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大津一貴のエンジョイフットボールライフ『タイの田舎町にあるものは』

19・03・11
 上写真/2017年シーズン、タイの「カンペーンペットFC」でプレーする大津選手


 北のサッカーアンビシャスをご覧の皆さま、こんにちは。4回目の登場となります大津です(そろそろ認知されてきましたでしょうか? 先日サッカー関係者から「見たよ、なかなか面白かった」とお世辞?を言われ、ニンマリしてしまいました)。

 さて今回は、私が海外挑戦3か国目の地であったタイの田舎町「カンペーンペット」でのエピソードです。

 2017年シーズン、私は「今季は東南アジアで挑戦する!」という意思を固め、お正月からタイへ向かいました。東南アジアには、世界各国から大勢の助っ人外国人選手がやってきます。その中でもタイは、現在1部から4部までのカテゴリーがあり、100チーム以上のプロチームが存在し、競争率も高いです。そしてシーズン開幕前の移籍期間にあたる年末年始は、タイ各地で外国人枠を争う生き残りを懸けたトライアルが実施されています。

 私がタイで、最初にトライアルに参加したのは「カンペーンペットFC」。既に外国人選手たちが10人ほどに絞られていた状況で、一番最後にチームへ合流しました(当時の外国人登録枠は、1チーム4人+アジア枠1人)。不利な状況ではありましたが、合流初日のトレーニングマッチで、自分でも驚くようなキャプテン翼なみのオーバーヘッドシュートが炸裂!(完全に自画自賛です)。ゴールという結果で、しっかり監督兼オーナーにアピール成功、契約を勝ち取ることが出来ました。プレーの派手さが必要ではないと思いますが、海外ではゴールなど本当に分かりやすい結果が評価されると思います。

 このチーム名にもなっている“カンペーンペット”は、郡の名前であると同時に県や自治体の名前です。ですので、日本で例えると私が高校時代に住んでいた「青森県アオモリFC」(青森に実在するチームとは関係ありません)といったところでしょうか。タイの中でもかなりの田舎町で、大きなビルや建物は一切ありません。列車の駅や空港も無いので、首都のバンコクからのアクセスは、車やバスでの移動となり約6時間かかります。また近隣の町までバンコクから飛行機で来たとしても、その町からはバスでの移動が必須です。成長著しいと言われるタイの中でも辺鄙(へんぴ)な場所に位置しています。

 しかし、田舎だからと言って侮ってはいけません。町の繁華街(と言っても、屋台ぐらいしかありませんが…)から車で数分の場所に「カンペーンペット歴史公園」という、多くの遺跡が残る場所があります。“カンペーンペット”は直訳すると「金剛壁(ダイアモンドウォール)」という意味で、その名の通り要塞都市として栄えた歴史があります。西側に国境が接しているビルマ(現在のミャンマー)の侵略に備えた形跡が見られる遺跡も数多く存在しています。

 さらに、「この町には他にも観光名所がありますよ!」と、アピールしたいところですが、他には特にありません(笑)。ですが、そんな田舎町だからこそ味わえた体験がたくさんありました。

 まずは、ご近所の方々とのふれあいです。人が少ないので、近所に住む人たちはだいたい顔見知りです。特に、私が住んでいた家の正面にあった屋台には何度も足を運んでいたので、オーナーの家族全員と仲良くさせて頂きました。私の試合を見に来てくれたり、原付バイクにオーナー夫婦と私の3人で乗り、ナイトマーケットに連れて行ってもらったことも良い思い出です(このバイクに3人乗るというのは、日本では絶対に有り得ない光景ですね)。2年経った今も、SNSを通じて連絡を取っており、「いつでもタイに戻っておいで」と言ってくれているので、次のオフシーズンにはタイに行って再会したいと思います。

 また、田舎チームならではのエピソードとして、こんなこともありました。その日は試合の翌日で、練習がオフでした。僕は歩いて片道20分のコンビニまで行き、買い物を済ませて帰る途中の出来事です。

 ふいに、「おーい、カズタカ〜、家に帰るのか? バイクの後ろに乗っていけよー!」

 同年代と見られる男の人に、急にカタコトの英語で話しかけられました。もちろん、私はその人のことは誰か知りません。少し戸惑っている様子を察した彼は「ヘイヘイ、オレはカンペーンペットFCのサポーターだぜ!」と自慢げに宣言してくれました。

 「あーなるほど、そういうことか!」と私も納得。日本では「知らない大人について行っちゃダメ!」と教えられてきましたが、ここはタイの田舎町カンペーンペット。サポーターの善意に甘えて、私は迷うことなくバイクの後ろに乗せてもらい、家まで送ってもらいました。帰り際には「またゴール決めろよ!」と言いながら、笑顔で手を振って去っていくサポーターの彼。田舎町チームならではの、選手とサポーターの距離感です。

 他にも、タイの旧正月である4月に全国で行われる水かけ祭り「ソンクラーン」では、チームメートの家族宅に招かれて、ご飯やお酒を飲みながら祭りに参加。“祭り”と聞いて血が騒ぐ「道産子お祭り男」である私は、ここぞとばかりに大勢の人たちと水をかけ合いました。

 そんな北海道レベルのお祭り男ではなく、祭りで血が騒ぐ世界レベルの人たちがいます。それはタイでは有名な「レディーボーイ」。いわゆる性別を超えた魅惑的?な方々です(大人の方はご察しを)。この田舎町でも、多くのレディーボーイの方々が居ます。

 その祭りでは水をかけるだけではなく、「ディンソーポン」と呼ばれる白いパウダーを水で混ぜて粘土のようにしたものを、お互いの顔に塗り合います(日焼け止めの効果があるみたいです)。奇麗なお姉さんに塗られるのであれば天国ですが・・・。現実はレディーボーイ軍団に両腕を羽交い絞めにされ、ディンソーポンを必要以上に塗られまくった(体全体を触られた?)のは、今も恐怖の思い出として私の脳裏に焼きついています(思い出してゾワっとしたのは、決して喜びの感覚ではありません)。

 と、このように遺跡以外は何も無い田舎町だったのですが、地元の人々のたくさんの優しさに触れられることが出来たカンペーンペット生活でした。

 振り返ると、自分がサッカーをしていなければ、訪れることは無かった場所だと思います。サッカーを通じてタイの田舎町に住んだ私は、『物の豊かさだけではなく、心の豊かさが大切』だと気付くことが出来ました。そして、“心の豊かさ”が少し足りていないのが、今の日本社会のような気がします。サッカーを通じて自分が学んだことを、少しでも日本や地元北海道、そして子どもたちの為にプラスになるよう、今後も活動していきたいと思います。それと同時に、改めてサッカーというスポーツの可能性や素晴らしさに魅力を感じている今日この頃です。


 上:上段写真/牧歌的な風景に遺跡が並ぶカンペーンペット歴史公園
 上:下段写真/子どもたちから激励を受ける大津選手(左)、選手との距離感が近いのも特徴的


 上写真/手前右下で帽子をかぶっているのが大津選手。風貌も現地になじんでおり、違和感が無い。それにしてもみんな明るい表情で楽しそう


◆大津一貴プロフィル◆
少年時代は、札幌山の手サッカー少年団とSSSサクセスコースに所属。中学校時代はSSS札幌ジュニアユース。青森山田高校から関東学院大学へ。卒業後は一般企業へ就職。2013−2014年は、T.F.S.C(東京都リーグ)。2015年FCウランバートル(モンゴル)。2016年スリーキングスユナイテッド(ニュージーランド)。2017年カンペーンペットFC(タイ)、2018年はFCウランバートル(モンゴル)でプレーし、優秀外国人選手ベスト10に選出された。
大津 一貴