サッカーアラカルチョ

一覧に戻る

ヨーロッパサッカー回廊『ワールドカップへ向けてのフレンドリーマッチ』

18・04・11
 6月のロシアワールドカップの行方を占う国際試合が3月末インターナショナル・マッチデーとして世界各地で行われた。出場国がそれぞれ相手を選び、フレンドリーマッチを組み、来たるべき6月のW杯の準備のための試金石となる試合であった。勝ちに行った国、選手を試した国、システムを試した国、それぞれではあるがそこから見えて来た現実はどうであったのか。

 イングランドはヨーロッパの強敵オランダとアウエー(3月23日)アムステルダムで、そしてイタリアとホーム(3月27日)のウエンブレーで戦った。オランダとイタリアは予選で敗退し、今回のロシアの大会には出られないが、次を見据えた強国としてベストメンバーを組み、対戦した。

 イングランドはサウスゲート監督の手腕が試される連戦となった。総勢27名もの選手を招集し、W杯で使える選手、そしてシステムを試す機会を作ったのである。1990年以来ベスト4には届かず、前回ブラジル大会では1勝も出来ず、期待を裏切っただけに注目される連戦であった。

 ルーニーのインターナショナル選手からの引退もあり、監督サウスゲートは現在のベストメンバーを選び挑んだ。

 まずシステムは3−5−2。守備に回ると2ウイングバックが戻り、フラットの5バックスで対応、中盤は3人が攻防に関与し、トップには2ストライカーを配置するシステム。GKは最近のプレミアリーグで重要視されるボールプレーヤーのGK、ただ前線に蹴るだけではなく3バックスとリンクし、味方のワイド、センターの選手にパスできるGKを選び、どこまで通用するか試すシステムを監督サウスゲートは取った。

 GKには24歳エバートンのピックフォード、イングランドGKの中では一番ボール扱いのうまい選手を起用。3バックスにはマンチェスターシティのセンターバック、ストーンズを真ん中に、右にウオーカー(Mシティ)、左にはまだ20歳のゴメスを抜擢、Uー20W杯で優勝した実績をシニアーで発揮できるか試された。そしてウイングバックには右スパーズのトリピエ、左にはスパーズのローズの攻撃力を生かしたデフェンス陣を張った。中盤はキャプテン、リバプールのヘンダーソンを真ん中に、左中に今年花を咲かせた25歳リンガード(マンチェスターユナイテッド)を置き、右中にはアーセナルからリバプールに移籍したチェンバレン。そして2トップには今シーズン、プレミアリーグで16ゴールを決めているマンチェスターシティのワンダーボーイ、23歳のスターリングとマンチェスターユナイテッドの20歳ストライカー、ラッシュフォードでスタートした。最年長が27歳、最年少が20歳の若い可能性ある選手のオンパレードである。

 攻撃はボールが持てるスターリングが、ドリブルでオランダのディフェンスを翻弄、リンガード、ラッシュフォードのスピードあるフォローでチャンスを作る。後半59分にはGKのパスからつなぎ、リンガードがピボットとなり、左へ流しウイングバックのローズのクロスをリンガードがシュート、ボールはネットに入り、1−0。そのままイングランドは危なげなく勝利を収めた。最近になくスピードのある攻撃と堅い守備を見せた新生イングランドであった。

 イングランドの聖地ウエンブレーでのイタリア戦、イングランドはGKに25歳バットランド(ストークシティ)を起用。3バックスにはストーンズ、ウオーカー、左に2年前までは2部のブレントフォードのディフェンダーで、現在バーンレイに移籍したタルコフスキーを配置。ウイングバックにはトリピエとMユナイテッドのベテラン、ヤングを入れ、ミッド3はアンカーにスパーズのダイヤーを置き、オランダ戦の得点者リンガードとチェンバレンをアタッキングMFとした。2トップにはスターリングとレスターのストライカー、バーディのコンビでスタート。

 前半26分にスターリングがドリブルでセンターを抜け、ファールを受けFKを獲得。そのボールを素早くリンガードがフリーのバーディにパス、右足の強烈なシュートが右隅に決まり、イングランドは幸先良いスタートを切った。

 その後も再三チャンスを作り、過去のだるい感じのイングランドとは変わり軽快なスピードに乗った攻めが続き82、598人の観客を魅了していた。しかし87分にイタリアのフォワード、キエーザがドリブルでペナルティエリアに入り、タックルに行ったタルコフスキーがキエーザの足を踏んでPKの判定となった。この判定はこの試合に採用されたVARシステムで主審がビデオで確認した結果である。

 結局、1−1の引き分けとなったが、サウスゲート監督としての戦績ではドイツ、ブラジルにも0−0で引き分けており、世界の強国には負けていない結果となり、若手イングランドの活躍がロシアで期待されている。

 また、この日はアルゼンチンがスペインに1−6という屈辱的なスコアで敗戦。かのメッシがけがで出場していなかったが、アルゼンチンのW杯での活躍に暗雲が立ちこめている。ドイツはブラジルと戦い0−1と敗戦。ここ10試合負けなしのドイツが初めて負けた。ベルギーはサウジに0−4と圧勝。開催国ロシアはフランスに1−3と敗戦した。

 日本はと言うと、マリに引き分け、ウクライナに敗戦と32参加国のなかで29番目にランクされており、現在の監督、選手では予選落ちは必至であろうか(執筆後にハリルホジッチ監督が解任され、西野監督体制が発表された)。

 若手の台頭があるイングランドと、旧来依然の日本では勢いの違いがあることは確かであろう。奮起を促したい。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫