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一覧に戻るヨーロッパフットボール回廊「クラブ・ワールドカップが真のワールドカップ前哨戦か?」
25・07・18
7月12日、アメリカニュージャージー州(ニューヨークの対岸)のEast Rutherford(イースト・ラザフォード)にあるメットライフスタジアムには82,500人の観客が押し寄せ、FIFA主催のクラブ・ワールドカップ(CWC)の決勝戦が行われた。今大会は、FIFAが参加クラブ数を32に拡大した初のクラブの世界大会、大会予算は7.26億ポンド(約1,415億円)であった。
灼熱の中でのチェルシー対パリ・サンジェルマン(PSG)の決勝戦は圧倒的な攻撃力を持つチェルシーが3−0のスコアで初制覇となった。ヒーローは2得点を挙げたイングランド代表のパーマーであった。
思い起こすのは1994年のワールドカップ(WC)が行われたのはアメリカであり、その決勝戦はロス郊外のパサデラにあるローズボウルで行われた。ブラジル対イタリアの決勝戦、94,194人の満員の観客を呼び、試合は0−0で延長戦終了、PK戦に突入し、かのイタリアのストライカー、バッジオが痛恨のPKを外し、猛暑の中ブラジルがPK3対2で覇を唱えた一戦であった。
その当時のWCと今回のCWCには31年の年月が過ぎているが、問題点は変わらず、2026年のアメリカ、カナダ、メキシコ3カ国の共同開催によるWCでも同じ事象が起こるのではないかと危惧されている。
その問題点事象をまず挙げてみよう。
1)気候について
1994年のWCも6月に行われ、アメリカ各地で熱波が起こり、スタジアムには屋根もなくパサデラでの決勝戦も灼熱39度の中で覇を競った。今回のニュージャージーでの決勝戦も7月中旬真夏の熱波の中での試合となった。屋根もないスタジアムでの決勝戦、前後半の途中、飲水タイムをとり休憩を挟んでの試合となった。またベンチで待機していた選手も熱気のため急遽エアコン付き更衣室へ戻り待機するケースもあった。さらに、雷による試合中断が頻発し、ベンフィカ(ポルトガル)は120分停止の後再開したケースもあり、6試合が2時間以上も遅れ再開した試合もあった。せめて2026年のW杯のスタジアムには屋根付きは必須ではないのか? 今から間に合うのか?
2)予選試合の組み合わせについて
観客数が大幅定員割れの試合が多く見られた。この定員割れは1994年でも多くのスタジアムで散見されたが今回のCWCでも同様の定員割れが起こった。例を挙げれば蔚山HD FC(韓国)対マメロディ・サンダウンズ(南ア)戦が3,412人(全席数の13.6%)という最小観客数を記録。試合はマメロディが1−0で勝利した。
ちなみにリバプレート(アルゼンチン)対浦和レッズ戦は17%の11,974人という観客数であった。またチェルシー対ロスアンジェルスFC戦も31%の低観客数であった。アメリカのメインスポーツはアメフットでありベースボールである。サッカー(アメリカと日本だけがサッカーと呼び、ヨーロッパはFoot ballという)は昨今、ロナウド、メッシなどの元世界的な選手を集めているスポーツとして認められてはいるが、スタジアムを満員にするだけの魅力を一般観客は感じていないのではないだろうか。
3)スタジアムの問題点
アメリカでは屋根付きスタジアムが少ない(今回のCWCでは屋根付きスタジアムは5か所しかなかった)ことに加えて、問題は天然芝の質がフットボールメッカのヨーロッパと違い、ボールの弾みがヨーロッパとは異なる。これは多くのスタジアムが人工芝であったのを、急遽天然芝を移植したこともありヨーロッパの選手にとっては違和感あるピッチとなっていた。このピッチ改革が26年のW杯までに間に合うのだろうか?
4)この大会の魅力はFIFAによれば、参加費と勝利費が過去にない高額であり、北米での2026年W杯を見据えて世界のクラブ、そしてナショナルチームにインセンティブを与える大会であると宣言している。
その獲得賞金額を列挙してみよう。(英国ポンド換算195円/£)
1位:チェルシー(イングランド) £84,1百万=164億円 優勝
2位:PSG(フランス) £78,4百万=153億円 準優勝
3位:レアル・マドリッド(スペイン)£60,5百万=118億円
4位:フルミネンセ(ブラジル) £50,4百万= 98億円
5位:B.ミュンヘン(ドイツ) £42,2百万= 82億円
6位:B.ドルトムンド(ドイツ) £38,4百万= 75億円
7位:マンチェスター・シティ(イングランド)£37,8百万= 73,7億円
8位:パルメイラス(ブラジル) £29,1百万= 56,7億円
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18位:インター・ミラン(イタリア)£15,5百万= 30億円
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28位:蔚山HD FC(韓国) £7百万= 13,6億円
29位:浦和レッズ(日本) £7百万= 13,6億円
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32位:オークランド・シティ(ニュージーランド)£3,5百万= 6,8億円
この結果を見ると世界のフットボールはヨーロッパが席巻し、南米が続き、アジア勢はまだまだ世界のトップクラブには追い付いていないことがわかる。
その他、スケジュールが混み合い、ヨーロッパの場合はシーズン終了から新シーズン開幕まで最低20日間は選手を休ませなければならない規則がある。果たしてこの大会で活躍した選手が来シーズン開幕時に体力的、精神的にもフレッシュで臨めるのか、また今後このCWCがどのように開催されていくかにも注目したい。
◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
89−94:日本サッカー協会欧州代表
94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫











