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ヨーロッパフットボール回廊『リーズユナイテッド復活の影』

19・02・14
 1919年創立、今年が100周年の古豪リーズユナイテッドといっても、最近の英国フットボール界ではスポットライトを浴びる程ではなくなっている。

 リーグ優勝は1968年、73年、91年と3回優勝しているが、2004年にプレミアリーグから降格して以来、ここ15年はプレミアの下のチャンピオンシップ(2部)、そしてその下(3部)のリーグ1に位置し、往年の勢いはない。

 場所は英国中部ヨークシャーデール(丘陵地帯)の古都、リーズを本拠地とするクラブ。ヨークシャーは1455年に始まった隣地区のマンチェスターの勢力、ランカシャー家に対抗し、30年戦争ともいうべき通称「バラ戦争」を戦い、結局ランカシャー家に敗れた地域でもある。

 ちなみに、リーズユナイテッドのチームカラーは白(白バラ)であり、宿敵ランカシャーのマンチェスター・ユナイテッドは赤というのも、このバラ戦争の時代からのカラーに由来しているのだ。

 そのリーズが久しぶりにプレミアに復帰するかもしれない。今シーズン、2月13日現在、チャンピオンシップのトップ、ノーリッチと2ポイント差の2位を走っている。2位をキープすれば、15年振りのプレミア復帰と、リーズの街は湧いている。昨シーズンは13位で、チャンピオンシップにどっぷりと定着していたクラブとなっており、プレミアへの復帰は厳しいと予想されていたが、今シーズンは一味違う戦い振りを示している。

 その要因はどこにあるのか?

 ひとつには、破産状態であったクラブを2017年イタリアの実業家アンドレア・ラドリッツアーニが買収し、監督にアルゼンチン人のマルチェロ・ビエルサを任命したことであろう。アルゼンチン、チリの代表監督を経験し、2011年アトレチコ・ビルバオの監督を皮切りに、毎年のように(2014—15年マルセイユ、16年ラツィオ、17年リール)ヨーロッパのクラブを渡り歩いた特色のあるビエルサ監督。就任後、昨年と同じ陣容のリーズを一躍プレミアをうかがうチームに仕上げた手腕は高く評価されている。

 その成功の影に隠れて、ひとつの疑惑が明らかにされた。

 同じリーグを戦う、現在7位のダービー・カウンティFC(以下ダービー)の監督フランク・ランパード(元イングランド代表、チェルシーのキャプテン)が「リーズのやり方は汚い。試合前に我がクラブの練習に大勢のスパイを派遣してきて、我がクラブを裸にして試合に臨んだ。イングランドの伝統である相手をリスペクトし、試合前の練習はあえて見ないというのが紳士のスポーツの在り方である」とコメントした。結果は2−0のリーズの勝利であった。

 このランパードのコメントに対して、ビエルサ監督は「我々は試合相手の練習を克明に分析し対処している。ダービーに対してだけではない。そして我々の20人の分析スタッフによって、どう戦うか研究しているのだ。決して悪意を持ってやっているのではない。フットボールの規則的にも抵触していない。特に相手チームへ練習見学もお願いもしていない。試合に備えるあらゆる事象を分析し、勝利を求めて選手に指示を出すのが監督の仕事である。何も悪いことをしているわけではない」と記者会見を開き、ランパードの言葉に反論している。

 そして「分析は詳細で、過去のダービーの試合での出場選手の細かい動き、コンビネーションそしてシステムを含めてである」

 「もちろん試合のビデオだけでなく、我々の分析者が練習を見学し、どの選手が調子が良いのか、どの選手がけがしているのかもである」

 「なぜならこれらの分析をしないことこそ、我々に課せられた仕事を全うしていないことになるからだ」

 と、言わばイングランド人のメンタリティに反するスパイ行為ともとれることを正当化しているのだ。

 正直さ、フェアプレーを尊ぶ英国人からは離れた、ラテン的な、ドグマ(信念)的なビエルサ監督のアプローチに対して多くの反論、議論はあろうが、ビデオアシスタントレフリーの時代、相手の分析はスポーツの勝敗を左右するエレメントになってきたことは確かであろう。

 果たして5月、今シーズンが終わる頃、リーズがプレミアに昇格出来るであろうか。出来ればこのスパイもどきの科学的なアプローチも、正当化されることになるのではないであろうか。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫