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ヨーロッパフットボール回廊『コロナ後のシーズン再開と3ストライカーズ』

20・07・15
 ヨーロッパのリーグ戦は、コロナ感染下で3月初め一旦休止となり、再開がいつになるか中々見通しが立たなかったが、ある程度コロナ感染者数が下降傾向となり、まずドイツが5月16日再開。その後スペイン、ラリーガが6月11日再開。そしてイタリアセリアAも6月12日にイタリア杯準決勝ユベンタス対ACミランで再開の幕を開けた。フランスリーガ1は今年度中止を決定している。

 英国プレミアリーグも6月17日、コロナ感染死亡者数が42,000人を超え、USA、ブラジルに次ぐ世界第3位の感染国ながら、かつ非常事態宣言下のもと、無観客試合として再開した。

 そして7月12日現在、各クラブとも再開後5−6試合を消化し、7月26日まで2019/20シーズンが続く。

 再開後トップを走るリバプールは、再開初戦のダービー戦対エバートンとはアウエーながら0−0の引き分けに終わったが、次のクリスタルパレス戦にホームで4−0と圧勝。リーグ優勝に王手をかけた。

 その後6月26日のチェルシー対マンチェスターシティ戦で2位シティが1−2で敗退したため、リバプールが1990年来30年振り19回目のリーグタイトル取得となった。

 80年代、ダルグリシュ、スーネス、イアン・ラッシュを擁して圧倒的な強さを示していた名門リバプールもここ30年リーグ優勝は遠ざかっており、昨シーズンもわずかにマンチェスターシティに及ばず、2位に終わり涙をのんだ。しかし、今シーズンコロナ前には1敗しかしておらず断トツのトップを走っており、優勝を賭けてこの再開戦に臨んでいた。遂にその念願のカップを手にすることができたのである。

 本拠地リバプールのアンフィールドスタジアムでは試合が無く、またコロナ感染の非常事態宣言下にもかかわらず、優勝を知ったサポーターが押しかけ発煙筒をたき付け大騒ぎとなった。リバプール市当局者はマスク着用、ソーシャル・ディスタンシングを訴えたが、サポータ−は意に介さず大騒ぎとなり、花火を投げたファンが警察に逮捕されるほどであった。しかし試合が無くそれ以上の大事に至らなかったのはもっけの幸いであった。

 リバプールの優勝は19回目であるが、1990年5月以来1,149試合を経ての優勝であった。

 リバプールの快進撃の要因は、一つには情熱的ながら理詰めの戦術をとる元ドルトムンド監督クルップの存在無くして成し遂げられなかったのではないだろうか。

 彼が重要視したフォーメーションは、いわば「3ストライカーズ」を中心の4−3−3システムであるが、攻撃の時は両フルバックがウイングとして攻撃の起点となる2−5−3と変化し超攻撃的になる点であろう。トップセンターにフィルミーノ(ブラジル)を置きその両サイドにスピードあるサラ(エジプト代表)、マネ(セネガル代表)の3トップで戦っている。今シーズンの合計得点はサラが21点、マネが19点、フィルミ
ーノが11点と33試合で合計51点を叩き出しているのだ。

 加えてウイングバックとなる右アレックス・アーノルド、左アンデイ・ロバートソンの攻撃参加はそのスピードと正確なクロスが武器であり、3トップストライカーズの得点に大きく寄与している。

 そしてキャプテン、イングランド代表中盤ヘンダーソンのノンナンセンスなチームプレーは攻守のバランスをよく保っており優勝の立役者の一人となっている。守備陣は現在リーグ1のGKとして定評のあるブラジル代表アリソンの存在も大きいが、世界のトップセンターバックと呼び声も高いオランダ代表ファン・ダイクがチームの要として安定感のあるものにしている。

 また忘れてはいけない選手としてベテラン、ミルナーの存在も大きい。チームのPKキッカーとしてほとんどのPKを蹴り得点を重ねている一方、中盤の右サイド、アンカー、そして時としては左フルバックもこなすユーテリティプレーヤーとしてクルップ監督にとって欠かせない選手となっている。フットボール選手としては珍しく中等学校の全国科目別テストGCSEでは10教科にAレベルを取っておりインテリジェンスもある選手として将来は名コーチになるのではと目されている。

 ザルツブルグから移籍した日本代表の南野は期待されて入団したがトップ11の中にはまだ定着できず、途中から入る程度でザルツブルグで示した点取り屋の役目はまだ見えない。フィジカルで早い、激しいプレミアで活躍できるかは上記3ストライカーズを超えなければならずかなり難しいのではないだろうか。

 このリバプールに代表される3ストライカーズシステムはプレミアだけではなく、ヨーロッパトップクラブでも採用されていることも付け加えておこう。

 まずプレミアでは再開後負けなしで5位に上がり、4位レスターと1ポイント差にまでのし上がってきたマンチェスターユナイテッド(以下MU)が再開後3トップストライカーズで戦っている。

 24歳フランス代表のマルシャルがセンター、22歳MUアカデミー出身のラッシュフォードがその左そして新生18歳アカデミー出身のマーソン・グリーンウッドが右ストライカーとして得点を量産している。現在マルシャルが15点、ラッシュフォードも15点そしてグリーンウッドが点と合計8点を挙げているのである。共通しているのは皆俊足でスキルも高いことだ。

 MUの場合はこの1月にスポーテイング・リスボンからプレーメーカーのフェルナンデスを獲得したことで中盤に安定感が増し、移籍を希望していたポグバもけがから復帰、中盤に世界的な選手を手当てできたことが再開後のMUの強さとなっているのだ。あと3試合ほどであるが9月開幕の2020/21シーズンが楽しみになってきた。

 この3ストライカーズのシステムを取っているヨーロッパのクラブとしてはフランスの覇者PSGのトリオ、ムバッペ(30点)、イカルチ(20点)、ネイマール(18点)3人合計68点はヨーロッパ随一。またスペインのバロセロナもメッシ(27点)、スアレス(16点)、グリーズマン(14点)合計57点を挙げており、トップチームたるには3ストライカーズが必須のシステムとなっているのだ。

 ともあれ7月26日には2019/20年度のシーズンは終わる、そして新シーズンは9月初めに再スタートする。コロナの再発第2波が来ないことを祈るのみである。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫