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ヨーロッパサッカー回廊『マンU「レッド・ナイト」と破産宣告のポーツマス』

10・03・11
 「レッド・ナイト」(RED KNIGHTS=赤い騎士)という呼称が今、英国で注目されている。もともとは1960年代5人で結成した「バロン・ナイト」(BARRON KNIGHTS)という人気バンドをもじったものである。
 
 現在のレッド・ナイトとは、世界のトップ3に入るマンチェスターユナイテッドを会長のアメリカ人グレーザー氏から、真のサポーターによる経営を目指す投資家の呼称である。

 1992年ロンドンのトッテナム・ホットスパーが史上初めての株式上場を果たして以来、現在の英国のプロクラブは殆ど株式上場している。

 マンチェスターユナイテッドも株式上場し現在35,000人のファンが株主となっているが、アメリカ人グレーザー氏がクラブを買い取る際に7.6億ポンド(約1050億円)を投資しオーナーとなった。その買い取り資金はグレーザー氏が銀行より融資を受けた借入金でまかなったのである。そのため年間2.8億ポンド(390億円)もの収入があるにもかかわらず赤字経営を続けており、35,000人もの株主(殆どが小口のサポーター)がクラブを真のサポーターの手に戻すため、闘いに挑んだのである。

 首謀者は「レッド・ナイト」と称し、1人10〜15百万ポンド(14億円〜21億円)を出資し、60人集めれば1000億円以上に達し、グレーザー氏の評価額12億ポンド(1680億円)に近づき買い取りは可能として動き出したのである。現在のところ既に60人は集まっているといわれている。しかしグレーザー氏は「決して手放すことはない」と抗戦を決めている。果して、この見えざるサポーターによる買い取りが成功できるか、注目に値する。

 一方プレミアリーグボトムのポーツマスは財政破綻(赤字=76百万ポンド=106億円)をきたし破産宣告を受け、現在は管財人が入りクラブ運営を続けている。

 このままポーツマスを買い取る富豪が現れない限り、プレミアリーグはポイント10を減点、来季は下のリーグへ陥落することは目に見えている。そのポーツマスがFAカップ準々決勝でバーミンガムに勝ち、もし決勝にまで進めば初の破産チームがウェンブレーに登場することになる。これも注目に値する。

 とにかく英国フットボール界にも世界不況の波が押し寄せており、フットボールバブルは終わりを告げつつある。
 
  
◆筆者プロフィル
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
 
伊藤 庸夫