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ヨーロッパサッカー回廊『いよいよプレミアシーズン開幕』

15・08・11
 8月2日、イングランドのフットボール開幕の前哨戦、『コミュニティ・シールド』が晴天のウエンブレイ・スタジアムで行われた。昨年のプレミアリーグ勝者チェルシー対FAカップ優勝者アーセナルとのロンドン対決であった。これから来年2016年5月15日までまた激しい世界一のリーグが繰り広げられるのだ。

 そもそもこの『コミュニティ・シールド』という試合はいつ始まったのか。1908年当時のフットボールリーグの覇者対サウザーン(南)リーグの覇者が、リーグ開幕に先立つ1週間前に対決する試合を実施したのが始まりである。その後1913年にはアマチュアー選抜対プロ選抜になったこともあるが、いずれにせよフットボールの開幕を告げる試合として今年まで107年の歴史を残している。

 この試合の名称は、2002年までは『チャリティ・シールド』という名称で広く人々に受け入れられた催しであった。多くのフットボール関係者、クラブ、サポート組織などの栄誉をたたえて、シーズン開幕に先立ち表彰するためチャリティという言葉が使われていた。それが地域に貢献するためのフットボールとして、『コミュニティ・シールド』という名前に変わったが内容は同じである。

 今年の目玉はいろいろな側面から注目されていた。もちろん勝敗もそうであるが、どのような選手が活躍するのか、試金石としての試合でもあった。そしてこの両クラブは、ロンドンのライバルとして君臨しており、そのクラブを率いる監督のキャラクターも好対照であり、どのような作戦を取るのか、今シーズンの監督の手腕を占う意味でも注目の一戦であった。

 まず選手については、アーセナルが相手のチェルシーからチェコ代表、GKペートル・チェフを獲得し、先シーズンまで不安のあったGKを万全にした中でスタート。一方のチェルシーはストライカー、コスタが負傷欠場、昨年までいたドログバも放出し、ストライカーにはレミーを起用したが存在感不足を呈してのスタートとなった。

 前半24分、アーセナルは左サイド、エジルからの中央へのパスをストライカー・ウォルコットへつなぎ、右サイドの21歳イングランド代表オックス・チェンバレンへパス。オックスは中に切れ込み左足のループシュートを放つとボールは弧を描いて左隅に吸い込まれた。アーセナル1−0とリード。

 チェルシーもアザール、ウィリアン、ファブリガスのボールキープから攻めるもストライカー・レミーの動きが悪くシュートチャンスを作れない。このまま前半が終り、後半にストライカーをレミーからファルカオに代え、オスカルをシャドウに入れてチェルシーは分厚い攻めを期待した。しかし、ファルカオのキレが悪く機能せず、そのままずるずるとアーセナルの堅い守備に阻まれ、結局1−0でアーセナルが13試合勝てなかったチェルシーに勝ったのであった。

 開幕戦を真近に控えた試合でもあり、けがなく終わりたいという選手の気持ちもあったが、チェルシー監督モウリーニョとアーセナル監督ベンゲルはお互いライバル意識と敵対心剥き出しで駆け引きし、試合終了後の握手もせず対応、今シーズンの対決が楽しみである。

 ここでシーズン前の試合から気が付いたことを挙げてみたい。

 1.まずサポーター(観客数85,437人)の質が年々変わってきている。20世紀までのサポーターはウエンブレイ・スタジアムへの地下鉄での道中、ビールをがぶ飲み、電車を揺らしクラブの歌を歌う。あたりかまわず電車の中で用を足す。というフーリガンは姿を消し、サポーターの多くは外国人、ビジネスマンの富裕層に移っている。スラブ系チェルシーファンは、「Yokohama Tyres」のTシャツを着こなし、アーセナルファンも大人しく静かに電車に乗っている。昔のような電車の中での戦いはなくなった。選手の報酬も両チームとも一人あたり10万ポンド/週を超え、それに応じサポーターの層も劇的に変化したようだ。

 2.試合そのものは昔の激しいボールの奪い合い、タックルの応酬、全速力でのラン、シュート、ゴール前の激突はなくなり、スマートにボールを回すポゼッションフットボール全盛となり目を離してもどこでプレーしているのかわかる程になった。しかしExcitingなフットボールを期待するファンには物足らない試合となってきている。

 3.ただし、アーセナルの攻撃パターンだけは選手が変われど変わらず、狭いボックスの中で3人もの選手が交互に動き、その中でボールをインチ単位で動かしシュートへ持っていくパターンを保持している。これこそベンゲルの真骨頂であろう。彼の目は複雑な選手の動きのパターンを繰り返しドリルとして完成させているのだ。他の監督にはない分析力と想像力の差ではないかと思われる。

 4.そして両チームには何人のイングリッシュ、ホームグロウン選手がいるのか。チェルシーはジョン・テリー、カーヒルそしてアーセナルユース出身でバルセロナからのファブリガス(スペイン代表)の3人しかいない。アーセナルもウォルコット、オックス・チェンバリン、ラムゼイ(ウエールズ代表)ギッブスの4人が出場、あとレギュラーにはウィルシャーとウィルベック(両者ともけがで出場していない)の計6人しかいない。

 今年からプレミアリーグの選手登録制度が厳しくなり、登録25人のうち、外国人は17人以内と決められた。イングリッシュ(およびホームグロウン)の選手を最低8人登録させなければならない。アーセナルは何とかぎりぎりであるが、チェルシーは17名の外国人+3人のイングリッシュ計20人でシーズンを乗り切らないといけなくなる。

 そのため、エバートンのイングランド代表ストーンの移籍交渉をしているがまだ決定していない。昨シーズンもチェルシーとマンチェスターシティは22人登録で乗り切った過去があり、何とかイングリッシュのトップ選手を確保することもシーズンを乗り切るには必要となってきている。

 ともあれ8月8日シーズン開幕となる。またドラマが待っているプレミアに期待したい。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫