「特殊」であること
「給料未払い」の問題は世界各国で頻繁に起きています。以前、私の友人であるロシア人選手も、所属クラブから給料が支払われず、「対処方法を教えてくれ」と連絡を受けました(彼は私が給料未払いのトラブルに遭ったことを知っていました)。
既に給料未払いの経験者であった私は、「FIFAと所属クラブに、現状を踏まえた内容のリクエストをまずは送るべきだよ」と、丁寧に教えてあげました。
その為、クラブの運営体制が整備されている日本の状況を知る外国人選手の中には「Jリーグのチームを紹介してくれ」と、日本人である私に何度も連絡をしてくる選手も存在するほどです。
要するに「日本が例外である」と言えます(本来は日本の状況が『普通』であって欲しいです…)。
浅野選手が所属していたセルビアがある東欧、アジア、中南米などは、給料未払いの噂を頻繁に聞きます。もちろん、その地域のすべてのチームが給料を支払ってくれないわけではありません。どの地域にも、しっかりとした体制でクラブを運営しているチームや、大きなスポンサーがついているビッグクラブなども存在します。
しかし、日本のJリーグのようにすべてのクラブが健全に運営しているリーグの方が、世界的に見ると珍しいのです。
●まとめ
一見華やかに見えるプロサッカーの世界ですが、実際は様々な問題も多く抱えています。給料の未払いに関することだけではなく、賭博や審判買収、移籍にまつわるトラブルなど…。今回の浅野選手の件は、それが一部表面化した事件だと言うことです。
その事実を知っているプロサッカー選手は、実は様々なリスクを背負ってプレーしています。特に海外でプレーする場合には、日本の常識が通用しません。だからこそ、選手自身が正しい知識を持っていること。また、選手自身がステップアップして、問題の起きないようなレベルのチームに所属すること。この2点が重要だと個人的には考えています。
浅野選手の場合は、このような苦しい状況においてもセルビアリーグでゴールを量産していました。おそらく、フリー(無所属)になったことで、多くの選択肢(移籍先)が生まれたことでしょう。まさに、日本代表にふさわしい選手だと思います。浅野選手の今後の活躍にも目が離せませんね。
◆大津一貴プロフィル◆
少年時代は、札幌山の手サッカー少年団とSSSサクセスコースに所属。中学校時代はSSS札幌ジュニアユース。青森山田高校から関東学院大学へ。卒業後は一般企業へ就職。
2013−2014年は、T.F.S.C(東京都リーグ)
2015年FCウランバートル(モンゴル)
2016年スリーキングスユナイテッド(ニュージーランド)
2017年カンペーンペットFC(タイ)
2018年からは再度FCウランバートル(モンゴル)でプレーし、優秀外国人選手ベスト10に選出された。
2019−20年もFCウランバートル所属
2021年5月2日、日本代表FWの浅野拓磨選手が自身のインスタグラムで「度重なる給料等の未払い、またそれに対する不誠実な対応により、クラブからのリスペクトを感じられなくなった」として、所属先であったセルビアリーグの名門、パルチザン・ベオグラード(以下:パルチザン)との契約解除を発表しました。
この報道に対してクラブ側は、「根拠のない退団であり、契約違反である。FIFAの管轄機関へ訴える」として反論し、サッカー界をにぎわすニュースに発展しています。
日本のJリーグを始め、日本社会ではあまり耳にしない『給料未払い』の問題ですが、世界各国ではこのような問題が横行しています。そして、何を隠そう私自身も、かつて「給料未払い」を経験した選手の1人です。
そこで今回は、海外サッカーにおける『給料未払い』について、考えていきます。
●不利な状況に陥るのは選手側
まず、今回の浅野選手のケースを整理します。
浅野選手は、所属先であるパルチザンからの給料を受け取っていない状況でした。このような契約違反の状況に陥った場合、FIFAでは選手を守る目的で規則が設けられています。その内容は以下の通りです。
「2度(2か月)給料が遅れた場合、選手はクラブに公式のリクエスト(レター)を送り、15日以内に回答を受ける権利がある。そして、その答えにかかわらず一方的に契約を選手側から解除する権利も得る」
この規則に従い、浅野選手はパルチザンとの契約を自ら解除した、というのが今回の事例です。
特に外国人選手にとっては、給料が遅れた場合に「現地に頼る人すらいない…」という状況も大いに考えられます。一部の報道によれば、浅野選手が住む自宅に家賃の取り立ても来ていたとか…。本来であればクラブが支払う約束になっていた家賃も、支払われていない状況であるなど、クラブ運営に関して様々な問題があったと考えられます。
なかなか日本では考えられない状況ですが、先述したように海外では頻繁にこのような事件が起きています。
2019年、私もモンゴルのチームで給料の未払いを経験しました。その際、浅野選手と同じようにクラブに対するリクエスト(レター)を提出し、FIFAとクラブに対して問題の解決を求めました。ただ、私の場合はリーグ戦の終盤であったことをはじめ、様々な理由からチームを離れる選択は取りませんでした(給料を受け取らずにプレーしていた期間がありました)。
解決には少々時間がかかりましたが、最終的に契約通りの給料を受け取る事ができ、その後もクラブと契約を更新しました。
しかし、給料が支払われていない期間はとても苦しい事が多いです。現地での生活費、家賃、食費など、サッカー選手である前に人間として最低限必要な経費は掛かります。その上で、毎週試合は開催されていく状況に陥るので、経済的な問題に付随して、メンタル的な負担も大きいのです。
選手にとっては、大好きなサッカーをしているのに生活が成り立たない状況に追い込まれてしまいます。ましてや、海外という日本の常識が通用しない土地での生活は、更に精神的な負担が大きいのです。私が未払いを経験したとき、チームメイトだった日本人選手は、日本に帰国せざるを得ない状況になってしまいました。ある意味、サッカーで生きることの「厳しさ」を痛感したシーズンでした。
●日本が「特殊」であること
「給料未払い」の問題は世界各国で頻繁に起きています。以前、私の友人であるロシア人選手も、所属クラブから給料が支払われず、「対処方法を教えてくれ」と連絡を受けました(彼は私が給料未払いのトラブルに遭ったことを知っていました)。
既に給料未払いの経験者であった私は、「FIFAと所属クラブに、現状を踏まえた内容のリクエストをまずは送るべきだよ」と、丁寧に教えてあげました。
その為、クラブの運営体制が整備されている日本の状況を知る外国人選手の中には「Jリーグのチームを紹介してくれ」と、日本人である私に何度も連絡をしてくる選手も存在するほどです。
要するに「日本が例外である」と言えます(本来は日本の状況が『普通』であって欲しいです…)。
浅野選手が所属していたセルビアがある東欧、アジア、中南米などは、給料未払いの噂を頻繁に聞きます。もちろん、その地域のすべてのチームが給料を支払ってくれないわけではありません。どの地域にも、しっかりとした体制でクラブを運営しているチームや、大きなスポンサーがついているビッグクラブなども存在します。
しかし、日本のJリーグのようにすべてのクラブが健全に運営しているリーグの方が、世界的に見ると珍しいのです。
●まとめ
一見華やかに見えるプロサッカーの世界ですが、実際は様々な問題も多く抱えています。給料の未払いに関することだけではなく、賭博や審判買収、移籍にまつわるトラブルなど…。今回の浅野選手の件は、それが一部表面化した事件だと言うことです。
その事実を知っているプロサッカー選手は、実は様々なリスクを背負ってプレーしています。特に海外でプレーする場合には、日本の常識が通用しません。だからこそ、選手自身が正しい知識を持っていること。また、選手自身がステップアップして、問題の起きないようなレベルのチームに所属すること。この2点が重要だと個人的には考えています。
浅野選手の場合は、このような苦しい状況においてもセルビアリーグでゴールを量産していました。おそらく、フリー(無所属)になったことで、多くの選択肢(移籍先)が生まれたことでしょう。まさに、日本代表にふさわしい選手だと思います。浅野選手の今後の活躍にも目が離せませんね。
◆大津一貴プロフィル◆
少年時代は、札幌山の手サッカー少年団とSSSサクセスコースに所属。中学校時代はSSS札幌ジュニアユース。青森山田高校から関東学院大学へ。卒業後は一般企業へ就職。
2013−2014年は、T.F.S.C(東京都リーグ)
2015年FCウランバートル(モンゴル)
2016年スリーキングスユナイテッド(ニュージーランド)
2017年カンペーンペットFC(タイ)
2018年からは再度FCウランバートル(モンゴル)でプレーし、優秀外国人選手ベスト10に選出された。
2019−20年もFCウランバートル所属
大津 一貴