サッカーアラカルチョ
一覧に戻るヨーロッパフットボール回廊「W杯予選ヨーロッパ戦線」
25・09・13
FIFAワールドカップ(W杯)2026年はアメリカ、メキシコ、カナダ3か国の共同開催で行われる。
その予選は既に各大陸ブロックで進んでいる。ヨーロッパ(UEFA)は各国のリーグを中断し、International Dayとして9月第1週目に予選が行われた。
イングランドは9月6日にアンドラ、9月9日にセルビアと対戦。結果は2戦2勝でUEFA W杯予選K組で通算5試合失点なき5勝でほぼ北中米W杯行きの切符を獲得した。
4戦目のホームでの対アンドラ戦、従来であれば国際試合はWembleyスタジアムで行われるが、この試合はバーミンガムのアストンビラのホームスタジアムで行われた。アンドラはFIFAランキング174位、スペイン、フランスの国境ピレネー山脈の中にある人口81,940人の小国であり、スキーのメッカとして多くの観光客を受け入れている。アンドラの代表選手のほとんどがスペイン、フランスのリーグ3部及びセミプロ、アマの選手で占められている。試合前から結果は一目瞭然。イングランドが何点ゴールするかが賭けの対象となっている試合であった。
しかしアンドラの11人守備に対し、イングランドの週給10万ポンド―30万ポンドの選手は点を入れられなければ良しとしたのか、ボールを回し、攻めのスピードを欠きやっと1点目を入れたのは前半24分。右からマドウケのクロスをアンドラデフェンスのオウンゴールで均衡が崩れた。
後半に入っても、モメンタム(勢い)はなく、やっと67分、アーセナルのライスが右からのクロスにヘッドでゴールに叩みこみ2−0として勝ち点3を挙げた。ボール支配率76%の圧倒的な試合ながらスピードに欠け、まるでWalking Footballのごとくテンポの遅い攻めで、今後の予選に一抹の不安を残した一戦であった。そのため観客3万9千人のうち半分は試合途中失望したのかスタジアムを去り寂しい試合となった。
しかし3日後の対セルビア戦は違っていた。アンドラ戦No.10のポジションを与えられたエゼ(クリスタル・パレスからアーセナルへ移籍したばかり)の不調で攻撃陣が機能しなかったことで、監督トーマス・ツュシェルはエゼを外しロジャーズ(アストンビラ)を入れ、攻撃のスピードアップを図り左サイドウイングにはスピードのあるゴードン(ニューキャッスル)を配置。一気に活性化した試合展開を狙った。
この2試合で確実に目立った選手は中盤のアンカーたるアンダーソン(ノッチンガム・フォレスト)であろう。まだ22才の若手ながらイングランドUー21でUEFA U−21で優勝し今後のイングランド代表の立役者の一人になることが約束されるプレーヤーである。
試合はストライカー、ケーンが33分CKから得点を奪い、アウエー、ベオグラードの熱狂的セルビアの観客を沈黙させた。その後右ウイングのマドウケ(アーセナル)がドリブルで突破そのまま強烈なシュートを放ち2−0と圧倒。52分にはセンターバックのコンサ(アストンビラ)が得点、更に75分にはグエーイ(クリスタル・パレス)がゴール。試合終了間際には交代出場のラッシュフォードがPKを決め試合を決した。結局5−0の勝利となり、ドイツ人監督ツッシェルもやっとイングランド代表の総入れ替えに成功し、今後のW杯への道を付けたと思われる。これで予選K組からはイングランドのW杯進出の可能性はほぼ確実となった。
しかし、今回のイングランド代表選手に今までは必ずいたマンチェスターユナイテッドの選手が見当たらない。
ラッシュフォードもバルセロナにローン契約で移籍し、センターバックのマグアイヤー、左ウイングバックのショーも昨年秋に就任した監督アモリムのシステムに合わず出場機会もなく、若手の中盤コビー・マイノーも出場機会が減り、移籍希望を出していると言われている。
フットボールは選手主体のゲーム、いくら監督コーチがあれこれ言っても所詮結果論であり、最近よく言われているBomb Squads(爆弾選手とでもいうのか)も結局、監督好みから外れた選手とみられ、持っている技術体力の特徴を生かす事が出来ない監督コーチこそが外れるべきではないかと論評されている。その意味で勝てないMUの監督をどう対処するのかクラブの決定力ある幹部の力量が試されている。
W杯目指す現在のヨーロッパ予選のグループ結果は下記の通り(数字は勝ち点。9月9日時点)。
■グループA(2試合消化)
スロバキア6、北アイルランド3、ドイツ3、ルクセンブルグ0
■グループB(2試合消化)
スイス6、コソボ3、スエーデン1、スロベニア1
■グループC(2試合消化)
デンマーク4、スコットランド4、ギリシャ3、ベラルーシ0
■グループD(2試合消化)
フランス6、アイスランド3、ウクライナ1、アゼルバイジャン1
■グループD(2試合消化)
スペイン6、ジョージア3、トルコ3、ブルガリア0
■グループF(2試合消化)
ポルトガル6、アルメニア3、ハンガリー1、アイルランド1
■グループG(4−5試合消化)
オランダ10、ポーランド10、フィンランド7、リトアニア3、マルタ2
■グループH(4−5試合消化)
ボスニア12、オーストリア12、ルーマニア7、キプロス7、サンマリノ0
■グループI(4−5試合消化)
ノルウエー15、イタリア9、イスラエル9、エストニア3、モルドバ0
■グループJ(4−5試合消化)
北マケドニア11、ベルギー10、ウエールズ10、カザフスタン3、リヒテンシュタイン0
■グループK(4−5試合消化)
イングランド15、アルバニア8、セルビア7、ラトビア4、アンドラ0
■グループL(4−5試合消化)
クロアチア12、チェコ12、ファロー諸島6、モンテネグロ6、ジブラルタル0
なお日本のJリーグに関係した監督としては、前述のセルビア監督のストイコビッチ(元グランパス)、そして筆者の盟友チェコのハシェック監督が頑張っています。彼らがW杯で森保ジャパンと対戦することができることに期待します。
さて昨今プレミアリーグで流行るものは? 実は日本の高校選手権の戦術の一つであるロングスローが流行っているのだ。
昨シーズンアーセナルがCKから得点を連発、CKによる攻めを各チームは研究してきている。そして今シーズンはロングスローである。ニューキャッスルは開幕以来3試合で7回ロングスローをゴールエリアへ投げ込んでいる。またCKでの得点を量産したアーセナルも次はロングスローとばかり、研究を実践していると言われている。
これからも楽しみなヨーロッパ戦線に注目です。
◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
89−94:日本サッカー協会欧州代表
94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
その予選は既に各大陸ブロックで進んでいる。ヨーロッパ(UEFA)は各国のリーグを中断し、International Dayとして9月第1週目に予選が行われた。
イングランドは9月6日にアンドラ、9月9日にセルビアと対戦。結果は2戦2勝でUEFA W杯予選K組で通算5試合失点なき5勝でほぼ北中米W杯行きの切符を獲得した。
4戦目のホームでの対アンドラ戦、従来であれば国際試合はWembleyスタジアムで行われるが、この試合はバーミンガムのアストンビラのホームスタジアムで行われた。アンドラはFIFAランキング174位、スペイン、フランスの国境ピレネー山脈の中にある人口81,940人の小国であり、スキーのメッカとして多くの観光客を受け入れている。アンドラの代表選手のほとんどがスペイン、フランスのリーグ3部及びセミプロ、アマの選手で占められている。試合前から結果は一目瞭然。イングランドが何点ゴールするかが賭けの対象となっている試合であった。
しかしアンドラの11人守備に対し、イングランドの週給10万ポンド―30万ポンドの選手は点を入れられなければ良しとしたのか、ボールを回し、攻めのスピードを欠きやっと1点目を入れたのは前半24分。右からマドウケのクロスをアンドラデフェンスのオウンゴールで均衡が崩れた。
後半に入っても、モメンタム(勢い)はなく、やっと67分、アーセナルのライスが右からのクロスにヘッドでゴールに叩みこみ2−0として勝ち点3を挙げた。ボール支配率76%の圧倒的な試合ながらスピードに欠け、まるでWalking Footballのごとくテンポの遅い攻めで、今後の予選に一抹の不安を残した一戦であった。そのため観客3万9千人のうち半分は試合途中失望したのかスタジアムを去り寂しい試合となった。
しかし3日後の対セルビア戦は違っていた。アンドラ戦No.10のポジションを与えられたエゼ(クリスタル・パレスからアーセナルへ移籍したばかり)の不調で攻撃陣が機能しなかったことで、監督トーマス・ツュシェルはエゼを外しロジャーズ(アストンビラ)を入れ、攻撃のスピードアップを図り左サイドウイングにはスピードのあるゴードン(ニューキャッスル)を配置。一気に活性化した試合展開を狙った。
この2試合で確実に目立った選手は中盤のアンカーたるアンダーソン(ノッチンガム・フォレスト)であろう。まだ22才の若手ながらイングランドUー21でUEFA U−21で優勝し今後のイングランド代表の立役者の一人になることが約束されるプレーヤーである。
試合はストライカー、ケーンが33分CKから得点を奪い、アウエー、ベオグラードの熱狂的セルビアの観客を沈黙させた。その後右ウイングのマドウケ(アーセナル)がドリブルで突破そのまま強烈なシュートを放ち2−0と圧倒。52分にはセンターバックのコンサ(アストンビラ)が得点、更に75分にはグエーイ(クリスタル・パレス)がゴール。試合終了間際には交代出場のラッシュフォードがPKを決め試合を決した。結局5−0の勝利となり、ドイツ人監督ツッシェルもやっとイングランド代表の総入れ替えに成功し、今後のW杯への道を付けたと思われる。これで予選K組からはイングランドのW杯進出の可能性はほぼ確実となった。
しかし、今回のイングランド代表選手に今までは必ずいたマンチェスターユナイテッドの選手が見当たらない。
ラッシュフォードもバルセロナにローン契約で移籍し、センターバックのマグアイヤー、左ウイングバックのショーも昨年秋に就任した監督アモリムのシステムに合わず出場機会もなく、若手の中盤コビー・マイノーも出場機会が減り、移籍希望を出していると言われている。
フットボールは選手主体のゲーム、いくら監督コーチがあれこれ言っても所詮結果論であり、最近よく言われているBomb Squads(爆弾選手とでもいうのか)も結局、監督好みから外れた選手とみられ、持っている技術体力の特徴を生かす事が出来ない監督コーチこそが外れるべきではないかと論評されている。その意味で勝てないMUの監督をどう対処するのかクラブの決定力ある幹部の力量が試されている。
W杯目指す現在のヨーロッパ予選のグループ結果は下記の通り(数字は勝ち点。9月9日時点)。
■グループA(2試合消化)
スロバキア6、北アイルランド3、ドイツ3、ルクセンブルグ0
■グループB(2試合消化)
スイス6、コソボ3、スエーデン1、スロベニア1
■グループC(2試合消化)
デンマーク4、スコットランド4、ギリシャ3、ベラルーシ0
■グループD(2試合消化)
フランス6、アイスランド3、ウクライナ1、アゼルバイジャン1
■グループD(2試合消化)
スペイン6、ジョージア3、トルコ3、ブルガリア0
■グループF(2試合消化)
ポルトガル6、アルメニア3、ハンガリー1、アイルランド1
■グループG(4−5試合消化)
オランダ10、ポーランド10、フィンランド7、リトアニア3、マルタ2
■グループH(4−5試合消化)
ボスニア12、オーストリア12、ルーマニア7、キプロス7、サンマリノ0
■グループI(4−5試合消化)
ノルウエー15、イタリア9、イスラエル9、エストニア3、モルドバ0
■グループJ(4−5試合消化)
北マケドニア11、ベルギー10、ウエールズ10、カザフスタン3、リヒテンシュタイン0
■グループK(4−5試合消化)
イングランド15、アルバニア8、セルビア7、ラトビア4、アンドラ0
■グループL(4−5試合消化)
クロアチア12、チェコ12、ファロー諸島6、モンテネグロ6、ジブラルタル0
なお日本のJリーグに関係した監督としては、前述のセルビア監督のストイコビッチ(元グランパス)、そして筆者の盟友チェコのハシェック監督が頑張っています。彼らがW杯で森保ジャパンと対戦することができることに期待します。
さて昨今プレミアリーグで流行るものは? 実は日本の高校選手権の戦術の一つであるロングスローが流行っているのだ。
昨シーズンアーセナルがCKから得点を連発、CKによる攻めを各チームは研究してきている。そして今シーズンはロングスローである。ニューキャッスルは開幕以来3試合で7回ロングスローをゴールエリアへ投げ込んでいる。またCKでの得点を量産したアーセナルも次はロングスローとばかり、研究を実践していると言われている。
これからも楽しみなヨーロッパ戦線に注目です。
◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
89−94:日本サッカー協会欧州代表
94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫











