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ヨーロッパサッカー回廊『これからの日本代表選手と育成の課題』

15・02・20
 アギーレは予想通り更迭されたが、遅きに失した感がある。このような疑惑が発生したからには即時に対処し、更迭するインターナショナルセンスが幹部リーダーには求められる。

 拙速に任命することが、いかにCostly(編集部訳:高くつく、損失の大きい)であるか認識できない幹部は、当然進退を明らかにしなければならない。鈍牛関係者はおたおたするだけで、鼠のように次の餌を探し捲っている状況は醜態とも言えるであろう。

 しかし、代表選手はこの事態に多かれ少なかれ影響されるかもしれないが、試合をするのは選手であり、誰が選ぼうが、誰が選ばれようが、国を代表して戦うことには変わりなく、極端に言えばキャプテンを中心に試合をすればよい。それがグループスポーツであるフットボールの神髄でもある。

 監督というコーチが必要であればじっくりと後釜を探し、3月のフレンドリーマッチには代理でも立ててすませてもよいのではないか。日本人選手に合った監督を内外を問わずじっくり探すのが先決で拙速任命は避けなければならない。

 ところで代表にふさわしい選手はどこにいるのか。これが問題である。

 現在先のオーストラリアでのアジアカップ出場選手をみてみると23人中、大学卒が5人、高校卒(高校選手権経験者)が大半の13人、プロユース出身は5人(香川、西川、吉田、酒井、清武)である。

 Jリーグが発足して既に22年が経過した。その間、各クラブへは当時ヨーロッパの育成システムである、アカデミー制度を採用させ、ヨーロッパに追い付き追い越せの意気込みで学校スポーツからクラブスポーツへの転換を図ったが、その成果は表れているのか。結果はプロユース、アカデミー出身選手は5人しかいない。

 この制度の理念は世界のトップを目指すために、技術的にも体力的にも優れた卵をトップコーチの下で世界標準の域に達成させ、孵(かえ)らせることであった。しかるにまだまだ学校スポーツの中で育った選手が主流であるのは日本の特殊環境のためだからであろうか。

 スポーツより学歴尊重風潮があるのは致し方ないとしても、本田のようにプロジュニアユース選手であったのがユースへは昇格できず、高卒として花を咲かせた選手も多くいる。

 段階年齢別にもう一度レビューしてみよう。FIFAの年齢別世界大会は下記のようになっている。

 トップ:言わずと知れた4年に1回開催のトップのワールドカップ大会(W杯)である。年齢制限はない。次は2018年ロシア開催である。

 U-23:オリンピックの種目となっており4年に1度開催、次は2016年リオデジャネイロである。

 U-20:2年ごとに開催、次は2015年今年ニュージーランドで行われる。

 U-17:2年ごとに開催、次は2015年今年チリで行われる。

 このうちW杯には、1998年のフランス大会以降5回連続出場しているが、直近の2014年ブラジル大会では予選敗退、ベスト16へは程遠い出来であった。

 そしてU-23オリンピックには、1996年以来5回連続出場したが、2012年ロンドンでは1968年メキシコ大会(アマチュアのみ)以来のメダル獲得のチャンスを得たが結局4位となったに過ぎなかった。

 U−20世界大会はというと、1999年の準優勝(遠藤、稲本、小野、小笠原、高原、中田浩二など)を境に2005、2007年はベスト16入りで敗退。2009年以降は今年2015年のニュージーランド大会まで4回続けてアジア予選で敗退し、本大会に出場できない状態が続いている。

 それに輪をかけたように、U−17世界大会も2007年以降2011年のベスト8を含め4回連続出場していたのが、今年のチリ大会ではアジア予選で敗退、本大会へは出場できない状態になっている。

 世界の登竜門であるU-17、U−20でのアジア予選敗退は金太郎飴のように次から次へと選手が生まれ、U−23、そしてトップ代表へつなげる基礎を途切れさせてしまうのではないか。

 そして顕著に表れている現象として、将来国の代表として活躍を約束されるユースU−17の代表選手の出身はというと、2001年まではプロユース出身者より高校選手の方が多かったのが、2003年以降は押しなべてプロユース出身者が多勢を占めている。2005年は、ユース14名、高校7名となり、直近の2015年大会アジア予選敗退代表チームは23人中21名がプロクラブユース出身者で占められていた。高校からの選手はわずか1名であった。

 そのプロユース選手が近未来の代表の主力となりえるのであろうか。

 Jリーグが発足して以来、当初は高校からの選手が代表となる率が多かったのはわかるとして、現在22年経ってもトップ日本代表選手のマジョリティ(多数派)は高校出身者で占められているのはなぜか。

 逆に恵まれた環境の中で、トップコーチに指導されているプロユース選手が年齢を重ねるにつけ、トップ代表選手として伸びないのはなぜか。

 このプロユースと高校のフットボールの在り方を考え直していかないとお互いジリ貧になってしまう危惧がある。

 そこでヨーロッパの育成の仕組みを見てみると、まだまだ取り入れられる仕組みは多々あることに気が付く。

 まず、ヨーロッパでは学校スポーツとしてのフットボールは日本のような部活としては存在しない。学校はあくまで学問をするところである。しかしスクールフットボールは存在する。プロユース(16−18歳)あるいはプロジュニアユース(日本の11−16歳=中学)に所属していても、通学しているスクールの大会へは学校代表として試合に出ること(2重登録可)は可能である(スポーツとしての学校の役割は日本と違い希薄であるが)。

 そして大きな違いは、日本のジュニアユースにしてもユースにしても、入部の年齢(ジュニアユースでは13歳=中1、ユースでは16歳=高1)にそのプロクラブに合格すると、例外はあるにせよ3年間は持続できる仕組みとなっている。そこには単年ごとの入れ替え(退部と採用)はない。

 フットボールのゴールデンエイジ期間に、3年間のクラブ所属を保障することが果たして将来のトップ選手を育成する黄金分割なのか。ヨーロッパのプロユース育成期間では原則1年入れ替えであり、その意味での競争意識とフットボールへのハングリーメンタリティは増長されていく。もちろん入替(首)になった少年にとっては悲劇かもしれないが、また学校でも地域のクラブでも復活できる場は残されている。

 U−17の代表にプロクラブの選手が多いのは、ユース入りたてのU−16の時から注目されエリート化されているのに対し、高校の選手は1年生として下積みの中でもがいて這い上がろうとする意志の力も強くなるからかもしれない。70名も100名もいる高校の部活の中でレギュラーになれるのはわずか一握りであり、プロユースとの比較では環境面ではプロユース優勢ながら競争面、メンタル面では高校優位となっているのではないか。

 日本の代表を強くするにはジュニアユース、ユース年代での1年単位の見直しと入れ替えが必要であり、その救済策としての2重登録容認も考慮する必要もあるかもしれない。大学生に関しては指定選手制度があるのであるから、それを中学、高校年代でも採用することも一考と思われる。

 そして、他スポーツに先駆けて指導者へのライセンス取得を義務付けた点ではレベルアップに大きく貢献しているが、今一度ライセンスは出発点であり、終着点ではないことを指導者は認識し、技術偏重にならず世界トップの選手育成をメンタルの面からも強く指導することも求められている。

 ともあれフットボールは、ボール1つで11対11の闘争スポーツである。技術だけではなく体力もさることながら、勝利というメンタルの強さを要求されるスポーツでもある。さもないと次のワールドカップ出場もおぼつかないかもしれない。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫