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ヨーロッパサッカー回廊『イングリッシュレフリーに勝ったスペイン』

10・07・12
 7月11日、1か月に及ぶワールドカップも結局はスペインがオランダに延長の末、1−0で勝ち、ワールドカップで初優勝を飾った。
 
 7月4日のベスト4決定時点で筆者はドイツの優位を予想したが、そのドイツはボールポゼッション率トップのスペイン選手のパスを追いかけ続け、疲れたのか72分、スペインのCKからディフェンダープジョルの豪快なヘディングシュートをくらい、敗退、私の予想は崩れた。英国のメディアはこぞってスペインの優勝間違いないと報道したなかでのオランダ戦であった。
 
 この決勝のレフリーはウエッブ氏。イングランドのレフリーで警察官。過去、決勝のレフリーを英国人が務めたのは、1974年のドイツ対オランダ戦以来。この時のレフリーはテイラー氏で、開始早々ドイツ選手がボールを触る前の有名なクライフの独走、ドイツ選手にペナルティエリア内で倒され、PKを与えたレフリーであり、この時ドイツのベッケンバウアーが「レフ!お前はイングリッシュだな」と言った言葉が今でも残っている。この試合は、結局後半にオランダ・ヤンセンがPKをとられ1−1とされ、その後ドイツが1点を加え2−1で優勝した。
 
 このジンクスもあり、イングリッシュレフリーには遺恨を持つオランダは、スパイクに磁石がついたようなボールタッチと正確なパスをつなげるスペインの選手にいらだちを覚え、オランダは9枚のイエロー(うち1枚はヘイティンガに対する2枚目のイエローで退場)を喫した。この激しいタックルでスペインのパスをカットしようとしたのに、スペインも黙っていられず5枚のイエローをもらい、ワールドカップ決勝史上最多の14枚のイエローがイングリッシュポリスマンから出されたものである。
 
 延長116分に得点を決めたイニエスタもパスをもらう直前オフサイドポジションにいていわゆる“戻りオフサイド”ではないかとこれまたイングリッシュ副審の判断が問われている。それ以上にこの得点の流れはウェッブの誤審から始まっており、オランダのFKはスペイン選手の壁に当たり、本来ならCKがGKとなりそこから得点につながっただけにオランダ監督ファンマルバイクの「またイングリッシュに敗れた」とのコメントも非難できないものがあろう。
 
 ともあれ本大会で明らかになったことは―
 
(1)もはやレフリーもボールの速さ、選手の速さと激しさ、あるいはマリーシアについていけないことであった。テレビ時代のフットボールではあらゆる角度から選手のファール、レフリーの誤審を明らかにしたうえ、放映されている。視聴者は誰が間違った判定をしたのか瞬時にわかる。逆説的に言えば、ノーレフリーで試合したらどうなるか。選手(キャプテン)の良識でプレーしたらどうなるのか。19世紀までの試合はそれで進められていたのが、現代のスピードのあるフットボールではどうなのか。今一度冷静に考える必要が出てきている。FIFAは改めてルールを変更し、ゴールラインテクノロジーまたはレフリーの数を増やす案を次回から実施しようとしているが、現在の3人レフリーでは試合をマネージ出来ないことは明らかになった。
 
(2)そして本大会はビーチボール(公式球ジャブラニの悪評)、ブブゼラ、スター選手の活躍無しも話題となっており、ビーチボール、ブブゼラは次回禁止にすべきこともはっきりした。
 
(3)スター選手、メッシ、ロナウド、ルーニー、カカは単なる駒にすぎないことも証明された。逆に得点王となったドイツにミュラー(20歳)、中盤のダイナモ、オジル(21歳)の若手選手の台頭、スペインのイニエスタ、シャビ、アロンソのボールキープ力、オランダのスナイダー、ロッペンの活躍。本大会最優秀選手賞に輝いたウルグアイのフォーラン、ワールドカップ史上2番目14点を挙げたドイツのベテラン、クローゼ(32歳)、オランダキャプテン35歳ブロンクファーストの目のさめるようなシュートと職人的選手の活躍も目立った大会であった。
 
(4)そして事前に心配された南アの治安、運営も日を重ねるごとに良くなり、南ア国民のお祭りとして大成功であったことも、アフリカでの初のワールドカップとして評価されるべきことであった。
 
 次回はブラジル、そして2018年は、22年は。たかがフットボール、されどフットボール、22人のボールゲームが更に進化していくのか、レフリーはどうなるのか、楽しみを次に持ち越すことができた大会でもあった。
 
 
◆筆者プロフィル
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
伊藤 庸夫