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ヨーロッパフットボール回廊『オリンピックも終わりフットボールシーズン開幕へ』

24・08・15
 
 8月10日、ロンドンのウエンブレースタジアムで今年度のフットボール開幕のコミュニティ・シールド戦が行われた。前年度リーグ優勝のマンチェスター・シティ(以下MC)対The FAカップ優勝のマンチェスター・ユナイテッド(以下MU)であった。

 ちょうどパリでのオリンピックが開催されており、国民のほとんどがメダル競争の激しい多種目のオリンピックに一喜一憂した最中での幕開けであり、更に英国中で右翼の暴動が勃発しており、マンチェスターからロンドンへの移動も躊躇されていた。そのこともありMC、MU共にマンチェスターの名門クラブながらサポーターの熱意はそれほど伝わらず、78,146人と近年では少ない観客のもと行われた。

 試合展開はMCがユース上がりの若手中心でデフェンスの要、ウオーカー、ストーンズ、FWフォーデンのワールドクラス選手がユーロ24に出場した為休暇中でメンバー入りさせず、白熱したライバル同士の戦いを期待したサポーターにとっては物足らない一戦であった。試合展開も強く、早く、息つく暇もないほどの激しさのプレミアらしからぬ凡戦であった。

 試合を白熱化したのは82分にMUの途中出場のガルナチョが1点を決めてからであった。負けられないMCは若手選手を代え、シルバーを入れ、彼が88分同点のゴールを決め1−1。決着をつける為90分終了後即PK戦となった。

 PK戦を制したのはMCであった。MUはブンデスリーガのBドルトムンドからから復帰したサンチョが外し、7−7の後ベテラン、エバンスが外し、MCが優勝の盾(シールド)を勝ち取った。白熱したのはPK戦だけの開幕戦であった。なお過去116年の歴史の中でMU優勝は17回と最多、2位はアーセナルの16回となっている。

 この試合何が欠けているか識者は論議しているが、一つには年間のフットボール日程が過密であり、選手は休む間もなく、プレミア、リーグカップ、FAカップ、そしてトップのクラブはヨーロッパチャンピオンズカップ、UEFAカンファレンスカップ、加えて優勝チームはFIFA W杯クラブ選手権、更に代表選手はW杯予選、ユーロ予選、そしてその本戦と息つく暇もないほどで年間70から80試合をこなす選手も出てくる。当然パーフォーマンスも劣化、けがも付き物となってきている。どこかで一旦休む必要があるのではないかと思われる。

 フットボールファイナンスなる経済用語も出てきており、テレビ放映権料の高騰、それに伴う選手報酬の高騰、そして選手を保有する代理人の横行が目立ってきているのだ。一方、大衆スポーツの観点からもトッププレミアクラブの入場券が買えないというという現実も出てきている。

 筆者が10年前、4部のBrentfordの試合を観戦に行くとすれば、スタジアムに30分前に着けば切符が10ポンド(約1,800円)で買えた。しかし今やプレミアリーグに上がり、一般席はすべてホームサポータークラブに登録した者しか切符は買えない。それも定員の130%を超えており、一般観光客は席の切符は買えないのが実情である。また買えないことは無いが、それはHospitality付入場券であり1人500ポンド(食事もつくが)を超える。経済優先フットボールがその質的下落を招かねない恐れがある。一方、その反動で最近やっと閑子鳥が鳴いていた女子のフットボールも盛況となって来たことも事実である。

 すべて経済的に判断するのではなく、総合的フットボール界への転換を誘導していく仕組みを模索する必要があるようだ。このまま行けばどこかで沸騰しないかと疑問を呈する識者もいるが、一方では世界の富豪、強力企業が投資の目的で、あるいはアラブ石油マネーで、あるいは世界経済を律するアメリカ財界の富豪の余暇としての投資が続く限りこのまま発展していくのだという見方もあることも事実だ。とはいえ緑の芝生の上で格闘する選手の技術、美技、闘志、グループ戦術は見ている者に感動を与えることも事実だ。新たなシーズンが真近に迫って来ている。こうご期待!

 ちなみに今シーズンのプレミアの優勝掛け率は下記のようだ(Betfair社による)。
優勝:M City:13/10
2位:アーセナル :13/8
3位:リバプール :13/2
4位:チェルシー :14/1
5位:MU    :20/1
6位:スパーズ  :22/1


 さて閑話休題:パリオリンピックフットボールの結果について見てみよう。
オリンピックの男子フットボールU−23の世界大会であり、IOC主催ではなく、FIFA主催である。オリンピックの開幕戦より早くスタート、その決勝戦が8月9日パリのPSGの本拠パーク・デ・プランスで行われた。スペインがホスト国フランスを90分の前後半で3−3と同点後の延長戦で100分、120分セルジオ・カメルの2得点で突き放し5−3で金メダルを勝ち取った。

 女子はスペインがUSAに敗れW杯優勝に続く2冠はならず、3位決定戦でドイツにも1−0で敗北メダルは取れなかった。

 次のオリンピックはアメリカ、ロス・アンジェルスで行われる。GB(グレートブリテン=英国)は4つのFIFA加盟国(イングランド、スコットランド、ウエールズ、北アイルランド)を持ち合同チーム編成が出来ず、パリオリンピックには参加していない。

 過去アマチュア時代にローマオリンピック1960年にオックスフォード大学とケンブリッジ大学が合同で出場したが、プロ化して以来は2012年のロンドンオリンピックにイングランドとウエールズの合同チームが参加しただけである。しかし次時代を背負うU−23の大会に出ないことはないと次のロスでの大会(2028年)には合同チームを編成しU−23で優勝を狙うとしている。

 そして、先のユーロでスペインに決勝戦で敗退したイングランド監督サウスゲートの辞任に伴い昨年のユーロU−21を制覇したレズ・カースレイが代理監督として任命され、秋のネーションズリーグで指揮を執る事が決定した。若手を優勝へ導く手腕と力量に賭けた任命である。

 The FAはその結果を踏まえて新たに新監督を任命する予定であり、候補としてカースレイ以外にニューキャッスルの監督エディ・ハウが最有力、他に元ブライトン及び元チェルシーの監督Gポッターもその名が上がっている。とりあえずカースレイ代理監督の手腕に賭けてみる意向である。

 楽しみなシーズン幕開けであった。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−94:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫