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ヨーロッパフットボール回廊『プレシーズン、プレミアリーグトピックス』

22・07・17
 既に7月、ヨーロッパのフットボールの幕開けが近づいている。

 今年は11月にカタールでのW杯が行われるため、各国のリーグ開幕が早まっている。

 イングランドプレミア、ドイツブンデス、フランスリーグ1はそれぞれ8月5日にキックオフとなる。スペイン及びイタリアは8月13日となっている。

 そのため、各国有力トップチームは現在の7月中旬トレーニングを兼ね、有力なライバルとのフレンドリーマッチをアメリカ、東南アジア、オーストラリアで行い、新体制と移籍してきた選手との融合を図る為の遠征試合・キャンプを行っている。

 その中で注目されたのはプレミアのチーム。優勝したマンチェスターシティ(MC)、そしてわずか勝ち点1点の差で2位に甘んじたリバプール(LV)、遂に6位となりチャンピオンズリーグに出場出来ず屈辱の2部リーグともいうべきヨーロッパリーグを戦うマンチェスター・ユナイテッド(MU)が新監督テン・ハグの手腕いかにと話題は多い。

 まずは選手の移籍であるが、7月1日にウインドウがオープンし9月1日まで続く。現在までの移籍確定選手を中心に、来シーズンの展望を探ってみる。


■MC:元々、監督のペップ・グアルデイオラは2021年まで10年間在籍していたアグエロを典型的な「NO.9」のストライカーとして起用していたが、彼が移籍して以来、特に「No.9」というストライカーを固定せず、ダミー的な小技がきく「No.9」を日替わりにするシステムで戦っていた。

 小柄なスピードのあるトリッキーなスターリング、「No.10」のポジションから得点を重ねるデ・ブルイネ、そして本来なら中盤のボールプロバイダーのフォーデン、そして昨年移籍してきたイングランドのトリッキー・ドリブラーのグーリッシュを得点源とする特異なフォーメーションを取っていた。

 しかし、今シーズンは久しぶりのこれこそセンターフォワードというべき、得点マシーンのアーリング・ハーランド(ノルウエー代表)をボルシア・ドルトムンドから51.2百万ポンド(82億円)の移籍金で獲得。彼を中心とするフォーメーションに変換するはず。果たしてこのギャンブルが成功するのか注目である。ハーランドはMUからも触手があったが彼の父親はかってMCの選手として鳴らしていたため、彼もMCを選んだと言われている。

 出場機会が少なくなってきたスターリングは、地元ロンドンへ戻りたいとチェルシーへ47.5百万ポンド(76億円)で移籍した。出場機会を増やし、今年のW杯に備えたいとの彼の希望がかなった。またイングランド代表ディフェンシブMFフィリップスをリーズから42.6百万ポンド(72億円)で獲得。ディフェンスのアンカーを補強し連覇へ向かう。


■LV:トップ3羽鴉の一角であったマネがバイエルン・ミュンヘンへ27.5百万ポンド(44億円)で移籍し、フリンジプレーヤー(末端の選手)であった日本代表の南野もモナコへ13百万ポンド(20.8億円)で移籍。フォワードの得点源が減った感は否めないが、何とかサラーを残留させ、ベンフィカのストライカーだったダルビ・ニュメスを65百万ポンド(104億円)で獲得。新得点マシーントリオの誕生か。ディフェンス陣は今年と変わらず堅調と見られているが、シンガポールで行われたMUとの遠征試合は0−4と完敗し、今年はMCと均衡し戦えるのかといぶかる結果を残した。

 もっとも90分で、30人近くの選手を入れ替わり交代させたプレシーズン特有の「ケガをしないフレンドリーマッチ」ではあったが、負けは負け。課題が出てきている。


■MU:この1年で3人目の監督交代、ノルウエー人監督(MU育ち)からドイツ人監督、そして今シーズンからはオランダ、アヤックスの監督であったテン・ハグが指揮を執る。果たしてオランダ人監督がプレミアリーグで成功するのか? という疑問も起こる。

 テン・ハグ監督は、若手選手を育て近年アヤックスを復活させた監督として期待され、多くのサポーターはPSGの監督であったポチェテイーノを招聘すべきとの声が多かったが、結局MUのトップ経営者ユダヤ系アメリカ人の鶴の一声でオランダ人に決まった。

 一方で選手の放逐は厳しく、フランス代表ポグバは古巣のユベンタスへフリーで移籍、中盤のネマニャ・マチックもローマへフリー移籍、元イングランド代表MFのリンガードも元代表ストライカーのルーニーの誘いでアメリカへフリー移籍が決定、スペイン人MFマタもフリーとなって移籍先を模索中。

 監督についても昨シーズン途中、ソルシアーが更迭され、後任のラングニックに期待がかけられたが、システムも4−2−2−2といった奇形なフォーメーションを取り機能しなかった。ディフェンスもキャプテン、マグアイアーが不調、ざる状態のディフェンスがシーズン後半から始まり、結局リーグ6位という汚名を被せられ、来シーズンのヨーロッパチャンピオンズリーグ出場はかなわなかった。今年は屈辱の2部ともいえるヨーロッパリーグで戦うことになっている。

 移籍市場でも多くのトップ選手は、UEFAチャンピオンズリーグ出場が必須であり、今年のMUへの移籍希望も2番手のヨーロッパリーグ出場であればモチベーションも低く、移籍もままならぬ状況に陥っているようだ。

 キーマンたるクリスチャーノ・ロナウドも、現在の東南アジア遠征には参加せず、更なる移籍も模索しているようだ。サウジのクラブがオイルマネーに物を言わせ2億ポンド(320億円)で買いたいとオファーが出ており、監督テン・ハグは彼を残留させたいとしながらも、一方でチームにはハイプレスを要求。37歳ロナウドにはディフェンスもするストライカーとしての過酷なノルマが課せられ、果たして彼が呼応出来るのかと移籍を認める方向も見えてきている。となると代わりのストライカーはいるのか。

 そして過去7人のオランダ人監督がプレミアリーグの指揮を執ったが、誰一人としてタイトルの栄誉を勝ち得た監督はまだいない。

 オランダ人コーチは概してシステムに固執する傾向があり、選手の個性に合わせて柔軟にシステムを作り上げることを嫌う傾向にある。そしてアヤックス・スタイル、フェイノルト・スタイルに固執、システムに選手を当てはめる傾向が強い。その為シャドーストライカーに長けている選手でも、3トップシステムを採用すると、使うポジションがなくウイングサイドで使ったりして選手の特性と得点力を殺してしまうことさえあるのだ。

 テン・ハグ監督がMUのコーチとして適切かは今後の結果によるだろうが、一抹の不安を覚える。


 さて今年のタイトルはどこのクラブか? 賭け率によれば

1位:MC     1.63
2位:LV     3.41
3位:スパーズ  16.33
4位:チェルシー 18.64
5位:MU    28.31
6位:アーセナル 66.74


 皆様も新シーズンを楽しみに予想してみてください。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫