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ヨーロッパフットボール回廊「各国リーグ優勝争い、プレミア下位がUEFA EL決勝戦」

25・05・18
 
 ヨーロッパのトップリーグ戦もあと数試合を残し5月末に終了する。先陣を切って覇権を制したのはドイツ、ブンデスリーガのバイエルン・ミュンヘン(以下BM)である。

 イングランド代表・キャプテンのハリー・ケーンは代表歴105試合71点の記録を持っているが、代表としても所属していたクラブのトッテナム・ホットスパーのストライカーとしても優勝することはなかった。何としても栄冠を獲得したいという一念で、昨季ドイツブンデスリーガ常勝のバイエルン・ミュンヘンに移籍した。しかし36得点を挙げたにもかかわらず伏兵レーバクーゼンに後塵を拝しカップを掲げることが出来なかった。優勝という言葉に嫌われたケーンであった。

 BMは栄誉復活の為、今シーズン監督ツッシェル(現イングランド代表監督)を更迭、マンチェスター・シティでプレーしていたヴィンセント・コンパニ―(ベルギー)を任命した。そして今シーズンは安定した力で昨シーズン優勝のレーバクーゼンに13ポイント差をつけ優勝。ロンドンのスパーズ一筋のケーンにとって人生初の優勝を勝ち得たのである。ケーンはBMではリーグで26点を挙げブンデスリーガの2年連続得点王になった。

 お隣のフランス、リーグアンではフランス代表、得点王のエムバペが今シーズン、フリーエージェントとしてパリ・サンジェルマン(PSG)を去りスペインのレアル・マドリッドに移籍した。この至宝放出でPSGのリーグ優勝は覚束ないとみなされていたが、PSGは2位マルセイユに19ポイントの圧倒的な強さで覇権を獲得した。

 今やプレミアと並び欧州を席巻するスペインリーガ1ではあと2試合を残し、バルセロナが宿敵レアル・マドリッドを現在勝ち点7差で離し優勝を決めた。5月11日の直接対決では、レアルが逆転優勝の望みをつなぐのか、バルサが逃げ切り覇権を獲得するのか注目された一戦だったが4−3でバルサが競り勝った。優勝を逃したレアルも一人のスーパースターがいるだけでは勝てないというフットボールの醍醐味を如実に現わした結果であろう。

 そのバルサはUEFA チャンピオンズリーグ準決勝戦、ホームアンドアウエー合計7−6のスコアでイタリアのインターミランに敗れて以来停滞しており、どちらに転ぶか余談を許さない状況であった。宿敵レアルの監督アンチェロッチは覇権を取れないことを予測して来シーズン監督を降りることを表明、ブラジル代表監督に任命されることとなった。レアルの次期監督は誰か、ドイツのレーバクーゼン監督シャビ・アロンソの名前が挙がっている。

 イタリアセリアAはナポリとインターミランがあと2試合を残しその差は勝ち点1の差でナポリがリード、元スパーズ監督であったコンテ監督率いるナポリは、2022−23シーズンに33年ぶりの優勝を果たし、かのマラドーナ全盛時代の面影を彷彿させる戦いぶりで1980−90年代以来の黄金期を築くべくまっしぐらで走っている。特にMUから移籍した中盤かつ得点源のマクトミネイ(スコットランド代表)の活躍は目を見張るものだ。MFながら既に11点を挙げストライカー顔負けの活躍である。

 さてイングランドプレミアリーグはというと今年は1強リバプールが断トツの強さを発揮し優勝を飾った。守備は固く、キャプテンのファンダイク(オランダ)をセンターに、右にアーノルド(イングランド)、左にロバートソン(スコットランド)、中盤にはハンガリー代表のスゾボスズロー、そしてマッカリスター(アルゼンチン)、トップの点取り屋サラ(エジプト)、ガクポ(オランダ)、ヨタ(ポルトガル)、ディアズ(コロンビア)等の布陣はプレミアでは群を抜いている。

 そして来季のチャンピオンズリーグ出場をかけたトップ5へはアーセナル、ニューキャッスル、チェルシー、アストンビラ、マンチェスター・シティ、ノッチンガムが凌ぎを削っている。そして来季のヨーロッパリーグへの参入を賭け、ブレントフォード、そして三苫の活躍が目立つブライトンが追っており、あと2試合を残すリーグは白熱を帯びている。

 その中で過去のプレミアリーグで常勝していたイングランド名門の凋落も今年は顕著となっている。その代表的なチームはマンチェスター・ユナイテッド(MU)とスパーズであろう。現在MUはプレミアの16位、スパーズは17位。降格するチームは18位イプスウイッチ、19位レスター、そして20位サザンプトンが決まっている。

 そして5月21日(水)スペインのビルバオで行われるUEFAヨーロッパリーグの決勝戦に勝ち残ったイングランド、マンチェスター・ユナイテッド(MU)とトッテナム・ホットスパー(Spurs)が対戦することになった。

 この試合についてFIFA Football Developmentのチーフである元アーセナルの監督であったベンゲルは「UEFAの2部ともいえるヨーロッパリーグに勝ち残ったMUとSpursに対しては敬意を表するが、この勝者(優勝チーム)が来シーズン自動的にUEFA チャンピオンズリーグに参加できるのは一考を要する。自国リーグの16位17位降格候補チームが世界のトップレベルのチャンピオンズリーグに昇格することは納得が行かない」とコメントした。果たして今後UEFAで制度改正が行われるのか注目である。

 そのMUは低迷混乱のシーズンを送っている。今シーズン途中就任の監督アモリムの3−4−3システムに沿わない多くの選手をローンで貸し出しているが皮肉な事に彼らはローン先で大活躍している。

 典型的なのはナポリに移籍したマクトミネイ、中盤の選手ながら既に11点を挙げセリエ優勝を目指すスター選手として活躍。マルセイユにローン移籍しているグリーンウッドは22点。イングランドチェルシーのサンチョも4点9アシストと大活躍。スペイン、レアルベテスへ1月ローン移籍したアントニーも4点2アシストと彼がMUで稼いだ得点を2か月で達成、さらには監督に干されたイングランド代表ストライカー、ラッシュフォードもアストンビラで6得点を挙げている。

 彼らの今シーズンの得点合計は47点にもなる。彼らがMUに残っていたならばどうであったであろうか。いかにマネージメント体制がそして適任者たる監督コーチの存在が問われる現象が勝敗を決することは確かな事だ。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−94:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫