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ヨーロッパフットボール回廊『コロナ禍2年目のシーズン開幕』

21・08・13
 コロナ禍で開催も危ぶまれた東京オリンピックも酷暑と無観客という悪条件の中、話題も乏しく閉幕、今後のオリンピックムーブメントの動向に影を落とした結果となった。

 その閉幕を待ってヨーロッパ各国のフットボールはコロナ禍後の開幕を迎えつつある。

 昨シーズンと大きく違う点は、今シーズン対策を講じて観客を入れての試合に戻る点であろう。サポーターの声援なくしてフットボールはないという原点に戻るのだ。

 ヨーロッパ各国のコロナ感染は、昨年よりは数において少なくなってはいるが、相変わらず変異株がまん延し終息したとは言えない中での開幕となる。その為、スタジアム入場の際、2回ワクチン接種したか、48時間前に検査で陰性となっていたかをチェックする。スタジアム内ではマスク着用、人の動線は一方通行とすることでスタジアムへ入場できることになっている。

 イングランドでは、ほぼスタジアムの収容人数までは入れることになっているが、イタリアでは収容人数の50%まで観客を入れることで開幕を待っている。

 コロナの対策を講じつつ、通常のフットボールの姿へ戻す方向へ進んでいるのだ。この陰にはやはりワクチン接種率が英国で70%を超えていること、他ヨーロッパ諸国でも50%を超えており、生活の日常化、平常化に進んでいるからでもあろうか。

 さて開幕前の移籍を巡るトピックスをいくつか挙げてみたい。


1:メッシの移籍騒動
 
 バルセロナのメッシ(34歳)は13歳からバルサのジュニアーに入団し16歳でトップチームデビューした、世界の至宝ともいうべき生え抜きの選手であり、バルサをリーグなどの各大会で優勝に導くこと35回、バロンドール6回の栄誉を受けている。バルサでは778試合出場672得点を挙げてメッシのバルサともいうべき存在であった。

 彼は今年7月1日付けでバルサの契約が切れフリーとなった。その背景には、1,300億円ともいわれる負債がバルサにはあり、高額選手を整理売却しなければクラブ経営が成り立たないという経営上の問題があった。メッシの報酬は1.2億ポンド/年(180億円、内50%は税金)と言われており、その為フリーでの契約解除となったもの。しかしメッシとしては、フットボール人生を育んでくれたバルサを去るのは忍びなく、報酬を半分50%オフにして再契約を模索したが、スペイン、ラ・リーガのファイナンシャル・フェアープレー規則(FFP)では報酬を半分にしてもFFP違反となる為、涙をのんで退団となった。

 どこへ行くのかという話題はヨーロッパ中に広まり、一時はマンチェスターシティ監督グラデイオアを慕ってMC入りかと噂されたが、フランス、パリ・サンジェルマンFC(PSG)へ移籍することになった。PSGのオーナーは、カタールのシェイクで、大富豪かつカタール航空のトップであり、ブラジルのネイマール、そしてフランスのエムバペと3人の世界トップのストライカーそろい踏みで、フランスだけでなく欧州、そして世界一のクラブとなる野望を達成したい意図で獲得したものであろう。ちなみに報酬は、税引き後25百万ポンド(37.5億円2年契約となった。PSGの監督は同じアルゼンチン人ポテチーニョであり第2の人生を送るには打って付けのクラブへ移籍した。好漢メッシがパリで活躍するのか見物である。


2:そしてイングランドのストライカー、ハリー・ケーンの去就も注目されている。

 イングランドキャプテンとして先のユーロでは1966年英国ワールドカップ優勝以来の決勝戦に臨み、惜しくもイタリアに敗戦2位に終わったが大会4得点を挙げ、2018年ロシアW杯での得点王(6点)とイングランドだけでなくヨーロッパを代表するストライカーとして君臨している。しかし、所属するスパーズは優勝からは見放されており、ケーンとしては得点だけではなく優勝経験をしたいと熱望、まだ契約が2年残っているが、会長ダニエル・レビーとの紳士協定で優勝できるクラブへ移籍を希望、彼の去就に注目が集まっていた。

 その候補のマンチェスター・シティはストライカー、アグエロを放出したことでストライカーの補強を図っており、ケーンの獲得に動いてはいるが、ネックはレビー会長の130百万ポンド(195億円)でなければ売らないとしている評価が高く、現在のところ、まだ移籍決定とは至っていない。

 シーズンが8月13日から始まるのでそれまでに動きがなくば、ケーンのスパーズ残留の公算が高い。しかし商売上手のレビー会長だけにまだ予断が許せない。


3:遂にプレミア最高額の移籍が成立した。

 アストンビラのイングランド代表グレアリッシュがマンチェスターシティへ移籍が決定した。移籍金が1億ポンド(150億円)の英国一の高額移籍である。先のユーロ大会イングランド代表MFとして注目を集めシティが獲得したもの。


4:マンチェスターユナイテッド(MU)は昨年から獲得しようと働きかけていたドルトムンドのウインガー、サンチョを2年越しの交渉の末72百万ポンド(108億円)で獲得した。

 元々ロンドン生まれのサンチョは、MCのアカデミーからドイツドルトムンドへ移籍し、実績を上げ今年のユーロでも代表選手として選出され、将来を嘱望される選手として各チームが獲得に手を挙げていた。

 ユーロ2020では決勝戦イタリアとの対戦でPKを蹴り、セーブされ敗戦。「まだ若い!」とレッテルを張られたが、将来のスターとしてMUの攻撃の要となる可能性も高く、MUでの高額移籍金選手として活躍が期待されている。

 ともあれ、また熱の有る観客入りのフットボールが戻ってくる!


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫