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ヨーロッパフットボール回廊『ヨーロッパ・スーパーリーグの勃発と消滅【後編】』

21・05・15
 ―【前編】より続き―
 
 各チームの略称は、マンチェスターユナイテッド(MU)、マンチェスターシティ(MC)、リバプール(LV)、チェルシー(CH)、アーセナル(AR)、トッテナム・ホットスパー(SP)、リアル・マドリッド(RM)、バロセロナ(BR)、アテレチコ・マドリッド(AM)、ユベンタス(JV)、A.Cミラン(ACM)、インター・ミラノ(IM)。


■第3幕 4月20日
 この四面楚歌の状況から、まず英国6チームがESLから脱退することを表明した。ファン、The FA、そして政府、さらにはUEFAの意向を無視できないと判断したからでもある。

 最初に脱退を表明したのはMC。アブダビの王族の資金は豊富であり、財政的に困ってはいないこと。そしてマンチェスター市民のクラブとして、創立以来サポーターに支えられていたクラブの伝統から支持されないことは避けたいというクラブ方針があったからでもある。

 そしてCHが続いた。このクラブもアブラノビッチオーナーの資金は豊富、今更ファンを無視してESLに行く必要はないとの判断であった。あとは続々とLV、MU、そしてAR、SPもそれに続いた。

 そしてMUの副会長のエド・ウッドワードは暗にRM、JVと黒幕として、とりまとめ担当であったことから、2021年末を持って辞任を表明した。これを受け、MUのニューヨーク市場では株価が6%下落、150百万ポンドの損失を被った。


■第4幕 4月21日
 英国6クラブの1日でのESLからの脱退を受けてイタリアACM、IMが脱退を表明し、スペインのAMも脱退を決定した。
 
 残る首謀者のスペインRM、 BR、そしてイタリアJVはいまだにこのESL構想の実現に固執している。

 RMのペレス会長は、「我々はこの構想実現のため前に進んでいく」と表明する一方、「当初合意した12クラブが脱退することは出来ない」と強気な姿勢を示している。その理由として、「12クラブは既に契約を締結している」と。更に「スコットランドセルチックと、レンジャーズが加盟に意欲を示している」と表明。あくまで解散はないことを強調している。


■第5幕 4月22日
 ペレス会長の契約に関して、まずアーセナルのクロンケ会長は「ESLの契約を解除するための違約金は12クラブに共通している。その違約金は1クラブ8百万ポンド=9.6億円程度であり、アーセナルとしてはクロンケ会長が、要求あれば個人として支払う」とコメントしている。

 一方、主導者側のRM、BRはこのESL構想が実現した際には、それぞれ52百万ポンド(78億円)が12クラブの供出金とJPモルガンの資金から支払われる契約となっていたことも明らかにした。

 この違約金については各クラブとも明確なコメントはなく、今後の課題となることは必至である。


■第6幕 幕間(続演中)
 当面の課題と今後

 一旦幕引きした感はあるが、契約上の違約金問題が残り、これからも論議がESL仮会長のペレスと各クラブとの間で行われることになる。しかし一方、各クラブはそれぞれのサポーターから、経営陣に対する不信と資本に支配されるクラブ体質の改善を叫んでデモが活発化してきている。

 ◇5月2日
 MUはLVとのリーグマッチ戦5月2日、オールドトラフォードスタジアムへサポーターが侵入し、暴動化し試合が延期となった。『グレーザーOut』の呼びかけで、これからも経営陣との対立が激化する一方、クラブサポーターとの経営問題を論議する場を設ける方向へ動いているとはいえ、果たして実のある結果が生まれるのかは疑問である。

 MUST(MUサポータークラブ)は、ドイツ方式の51%をファンクラブが株式を保有し、オーナーは49%しか株式を保有できないルールを求めており、更にサポーターの株式保有権を認めること。取締役会にサポーターの代表を任命すること。そして将来、このようなクラブの存在に関わる重要事項には必ずMUSTと協議することを要求している。

 ◇5月7日
 このESLの動きとMUSTによるMU対LVの試合が中止となったことを踏まえてUEFAは下記の制裁を科した。

 英国6クラブ及びイタリアACM、IMそしてスペインのAMに対して総額15百万ユーロ(20億円)の『Goodwill contribution(献上金)』を課し、それに加えて更にUEFAの大会収入のうち5%を積み立て、UEFA加盟国の各協会へ配布、UEFA加盟国のジュニアー及び底辺のフットボール普及に充てることを決めた。

 更にUEFAのアレックス・セフェリン会長は、上記9クラブへUEFAが認めない大会に参加した場合は罰金として、クラブ当たり1億ユーロ(130億円)を課すとした。またこの3クラブに対し、今後2年間UEFAの大会に出場停止処分とするとしている。また追って制裁金を科すとしている。しかしこの3クラブは、この制裁が実施されれば法廷闘争も辞さないと強気を示している。

 ◇5月9日
 ESLの首謀者であるイタリアJVは、イタリアセリアAよりESLから離脱しなければセリアAから除名すると警告を受けた。 


■今後
 1888年(イングランドでプロリーグ発祥)以来のヨーロッパプロフットボールリーグも、このアメリカン方式、フランチャイズ方式の導入問題を改めて注目し、UEFAとして、また英国においてはThe FAあるいはプレミアリーグとして、取り敢えず矛を収めたが今後どうするのか課題は多い。

 翻って日本においても、一部Jリーグクラブからこのようなクローズド化されたフランチャイズ制を取り入れたらという論議があるというが、ここまで日本が世界ランキングを上げられたのは、Jリーグがピラミッドの頂点とし、ホームタウンシステムをヨーロッパから取り入れ、ジュニアーからトッププロまで一貫したピラミッドシステムとした方式を構築できたからであることを忘れてはならないと思う。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)

伊藤 庸夫