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一覧に戻るヨーロッパフットボール回廊『ヨーロッパのリーグ開幕、UEFA NLも始まった』
24・09・15
秋到来のヨーロッパ、各国リーグが開始されそれに並行してUEFA Nations Leagueも開催された。
ヨーロッパの各国チームの目標はまずは2026年のアメリカ、メキシコ、カナダの共同開催W杯(48か国参加)に出場する事であろう。次いでヨーロッパ選手権(EURO)であるが、今年スペインがイングランドを破り優勝し、次の2028年EURO開催国はイングランドとアイルランドの共同開催が決まっている。
アジアでは既にW杯の予選が始まっており、日本は圧倒的強さで中国、バーレンを破り、幸先良いスタートを切っているのは頼もしいかぎりだ。
ヨーロッパでは北中米3か国のW杯の予選は来年2025年3月より16か国出場枠をかけて始まるが、その前哨戦ともいうべきUEFA Nations League(UEFA NL)がこの9月より始まった。
この主な組み合わせは下記の通り。
League AはA1、A2、A3、A4の4組に分けられヨーロッパの強豪が分散されており、スペインはA4組、ドイツはA3組、フランスはA2組、ポルトガルはA1組に属している。
一方、イングランドはLeague Bに属しアイルランド、フィンランド、ギリシャと同組のB2グループに属している。League Aに比較して第2グループともいうべきランクである。ちなみにLeague C、League Dはランクの低い国が分散されている。
このUEFA NLの勝者16か国がW杯の出場枠になるかについてはいまだに決定されておらず、別途来年25年の予選次第となるようだ。
そのイングランドであるが、EURO24で準優勝した監督サウスゲート氏が辞任、The FA(イングランド協会)は後任にイングランドU21(EURO2023)で優勝したヘッドコーチLee Carsley(リー・カースレイ)を代理監督として起用、当面正式に監督を招聘するまで指揮を執らせることとした。
カースレイ代理監督は英国バーミンガム生まれのアイルランド人であり、プロとしては中盤の選手としてダービー、ブラックバーン、コベントリー、エバートン、バーミンバム、再びコベントリーと渡り歩いた。1995年ダービー時代にアイルランド代表選手に選ばれており、2002年日韓W杯ではアイルランド選手として来日している。その後コベントリーFCの監督、ブレントフォード監督を経て2020年からThe FAのU20及び21のヘッドコーチを務めていた。彼の指導者としてのモットーはあくまでたゆみなき攻撃型システムを重んじ、選手の性格、特徴にあったシステムを採用して成功している。
そのカースレイ代理監督のUEFA NLのイングランド代表デビューは彼の故国アイルランド首都ダブリンでの対アイルランド戦であった。話題となったのは選手起用とシステムでどう戦うかもさることながら、まず彼は「試合前のイングランド国歌は歌わない」と宣言、マスコミは一斉に非難、あるコラムでは「即クビにすべき!」との強い言葉も出た。
次にロッカーからベンチに向かう際、意識してか意識せずか、自然体で相手アイルランドのベンチに座ってしまったのだ。指摘され慌ててアウエーのイングランドベンチに戻ったが、最初から彼の行動に『?』を記し、非難する紙面もあった。
しかし試合の展開は前監督のサウスゲートの慎重なボールポジェッションから、彼がU21で優勝したメンバーから4人を抜擢、展開の速い攻撃を示した。前半11分にユース時代はアイルランド代表選手であったライス(アーセナル)が決め、更に26分には、これまたアイリッシュでダブルナショナルのマンチェスターシティ所属のMFグレアリッシュが決め2−0で完勝した。アイルランドのホームでアイルランドに縁のあるヘッドコーチ、選手の活躍で久しぶりにイングランドの速さと攻撃に魅了された試合となった。
そして3日後の9月10日、雨のウエンブレーでの対フィンランド戦もボールポジェッション70%でフィンランド選手はディフェンスに終始している中、キャプテン、ケインが代表100試合目の試合を飾る強烈なシュートを57分に決めた。更に76分にも彼のゴールデンブーツ(金色のスパイク)での得点で2−0の勝利となった。カースレイ代理監督のデビューを2試合無失点で勝ち、今後の躍進を約束させる新イングランド代表の試合であった。
イングランドFAはこのカースレイ代理監督のパーフォーマンスに満足の意を示しているが、代表監督としてはビッグネームを模索しており、今後の推移を見守る必要があるだろう。カースレイ代理監督の去就は今後の代表試合4試合次第で決まるが、選手をよく理解しかつU21優勝に貢献した若手選手の起用を目の前にして続投の可能性も高い。The FAのサウスゲート元監督もU21のヘッドコーチから昇格しており、イングランドのユースからトップまでの選手を掌握できている点で外国人監督を新たに採用する是非が問われている。
なお機縁ながら筆者はカースレイ代理監督をよく知っています。時は2002年、日本がFIFA日韓W杯開催時に筆者はアイルランド代表チームのコーディネータ―としてキャンプ地、出雲市、そして大会試合中は千葉稲毛公園でのアイルランドチームと寝食を共にした関係です。
当時キャプテンはロイ・キーンでしたが、サイパン島での第一次キャンプで彼が練習場の状況が最悪としてチームを離脱、帰国してしまった事件が起きたのです。そのため100人を超える報道陣が出雲市に押しかけ、お陰でアイルランドチームの活躍がどうかとの期待と不安が世界中に発信されたのです。
その時のメンバーの一人にこのカースレイが中盤の選手として登録、寝食を共にしていたのです。筆者はロイ・キーン問題での各国報道陣の整理と監督ミック・マッカーシーとキャプテン格のクインの日本語通訳で忙しい日々を過ごしていました。時々GKシャイ・ギブンとロングキックの練習相手をしていたことも思い出されます。
選手のほとんどがイングランド生まれながらアイリッシュ・アイデンティティーを保有し、選手は皆紳士であり、闘う集団としては最高のメンバーでした。W杯の結果は、カメルーンに1−1引き分け、ドイツにも1−1で引き分け、サウジに3−0で快勝、べスト16入りし、韓国でのスペイン戦で1−1の後PKで敗れ涙をのみましたが非常に格式の高い選手集団でした。
カースレイ代理監督が前任者サウスゲートと同じ道を進むのか、はたまた名が通った国際的な監督が指名されるのか今後のイングランド代表の行先に注目したいですね。
◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
89−94:日本サッカー協会欧州代表
94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫