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ヨーロッパフットボール回廊『スパーズの躍進は続くのか? VARも味方?』

23・10・17
 プレミアリーグも10月に入り各チームとも8月のシーズン開始から8試合を消化、前半戦をほぼ終了。現在はインターナショナル試合週間としてチームは休みに入っている。

 トップはトッテナム・ホットスパー(通称スパーズ)が躍り出ている。スパーズのイングランド代表キャプテン、ハリー・ケーンが「タイトルを取れるチームでやりたい」とドイツのバイエルン・ミュンヘンに英国人初の1億ポンド(約180億円)超えの移籍金で移籍。前途不安を抱えていたが、予想に反して6勝2分勝ち点20で負け無しのトップに立っている。これに次ぐのは同じ勝ち点20のライバル、アーセナル。そして昨年3冠を獲得したマンチェスター・シティ(MC)が勝ち点18で続いている。

 なぜスパーズが首位なのか? リーグ優勝したのは1951年と1961年。その後リネカー、ガスコインといったイングランド代表選手を擁しても成しえなかった優勝の栄冠は、リーグカップで達成した2008年を最後にプレミアのタイトル獲得には程遠い存在であった。今シーズンは、タイトル獲得の兆しがやっと見えてきたスタートである。その大きな要因は2つある。

 ひとつには監督を刷新した事である。ここ数年名の知れた有名監督、ポチェッティーノ、モウリーニョ、そしてコンテとフットボールのメッカたるアルゼンチン、ポルトガル、イタリアのトップ監督を採用し、優勝をもくろんだが結局頭でっかちのフットボールでタイトルからは遠ざかっていた。

 そして今シーズンからは世界からは名も知れていない監督、オーストラリア出身のギリシャ人監督をスコットランドのセルチックから招聘し監督の座につけたのである。名前はポステコグロー監督である。日本にも馴染みがある横浜F・マリノスの監督を経て、スコットランドのアイリシュ系カソリックのクラブ、セルチックを2連覇させた監督である。日本の古橋、前田、旗手等の選手をも使い圧倒的強さで優勝させた逸材である。

 モウリーニョ、コンテ監督のような頑固で強烈なスタイルとは違い、選手の気持ちをくみ取り、その中から特色ある選手に育て上げる才能を持った監督である。英国に来る以前はオーストラリア、そして日本というヨーロッパに比べればサッカー小国のクラブ監督(南メルボルンFC監督、横浜F・マリノス監督)であったが、選手の能力を引き出す卓越したMan Managementによって結果を出した監督でもある。

 スパーズ・サポーターズは当初は「Postecoglou Who? スコットランドリーグで優勝したって!」と言ってもプレミアから見れば2部のチーム程度といぶかっていたが、出だし好調で6万2千人のスタジアムを満員にし、久しぶりのカップ獲得の期待をもたらしているのだ。

 ワンマンでカリスマのスパーズ会長であるレビーは「今までの監督はそれぞれ優勝の経験があり、それをひけらかしてした。しかし彼は率直に現実の昨日、今日の事を話してくれた。今までにない新鮮な息吹を掛けてくれたのだ。彼なら行けると直感し任命したのだ」と語っている。更に監督として「90分(あるいは100分)闘う気持ちを選手にもたらせる能力は他に類を見ない才能である」と絶賛している。

 プレミアリーグ第5節シェフィールドユナイテッド戦では1点先取されたが、98分に同点とし100分のエクストラタイムに2点目を取り、勝ち点3を挙げた。監督が指示するのではなく選手が自覚し『Never Die』の精神を植え付けた結果であろう。

 そしてキャプテンに韓国のエースストライカー、ソンを任命。移籍してきたイングランド代表のプレーメーカー、マディソンを中盤に起用し、バランスが良いチームを醸し出し、結果を残している。見て小気味の良いフットボールをしているのだが、しかしまだリーグ前半であり、今後スパーズがこのままトップを走れるかリーグ中盤戦に注目である。

 リーグに新鮮な空気をもたらしたスパーズの活躍の陰で、9月30日、プレミアリーグ第7節スパーズのホームでのリバプール戦での出来事のように、またまたVAR(ビデオ判定)の問題が続出している。

1:リバプールのストライカー、ディアスがスルーパスで抜けゴールを挙げた、かのように見えたが副審が旗を上げており、オフサイドの判定となった。VARシステムでのチェックをしたが、VAR担当レフリーと主審との会話で判定通りとなり、リバプールの得点は認められず、結局オフサイドが成立。0−0のまま続行。リバプール監督は猛烈な抗議をしたが認められず試合続行。

2:その後26分、リバプールMFジョーンズが一発退場でリバプール10人となる。

3:39分、スパーズFWソンが先制点を挙げスパーズ1点リードとなった。

4:前半終了間際リバプールが1点返し1−1で前半終了。

5:後半24分、リバプールFWヨタが2枚目のイエローで退場、リバプールは9人で戦う。

6:そして後半51分、リバプールDFマティプが痛恨のオウンゴールで、スパーズが2−1で勝った。

 しかし、最初のリバプールの得点がオフサイドではなかったとVARシステムを検証したところ判明、リバプールはプレミアリーグへ再試合を要請した。この要請を重く見たプレミアリーグとVAR施行者のPGMOL(プロゲーム試合審判会社)が協議し、PGMOLは「誠に申し訳ないが、判定はミスであった。ディアス選手はオフサイドではなくオンサイドであった。しかし試合を元に戻すことは出来ない」と釈明、その日の審判、副審の出場停止処分を決めたにすぎなかった。

 リバプールはこの敗戦で勝ち点3、引き分けで1を得られるか否かによって今シーズンの順位に影響するとして裁判へ持ち込むことを示唆している。

 翻って現在続行中のラグビーW杯のレフリーはマイクを携帯し、都度選手へ、そしてテレビ局へ流している。そして判定について現場でコメントし選手、スタッフとの不和、論争等を回避しており、誠に爽やかである。

 なぜフットボールの審判が判定に対し声で説明、決定しないのか今後の課題であろう。ルールを決めるFIFA、England、Scotland、Wales、N.Irelandで構成するInternational Boardの今後の課題であろう。

 問題解決策はあるのか、皆様はどう考えますか?


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫