サッカーアラカルチョ
一覧に戻るヨーロッパフットボール回廊『W杯北中米3か国大会開幕:そのエピソード』
26・06・19
6月11日、アメリカ、カナダ、メキシコ3か国の共同開催ワールドカップ(W杯)の開幕戦がメキシコシティスタジアムで幕を開けた。開幕前から懸念された幾多の問題点も棚上げされ、1か月半のお祭り騒ぎが始まった。
懸念された問題点を列挙しどう対処したのかまずは一週目の話題から見てみよう。
1)弱小国の大健闘と引き分けの多さ:アジア勢負け無し
1:6月11日、メキシコ対南アフリカ戦のW杯開幕戦はメキシコシティで行われ、地元メキシコが2−0で勝ち予選突破に拍車をかけた。一方、カナダでの開幕戦は12日トロントで行われ、カナダはボスニアに1−1の引き分け。メインの開催国アメリカでは12日にロスアンジェルスで南米の強豪パラグアイと対戦、4−1と快勝し開催国は出だしの良いスタートを切った。
2:6月18日までにグループAからLまで24試合が行われたがその中でFIFAランキング下位の国の健闘が光った。
まずアジア勢の奮闘が光っている。韓国がチェコに逆転勝ち(2−1)、カタールがスイスに1−1と引き分け。イランもビザ問題でアメリカ入国を拒否されたが、何とか試合当日の1日前に入国でき、ニュージーランドに2−2と引き分けた。サウジアラビアも強国南米のウルグアイに1−1の引き分け、そしてサムライブルーも優勝掛け率20/1、世界ランキング8位のオランダに先行されながらも追いつき2−2とし貴重な勝ち点1を獲得した。アジア勢はこの時点で負け無しである。
3:世界の小国の活躍もこのW杯の特徴であろう
予想通りの強さを見せつけたのはグループE組のドイツ(優勝掛け率14/1の7位)。今大会参加国のうち最小島国キュラソー(カリブ海の島=人口約18万5千人、旧オランダ領の島でありフットボールが盛んな国)は実力差が出て1−7と敗れたが、一時1−1と同点に追い付きドイツを本気にさせた事は評価に値する。
C組ではカリブの小国ハイチがスコットランドに0−1で負けたがその激しい圧力は観客を魅了するものであった。
そして今大会のベスト試合ともいわれるジャイアントキラーの名にふさわしい小国が出現した。FIFAランキング67位、FIFA登録は1985年の間に新星Cabo Verde(カーボベルデ)、西アフリカの小島である。対戦したのは2010年W杯優勝の強豪スペイン。大差が付くのではないかと予想されたがあにはからんや、90分闘い0−0の引き分けに持ち込んだのである。勝ち点1を挙げ同組のサウジ、またはウルグアイに勝ち点挙げればベスト32に進出のチャンスが出てきた。人口58万人の小島である。過去W杯出場国の中ではキュラソー、そしてアイスランド(2018年出場)に次いで3番目の小国である。参加国が前回大会までの32か国から48か国に増え、レベルの差が出るのではと懸念されたが、この開幕1戦目にしてその心配は消し飛んでしまった感がある。
2)世界の戦争とアメリカ入国ビザ問題;イランチームアメリカ滞在不可、ソマリア審判入国拒否
今回のW杯は、イラン対アメリカ+イスラエルの戦争中に起こり、また4年越しのロシア対ウクライナ戦争の真っ只中で行われている。この種のW杯スポーツの祭典は古来、紛争を一旦休止し、スポーツの祭典として行うのが常識であったが、まさに1936年のベルリンオリンピックを背景に第2次世界大戦に流れ込んでいった当時を思い起こさせる大会とも言える。
その為、戦争当事国のアメリカ政府は相手イランのチーム選手、役員のアメリカ入国を制限し、当初はイランチームの入国は試合当日のみというまるで制裁的な措置をとって対処、世界中から非難の声が挙がった。結局試合の1日前の入国を認めたが主催者FIFAも先の抽選会でアメリカトランプ大統領に「Football Peace Prize(フットボール平和賞)」を与えた手前、アメリカ政府の意向に従わざるを得ず黙認してしまった。
しかしアジアNo.1を争うイランはこの制裁に屈せず第一戦のニュージーランド戦を2−2と引き分け、次のベルギー戦に勝ち点を取ればベスト32へ進出出来るが、試合ごとに国境を越えての移動を繰り返す移動のハンデを乗り越えられるか注目である。FIFAも結局無力であることが露呈した処理であった。
またソマリアの主審オマール・アントンがFIFAレフリーとして米国入りした際、アメリカ国境局から「Persona Non Grata(好ましからざる人物=入国拒否者)」の烙印を押され(現在アメリカ政府が入国禁止処分にしている国の中にソマリアも入っている為)、入国できず帰国させられた事件が起こった。主催者たるFIFAもUSA政府の決定には手も足も出せず黙認せざるを得ずスポーツが政治に巻き込まれ無力である点も明らかになってしまった。
3)新しいプレー規則の適用
この大会からFIFAは従来の規則を改正し実施している。
1:前後半の中途23分時及び後半の68分時にそれぞれ3分のハイドレーションブレイク(飲水タイム)を設けて試合を中断することになった。理由はこの時期アメリカ、カナダ、メキシコは夏に入り気温が上がるため給水の要ありとのことで結局4クオーター制にしたのである。
これについて英国のヒーロー、リネカーは「イタリアでも前のアメリカでもブラジルでも45分+45分がフットボールであった。アメリカのテレビ局のコマーシャルを入れる時間帯を創設した悪法である」と非難。一方ではオランダの主将ファン・ダイクも試合の流れを中断すると非難、論議を呼んでいる。ダラスのスタジアムはドーム型完全冷房であり気温は調節されているので飲水タイムは必要ないと主張し今後の課題となっている。
2:CK(5秒)、GK(8秒)、選手交代時(1分)のロスタイムを避けるための制限時間を設け、迅速なプレーを奨励する事となったが、今の所大きな問題はなく推移している。
4)短期決戦での戦術
今大会、各国のチームが取る戦術が最近ヨーロッパ各国リーグで採用する3−4−2−1、または4−1−4−1からコンベンショナルな4−4−2システムを取る国が多くなってきている。エクアドル、コートジボワール、モロッコ、ブラジル、ハイチ、スコットランド、そしてサムライブルーも4−4−2システムを採用している。一発勝負の戦いではまず負けないということが第一義であり各国の監督は安全第一のシステムを採用しているようだ。
5)その他のトピックス
1:盗賊団の出現:イングランド代表チームの用具運搬車が盗まれ、ジャージー、ブーツ(スパイクシューズ)、ボール、GK用グラブ、パンツ等々総額14,500ドル(230万円)相当が盗まれる事件が起こった。しかしキャンプ地カンサス市警察が犯人を逮捕、無事用具を回収でき一安心ながらキャンプ地荒らしには要注意である。
2:今回の大会、キックオフが定刻に出来ず3分から5分遅れてスタートする試合が多い。なぜか?
試合前のセレモニーが長く時間オーバーしてしまうこともあるが、今大会からキックオフ前の国歌斉唱時、11人の出場選手のみならず全員26名が整列するため時間がオーバーしてしまうようだ。おおらかなアメリカン気質によるハップニングであろうか。
3:高額な入場料金の為、試合によっては空席が目立つ試合が散見されている。
韓国対チェコの試合ではメインスタンドがガラガラの様相を呈しており、切符が売れなかったとの批判も出てきたが、主催者側はたまたま多くのサポーターはアメリカ式のポップコーンとコーラを売店で買うため行列していただけだと批判をかわしている。
各試合の観客数を発表しているがそれによると約95%は埋まっており、観客気質もヨーロッパ、南米とは違うようだ。
これからも試合は続く、思わぬジャイアントキラーも出現するであろうし新たなスターも誕生するであろう。これからが本格的な闘いが展開する。また7月のレポートに期待してください。
◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
89−94:日本サッカー協会欧州代表
94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
懸念された問題点を列挙しどう対処したのかまずは一週目の話題から見てみよう。
1)弱小国の大健闘と引き分けの多さ:アジア勢負け無し
1:6月11日、メキシコ対南アフリカ戦のW杯開幕戦はメキシコシティで行われ、地元メキシコが2−0で勝ち予選突破に拍車をかけた。一方、カナダでの開幕戦は12日トロントで行われ、カナダはボスニアに1−1の引き分け。メインの開催国アメリカでは12日にロスアンジェルスで南米の強豪パラグアイと対戦、4−1と快勝し開催国は出だしの良いスタートを切った。
2:6月18日までにグループAからLまで24試合が行われたがその中でFIFAランキング下位の国の健闘が光った。
まずアジア勢の奮闘が光っている。韓国がチェコに逆転勝ち(2−1)、カタールがスイスに1−1と引き分け。イランもビザ問題でアメリカ入国を拒否されたが、何とか試合当日の1日前に入国でき、ニュージーランドに2−2と引き分けた。サウジアラビアも強国南米のウルグアイに1−1の引き分け、そしてサムライブルーも優勝掛け率20/1、世界ランキング8位のオランダに先行されながらも追いつき2−2とし貴重な勝ち点1を獲得した。アジア勢はこの時点で負け無しである。
3:世界の小国の活躍もこのW杯の特徴であろう
予想通りの強さを見せつけたのはグループE組のドイツ(優勝掛け率14/1の7位)。今大会参加国のうち最小島国キュラソー(カリブ海の島=人口約18万5千人、旧オランダ領の島でありフットボールが盛んな国)は実力差が出て1−7と敗れたが、一時1−1と同点に追い付きドイツを本気にさせた事は評価に値する。
C組ではカリブの小国ハイチがスコットランドに0−1で負けたがその激しい圧力は観客を魅了するものであった。
そして今大会のベスト試合ともいわれるジャイアントキラーの名にふさわしい小国が出現した。FIFAランキング67位、FIFA登録は1985年の間に新星Cabo Verde(カーボベルデ)、西アフリカの小島である。対戦したのは2010年W杯優勝の強豪スペイン。大差が付くのではないかと予想されたがあにはからんや、90分闘い0−0の引き分けに持ち込んだのである。勝ち点1を挙げ同組のサウジ、またはウルグアイに勝ち点挙げればベスト32に進出のチャンスが出てきた。人口58万人の小島である。過去W杯出場国の中ではキュラソー、そしてアイスランド(2018年出場)に次いで3番目の小国である。参加国が前回大会までの32か国から48か国に増え、レベルの差が出るのではと懸念されたが、この開幕1戦目にしてその心配は消し飛んでしまった感がある。
2)世界の戦争とアメリカ入国ビザ問題;イランチームアメリカ滞在不可、ソマリア審判入国拒否
今回のW杯は、イラン対アメリカ+イスラエルの戦争中に起こり、また4年越しのロシア対ウクライナ戦争の真っ只中で行われている。この種のW杯スポーツの祭典は古来、紛争を一旦休止し、スポーツの祭典として行うのが常識であったが、まさに1936年のベルリンオリンピックを背景に第2次世界大戦に流れ込んでいった当時を思い起こさせる大会とも言える。
その為、戦争当事国のアメリカ政府は相手イランのチーム選手、役員のアメリカ入国を制限し、当初はイランチームの入国は試合当日のみというまるで制裁的な措置をとって対処、世界中から非難の声が挙がった。結局試合の1日前の入国を認めたが主催者FIFAも先の抽選会でアメリカトランプ大統領に「Football Peace Prize(フットボール平和賞)」を与えた手前、アメリカ政府の意向に従わざるを得ず黙認してしまった。
しかしアジアNo.1を争うイランはこの制裁に屈せず第一戦のニュージーランド戦を2−2と引き分け、次のベルギー戦に勝ち点を取ればベスト32へ進出出来るが、試合ごとに国境を越えての移動を繰り返す移動のハンデを乗り越えられるか注目である。FIFAも結局無力であることが露呈した処理であった。
またソマリアの主審オマール・アントンがFIFAレフリーとして米国入りした際、アメリカ国境局から「Persona Non Grata(好ましからざる人物=入国拒否者)」の烙印を押され(現在アメリカ政府が入国禁止処分にしている国の中にソマリアも入っている為)、入国できず帰国させられた事件が起こった。主催者たるFIFAもUSA政府の決定には手も足も出せず黙認せざるを得ずスポーツが政治に巻き込まれ無力である点も明らかになってしまった。
3)新しいプレー規則の適用
この大会からFIFAは従来の規則を改正し実施している。
1:前後半の中途23分時及び後半の68分時にそれぞれ3分のハイドレーションブレイク(飲水タイム)を設けて試合を中断することになった。理由はこの時期アメリカ、カナダ、メキシコは夏に入り気温が上がるため給水の要ありとのことで結局4クオーター制にしたのである。
これについて英国のヒーロー、リネカーは「イタリアでも前のアメリカでもブラジルでも45分+45分がフットボールであった。アメリカのテレビ局のコマーシャルを入れる時間帯を創設した悪法である」と非難。一方ではオランダの主将ファン・ダイクも試合の流れを中断すると非難、論議を呼んでいる。ダラスのスタジアムはドーム型完全冷房であり気温は調節されているので飲水タイムは必要ないと主張し今後の課題となっている。
2:CK(5秒)、GK(8秒)、選手交代時(1分)のロスタイムを避けるための制限時間を設け、迅速なプレーを奨励する事となったが、今の所大きな問題はなく推移している。
4)短期決戦での戦術
今大会、各国のチームが取る戦術が最近ヨーロッパ各国リーグで採用する3−4−2−1、または4−1−4−1からコンベンショナルな4−4−2システムを取る国が多くなってきている。エクアドル、コートジボワール、モロッコ、ブラジル、ハイチ、スコットランド、そしてサムライブルーも4−4−2システムを採用している。一発勝負の戦いではまず負けないということが第一義であり各国の監督は安全第一のシステムを採用しているようだ。
5)その他のトピックス
1:盗賊団の出現:イングランド代表チームの用具運搬車が盗まれ、ジャージー、ブーツ(スパイクシューズ)、ボール、GK用グラブ、パンツ等々総額14,500ドル(230万円)相当が盗まれる事件が起こった。しかしキャンプ地カンサス市警察が犯人を逮捕、無事用具を回収でき一安心ながらキャンプ地荒らしには要注意である。
2:今回の大会、キックオフが定刻に出来ず3分から5分遅れてスタートする試合が多い。なぜか?
試合前のセレモニーが長く時間オーバーしてしまうこともあるが、今大会からキックオフ前の国歌斉唱時、11人の出場選手のみならず全員26名が整列するため時間がオーバーしてしまうようだ。おおらかなアメリカン気質によるハップニングであろうか。
3:高額な入場料金の為、試合によっては空席が目立つ試合が散見されている。
韓国対チェコの試合ではメインスタンドがガラガラの様相を呈しており、切符が売れなかったとの批判も出てきたが、主催者側はたまたま多くのサポーターはアメリカ式のポップコーンとコーラを売店で買うため行列していただけだと批判をかわしている。
各試合の観客数を発表しているがそれによると約95%は埋まっており、観客気質もヨーロッパ、南米とは違うようだ。
これからも試合は続く、思わぬジャイアントキラーも出現するであろうし新たなスターも誕生するであろう。これからが本格的な闘いが展開する。また7月のレポートに期待してください。
◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
89−94:日本サッカー協会欧州代表
94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫











