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ヨーロッパフットボール回廊『毎日試合はできるのか?』

19・11・11
 プロチーム、アカデミーのユース、学校のクラブのフットボール選手はどのくらい練習と試合をしているのであろうか。ほとんどのクラブは週4−5日練習、試合1試合、休み1−2日ではないだろうか。

 筆者の日本での経験では、中学時代は週3〜4日練習、試合は大会以外(トーナメントであり負ければ終わり)に月1回練習試合がある程度であった。高校でも練習5日、試合1日、休み1日、試験期間中は昼休みにランニング。大学でも同じパターンであった。日本リーグ時代は就業後、夕方から夜にかけて練習、週4〜5日、試合1日、休み1日。まだ会社勤めでのアマチュアだったため、仕事があれば仕事優先でもあった。当時は「練習して試合をする」練習第一の時代だった。

 現在はどうなっているのであろうか。プロリーグJ1リーグのクラブは、公式戦が34試合(18チーム総当たりホームアンドアウエー方式)。更にカップ戦(天皇杯、Jリーグカップ、アジアカップ等)を入れると成績にもよるが、強豪トップチームは年間約40〜50試合を消化する必要がある。

 翻ってプレミアリーグの実態を見てみよう。年間のリーグ試合数は20チーム総当たりホームアンドアウエー方式で年間38試合。更にカップ戦は、FAカップ決勝までに行けば6試合、カラバオカップ(リーグカップ。プレミアリーグチームは3回戦から)6試合(決勝に行けば)、そしてヨーロッパチャンピオンズリーグ(プレミアトップ4クラブが参加できる)決勝まで行けば10試合で合計60試合となる。

 シーズンが始まるのが8月初旬、終了は5月中旬、その間プレシーズンの海外遠征練習試合、招待試合を加えると約9か月(270日)で65試合もの試合をしなければならない。更にトップの代表選手になると、年間8試合から10試合は国を代表した試合もあり、年間75試合もこなさねばならないのだ。週3回試合である。その中、休みは取る必要があり週1日、移動日1日とすると練習日は週1−2日となってしまう。言わば「練習は試合をした結果で次の試合の為の調整でしかない」ということになる。練習の為の練習はない。

 このような、タイトな日程で試合を続けて行かなければならない宿命にあるプレミアの雄リバプールはついに悲鳴を上げた。

 毎年の例であるがイングランドのプレミアリーグはヨーロッパ大陸のドイツ、フランス、スペインと違い、クリスマス休暇中も休まず試合が行われる。このためクリスマス日の次の日を『ボクシングデイ』と言い、国民の休日となっているが、この日には必ず試合が行われる。フットボールが労働者の余暇を過ごすスポーツであり、我が村のチームを応援するため、大挙して応援に駆けつけるのである。この伝統は現在でも踏襲されている。

 従ってクリスマスの『ボクシングデイ』、そして土曜日、そして1月1日元旦も土曜日であれば試合が行われている。それに加えてカップ戦も行われるので、このクリスマス新年の結果がそのシーズンの覇者を決めるともいわれている由縁である。超過密日程となっているのだ。

 今年のプレミアは12月26日、28日、1月1日と続き、1月4日FAカップ、1月6日カラバオ(リーグ)カップが行われる。プロのトップ選手はクリスマスも正月もないのだ。

 リバプールのクロップ監督は、今でこそ上記のクリスマス、正月の過密日程がフットボール発祥の地イングランドの伝統であると認識し、元アーセナル監督ベンゲルのように苦言を呈することはなかった。しかし、今シーズンの12月中旬の日程については堪忍袋の緒が切れたのか、FIFA及びカラバオカップ主催のイングランドフットボール連盟(EFL−プレミアリーグの下のプロリーグの組織)へ日程変更を申し出た。

 いわく「12月17日(火)19時45分キックオフの対アストンビラとのカラバオカップ準々決勝戦については、翌日の18日17時30分カタールでのFIFAクラブワールドカップセミファイナル戦があるから延期してほしい」と訴えたのである。

 リバプールは、前年度ヨーロッパのUEFAチャンピオンズリーグの覇者としてドーハへ行くことになっているための訴えであった。しかしEFLは「相手チームの事情、そして日程もあり変更はできない」と回答、リバプールの訴えを却下したのである。

 リバプールの過密日程は次の通りで、1か月の間にクラブワールドカップの決勝に進めば9試合をしなければならない。

 12月 4日対エバートン(プレミアリーグ:ホーム)
 12月 7日対ボーンマス(プレミアリーグ:アウエー)
 12月14日対ワットフォード(プレミアリーグ:ホーム)
 (12月15日不戦勝)クラブワールドカップ1回戦(カタール)
 12月17日カラバオカップ準々決勝:対アストンビラ(アウエー)
 12月18日クラブワールドカップ準決勝(カタール)
 12月21日対ウエストハム(プレミアリーグ:アウエー)
 12月21日クラブワールドカップ決勝(カタール)―準決勝で敗退すればなし。
 12月26日対レスター(プレミアリーグ:アウエー)
 12月28日対ウルブス(プレミアリーグ:アウエー)

 まずは12月17日アストンビラとバーミンガムでの試合直後、バーミンガムからカタールへ飛べば、理論上は18日のクラブワールドカップ準決勝には間に合うことになるが、果たして選手のコンデションは万全なのか、またサポーターが行けるのかという課題は解決できていない。

 現時点でクロップ監督は「選手は不死身ではない。12月17日、18日の連戦はチームを2つ作り、やるしかない。カラバオカップにはリザーブ、ユースの若手中心で試合する」と示唆しながらも「まだ最終決定はしていない」と不満を表明しているが、どうなることやら。

 現在、プレミアリーグトップ負け無し試合を前シーズンの1月以来続け、今期も11月8日時点で宿敵マンチェスターシティを抑えている。11試合で勝点31と2位のマンチェスターシティの勝点25を引き離しているだけに、この過密日程をどうこなすか、クロップ監督は頭が痛いところだ。同じレベルの選手を2組保有していなければトップチームの座を明け渡さねばならなくなる。

 過去にも、2001年11月4日のプレミアリーグでチャールトンに2−4と敗戦したアーセナルと、リバプールに1−3で敗退したマンチェスターユナイテッドが、翌日11月5日のリーグカップ戦で当たったことがある。この時の連日連戦ではアーセナルがマンチェスターユナイテッドに4−0と勝った記録がある。しかしこれは国内での話。

 今年のリバプールの連日連戦は、英国とカタールの飛行時間6時間、時差もある。そしてサポーターも観客も世界レベルの試合を期待する。選手も人の子、万全なコンディションでベストなパフォーマンスを見せる為にも最低限の休養は必要であろう。

 あまりに選手を酷使し、レベルが下がることがあってはならない。選手ファーストなのかビジネスファーストなのか、今一度考える時期に来ているのではないであろうか。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫