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ヨーロッパサッカー回廊『PK戦』

11・02・11
 先のアジアカップで日本が優勝したが、準決勝での韓国戦はPKでの勝利であった。過去、大きな大会でのPK戦による勝者決定については種々論議があったことは事実であり、これからも真の勝者決定方法は論議が行われていくだろう。

 グループ競技のフットボールでの真の勝者が個人のPK合戦による得点で決められるのかという点でフットボールの本質を阻害しているという指摘もある。

 120分戦い勝負がつかなかったら、くじ引きかというのも偶然性が大きく今の時代受け入れられないであろうし、5人のPK戦ではなく1人の一発勝負というのもグループ競技では受け入れられないであろうし、はたまた、センターサークルからドリブルしシュートをするという動的なPKも考えられたが実現はしていない。

 ゴールデンゴール=サッドンデス(90分後同点の場合、120分以内に先に得点したチームが勝利する)もあるがJリーグ開催時、このルールを採用したが、あまりにも劇的過ぎ、かつ試合時間の中で戦うのがフットボールとするFIFA国際委員会(FIFAとイングランド、ウエールズ、スコットランド、北アイルランドで構成しルールを決める機関)では受け入れられなかった。とにかく、120分後に効率よく、かつ合理的に、またグループ競技としてのステータスを保持する中での勝負のつけ方を決めるのは至難の業である。

 しかし一方、PK合戦が公正かつ合理的な勝敗決定となっているのであろうか。

 最近ロンドン・スクール・エコノミックスの教授であるフエルタ氏が1976年から2008年までのPK戦269試合の結果を分析したところ面白い結果が判明した。

 それによるとPK先攻チームの方が後攻チームより勝率がよいという結果であった。先攻の方が6割方勝利していると。

 現在のルールによるとまず両軍のキャプテンがトスをし、勝った方が先攻か後攻を選択できる。その時、確率上は先攻を選択するほうが得策であるとの判断は多分キャプテンの頭にはなく、勢いで、先攻を取ったり、相手キッカ−より味方GKのセーブ力を期待して後攻をとったりしている。

 そして結果は6割が先攻からの勝利であった。といって先攻が必ずしも勝つとは限らない。4割は後攻の勝利だからである。

 フエルタ教授はこの結果を公正化するためにはキッカ−の順番を現在のように、先攻チーム、後攻チーム、先攻チーム、後攻チームとするのではなく、先攻、後攻、後攻、先攻という順番にするのが合理的であるとしている。

 果たしてこの提案がFIFAのルールとなりえるのか? 教授は「頭の固いFIFAのメンバーからはその可能性は少ない」と実現の可能性を否定しているが、一考に価するのではないだろうか。それともPK戦に代わる画期的な方法はないのか、あれば頭の固いFIFAへ特許申請(?)してみてはどうだろうか。

 過去イングランドは、1990年のイタリアW杯でも1996年のユーロでもPK戦で破れ、PK合戦に弱いイングランドの汚名を着せられている。だからこそロンドンの大学の教授のテーマになったのであろう。

 皆様、これからPK戦になったら先攻を取るように―。


◆筆者プロフィル
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫