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ヨーロッパフットボール回廊『ワールドカップ・カタール大会大詰めに』

22・12・16
 11月20日より開催された『2022FIFAワールドカップカタール大会』は、12月17日の3位決定戦と18日の決勝戦を残しほぼ終幕に近づいた。

 開幕前に心配された種々の問題点、即ち、スタジアムの芝、チーム練習場、キャンプ場、観客のホテル、部屋数、交通インフラが機能するのか。そしてスタジアム建設に携わった東南アジアの労働者に対する過酷な労働条件問題、イスラム教の厳しい生活上の制約による出場国の応援団への対応等々、大会開催前に懸念された事は多かれ少なかれ、各試合の激しい戦いとサポーターの熱狂的な応援によって影を潜めた大会となっている。

 宿命の決勝戦に残ったのは、大会前の掛け率で2位であったメッシ率いるアルゼンチン対掛け率3位のエース・エムバペのフランスとなった。優勝候補筆頭であったブラジルは前回準優勝のクロアチアにPK戦で敗北、4位期待のイングランドも宿敵フランスに敗れ涙をのんだ。

 12月18日の決勝戦でどちらが優勝するのか興味津々である。フランスが勝てば、前回の2018ロシア大会での優勝に続き2回連続の栄冠となる。一方アルゼンチンは1986年マラドーナの『神の手』での優勝以来の制覇となる。

 決勝戦にたどり着くまでのリーグ戦、ベスト16、準々決勝戦、準決勝戦を通して特徴的な点を挙げてみたい。


■まず目立ったのは各国チームの実力が伯仲していたこと。
 ジャイアントキリングが過去の大会以上に多かった。ベスト16に進出した我がNipponが世界の強豪ドイツに勝ち、更にスペインにも勝ったことは特筆に値する事であろう。そしてサウジがアルゼンチンにグループ戦で勝利したことも驚きの1戦であった。
 さらに誰もが予想だにしなかったモロッコの躍進。ベスト16でスペインにPK勝ちし、続くベスト8でポルトガルに1−0で勝ち、準決勝で惜しくもフランスに敗れたが、この大会の華でもあった。


■PK戦のドラマが展開された大会でもあった。
 ・日本対クロアチア戦(クロアチアがPK3−1の勝ち上がり)
 ・モロッコ対スペイン(モロッコがPK3−0勝ち上がり)
 ・クロアチア対ブラジル(クロアチアがPK4−2勝ち上がり)
 PK戦は国の代表戦ではなく、キッカーの個人的メンタリティの闘いでもあり、日本もスペインもブラジルも世界トップの選手をそろえているにもかかわらず敗退したのは、個々の選手の強いエゴイスティックなメンタリティが欠如していた結果でもあった。


■アデイショナル・タイムを厳格に取り、実質90分の試合を試行した大会であった。
 過去の大会ではAdditional Timeはせいぜい2〜5分程度であったが、今大会よりプレータイムを実質90分にする為、負傷の為の休止時間、選手交代の時間等を厳格に取り、時間稼ぎの為のネガティブなプレー時間を加算しなかった。その結果8分とか10分とかのAdditional Timeが取られた試合も多かった。これに伴い、審判もいらぬ笛を吹かず流し、選手のシミュレーションを排除したことは試合の流れを止めず流動的となり、試合の醍醐味を増したことは評価に値する。


■選手交代も5人まで拡大され、延長戦になった場合には更に1名交代出来るようになった。
 この為後半に反撃に出る際、新たな新鮮な選手を複数交代させシステムも変更でき、試合内容が活発化した。特に日本は浅野、三苫などスピードのある選手を後半相手が疲労してくる時間帯に起用、功を奏した交代策が対ドイツ、対スペイン戦で的中した。


■VARシステムの形式もミリ単位での映像での確認が行われ、日本対スペイン戦での三苫のクロスは『On Play』となりスペインに一矢を与えた試合となった。


■全体的に見れば成功した大会と言えよう。ビールが12ポンドとかの不満はあったが、これも慣れればサポーターも対処でき、いらぬ騒動を起こす要因を封じ込めたという点では評価出来る。ただメインスポンサーであったバドワイザーがスタジアムでは売れなくなり、FIFAへ損害補償を求めているが、今後の大会でどうするのか考慮の余地はあるようだ。


■カタールの今後の最大の問題は、8スタジアムも新築し、この小国が今後どうこれらのスタジアムを運営していくのか2022年の遺物化となるのか他人事ではない。


■世界のフットボール日程が混み合うこの時期にW杯を開催した為、各国の日程が混み、リーグ戦に影響ないのかも見届ける必要があると思われる。


■そして次のアメリカ・カナダ・メキシコの3か国共催で行う『2026FIFAワールドカップ』に現代のスーパースター、メッシ、ロナウド、モドリッチ、ネイマールが残っているのか、彼らに代わるスーパースターが生まれるのか興味津々である。エムパべ時代到来か。その中でノルウェーの逸材ハーランドがW杯で見られないのが残念だ。ノルウェーが出場出来るのかも見守っていきたい。


 さてこのW杯、FIFAは供出した選手の所属クラブへもその費用を負担し供与している。
イングランドのプレミアクラブが多いがそのトップ5クラブを挙げてみる。
 1.Mシティ   : 17人 4.5百万ポンド =7.2億円
 2.Mユナイテッド:13人 2.92百万ポンド=4.7億円
 3.チェルシー  :12人 2.47百万ポンド=3.95億円
 4.スパーズ   :11人 2.33百万ポンド=3.7億円
 5.アーセナル  :10人 2.11百万ポンド=3.37億円

 なお優勝国には42百万ドル(58億円)の賞金が付与される。今大会の総賞金額は440百万ドル(600億円)となっている。ちなみに日本はベスト16進出で、13百万ドル(約18億円)が供与される。
 
 FIFAのこの大会予算は4.6ビリオンドル=約6,300億円であり、放映権料は2.6ビリオンドル(3,600億円)となり、世界一高額のスポーツイベントとなっている。

 「VIVA World Cup!!」


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫