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大津一貴のエンジョイフットボールライフ『モンゴル孤児院でイベント開催』

19・11・11
 上写真/夜になると軽犯罪も増えてしまうモンゴル「ゲル地区」の様子。


 北のサッカーアンビシャスをご覧の皆さま、こんにちは。10月27日、モンゴルリーグは全ての日程が終了。私が所属したFCウランバートルは、10チーム中7位の順位でシーズンを終えました。最後の5試合は負け無しでしたが、シーズン序盤の遅れを取り戻すことが出来ず、悔しいシーズンとなりました。本誌を通じて応援していただいた皆様、1年間ありがとうございました。来シーズンのことについては現時点で未定ですが、決まり次第お伝え出来ればと思います。

 さて今回は、10月7日にモンゴルの首都ウランバートルで開催した、孤児院向けサッカーイベントの様子についてご紹介させていただきます。

 まず、10月の記事でもご紹介させていただきましたが、9月22日に現地モンゴルの子ども向けにサッカー教室を開催致しました。このサッカー教室では、約40名の子どもたちの参加があり、多くの方々のご協力の元、無事にイベントを成功させることが出来ました。そのイベント直後、現地の方々から「是非もう一度開催して欲しいです!」というお声を掛けていただきました。ただ、私自身はシーズン真っ最中ということもあり「なんとか1回開催出来れば良い方だろうな」と、当初は思っていたのが本音です。

 しかし、予想以上に反響があったので、『もう一度サッカー教室を開催出来ないか検討してみよう』という思いが募り、現地で仲良くさせてもらっていたモンゴル人の方に相談してみました。その結果、とんとん拍子で話しが進み、「ウランバートル市内の孤児院の子どもたち向けにサッカーイベントを開催しよう!」と、相談してから数日で決定に至りました。長い海外生活の経験から、何か物事を進める時はこの“勢い”がとても大切だと熟知している大津です(ニヤリ)。

 第1回目のサッカー教室で利用したボールやマーカーなどの備品があったので、開催するには、孤児院の子どもたちとの日程調整と開催場所、この2つが課題でした。その打ち合わせをするために、今回お世話になる孤児院、『エルデムセンター』に直接足を運びました。

 施設がある場所はウランバートル市内ですが、市内中心部からは約14キロ離れており、通称『ゲル地区』と呼ばれる地域です(モンゴル特有のテント式住居である“ゲル”が多いことから命名されています)。この場所は、いわゆる貧困層が多く暮らす地域とされており、中心部の歓楽街と同じウランバートルとは思えないほど、街の様子が違います。更に、子どもたちが集団生活を送っているエルデムセンターの住居がある場所は、ウランバートル市内でも特に治安が悪いとされている地域で、スリや軽犯罪は日常茶飯事、という場所です。

 このような環境の下、今回お世話になったエルデムセンターでは、様々な理由で親や保護者がいない3歳〜18歳の子どもたちが同じ屋根の下で寝食を共にしています。そして、驚いたことが2つ。まず、3歳までの子どもに対しては、国の保護施設があるのですが、3歳になるとその施設を出なければならず、地域の保護施設に引き渡されること。もう1つは、エルデムセンターのような保護施設に対して、国からの援助などは一切存在せず、企業や個人の寄付などによって施設運営が行われていることです。

 そのため、資金面での問題も多く抱えております。「子どもたちが学校で使用する教科書代が足りない」、「成長に合わせた衣類を購入出来ない」、「極寒の冬場を乗り切るための暖房代や防寒着が足りない」など、施設長の方がおっしゃっていました。また、精神面で問題を抱える子も多く、学校が無い週末にカウンセリングを受けている子もいるそうです。

 事前に、日程調整や会場探しのため打ち合わせを兼ねて現地へ足を運びましたが、私が想像していた以上に子どもたちを取り巻く環境は厳しく、「少しでも力になれるようにしっかりやろう」と身が引き締まる思いでした。打ち合わせでは、開催日程はすぐに決まり、会場もエルデムセンターの徒歩圏内に屋内体育施設があるというミラクルが起きて、予想外にスムーズに予定が決定。準備をしっかり完了し、サッカーイベント当日を迎えました。

 上:上段写真/最初は慣れないサッカーに少し緊張気味の様子

 上:下段写真/時間が経つにつれ、子どもらしい元気な笑顔で楽しんでいたのが印象的


 10月7日のイベント当日、夕方17時過ぎに学校を終えた子どもたちが屋内施設へ集まりました。自己紹介を終えて、早速サッカーイベント開始です。初めは緊張気味だった子どもたちですが、時間の経過と共に少しずつ笑顔も増えてきました。生まれて初めてサッカーボールに触れる子も多く、うまくボールを扱えない様子も見受けられましたが、それでも一生懸命ボールを追いかけている姿が印象的でした。

 あっという間に施設の利用予約時間の2時間が過ぎ、サッカーイベントは終了。利用したサッカーボールなどの備品をプレゼントし、記念撮影を行いました。その後は、子どもたちが暮らすエルデムセンターへ移動し、みんなで一緒に晩御飯。私と妻の2人で朝から仕込んだ大量のおにぎり・豚汁・たまご焼きを持参し、子どもたちへ振る舞いました。現地の子の口に合うか不安でしたが、あっという間に全て完食。ほっと一安心でした。

 最後はお別れの挨拶をして、当日のイベントは全て無事に終了。笑顔でお見送りしてくれる子や、プレゼントしたサッカーボールで早速遊んでいる姿を見て、「今回のイベントを開催して本当に良かった」という思いに浸りながら、帰途につきました。

 上:上段写真/大津夫妻が準備した日本食を一緒に頬張る子どもたち

 上:下段写真/孤児院エルデムセンターの子どもたちと記念撮影。右端が大津選手
 

 今回のイベントを通じて、子どもたちと楽しい時間を共有することが出来ました。そのことについては、良かったと思います。しかし、先述したように子どもたちを取り巻く環境は厳しい現実が今日も存在しています。平和な日本で生まれ育った私たちにとっては、生まれたときから親が居て、当たり前のように学校に通い、当たり前のように自分の好きな服を着て、当たり前のように大好きなサッカーをしてきました。

 ですが、私たち日本人が当たり前のように送ってきた生活自体が、当たり前ではない環境も世界には存在します。今回、縁があって一緒にサッカーをしたエルデムセンターの子どもたちにはもちろんのこと、孤児施設のような場所で暮らす子どもたちのために、今後もサッカーを通じて自分が出来ることを継続していきたいと思います。

 最後に、今回の活動は私がオーナーとして運営している、『KAZUTAKA OTSU 蹴球サロン』の売上で運営しました。また、多くの皆さまのご協力により、サッカーイベントを開催することが出来ました。この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうござました。最後に、ご協力頂いた皆さんをご紹介させていただきます。

●協力者一覧
・一般社団法人シティフットボールクラブ
・株式会社スポトレンド
・NPO法人SSS札幌スポーツクラブ(SSS札幌サッカースクール)
・株式会社ナンシンデザイン
・KAZUTAKA OTSU 蹴球サロン・メンバーの皆様

●イベント当日
・ラブジャ(アテンド・通訳)
・河野公寿(アシスタントコーチ・現役選手)
・川田大貴(カメラマン)


◆大津一貴プロフィル◆
少年時代は、札幌山の手サッカー少年団とSSSサクセスコースに所属。中学校時代はSSS札幌ジュニアユース。青森山田高校から関東学院大学へ。卒業後は一般企業へ就職。2013−2014年は、T.F.S.C(東京都リーグ)。2015年FCウランバートル(モンゴル)。2016年スリーキングスユナイテッド(ニュージーランド)。2017年カンペーンペットFC(タイ)、2018年からは再度FCウランバートル(モンゴル)でプレーし、優秀外国人選手ベスト10に選出された。
大津 一貴