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ヨーロッパフットボール回廊『プレミアリーグ ビッグ6 崩壊か? チェルシーの低迷』

23・01・15
 
 昨年12月19日、FIFAワールドカップ・カタール大会決勝では、延長PK戦の激戦の上、アルゼンチンがフランスを破り優勝した。戦前の予想賭け率ではブラジルの優勝が予想されたが、ベスト16でクロアチアに敗退、姿を消し、2番手であったアルゼンチンがワールドカップトロフィーを獲得したのである。

 日本の対ドイツ、スペイン戦逆転勝利、モロッコのセミファイナル進出、小国クロアチアの3位、さらにPK戦が多い戦いで、近来稀に見る拮抗したワールドカップであった。

 そしてヨーロッパの各国は帰国後、日を置かずリーグ戦が復活し、休みもなく今年度の覇権を勝ち取る激戦リーグに突入したのである。

 イングランドプレミアリーグは12月21日にカラバオカップ(リーグカップ)4回戦の試合で再開。マンチェスター・ユナイテッド(以下MU)がバーンレイ(2部所属)に2−0と快勝、ワールドカップで3点を挙げたラッシュフォードとデンマーク代表のエリクセンが休む暇なく活躍し得点を挙げた。またマンチェスター・シティ(以下MC)もリバプールに3−2で勝利、ナタン・アケ(オランダ代表)もMCのディフェンスながら決勝点を挙げ、W杯の疲れもなく活躍している。

 従来からクリスマス前後、正月前後にはフットボールを国民全体で楽しむという伝統があるのはヨーロッパでも英国だけである。コンチネンタル・ヨーロッパではクリスマス時期は休む習わしであり、この点がフットボール発祥の地・英国のユニークさであろう。これだけ国際化し半分以上が外国籍選手でありながら、サポーターは我が地元のチームを応援するからでもある。

 12月26日はボクシングデー(クリスマス日の翌日)で、恒例のフットボール観戦の為とも言える家族こぞって地元チームを応援する日でもある。従いアウエーのチームも同地域同士での対戦が組まれている。プレミアリーグのロンドン地区での試合はアーセナルがウエストハムに3−1で勝ち、ブレントフォードはトッテナム・ホット・スパーズ(以下スパーズ)と2−2の引き分け、フラムはクリスタルパレスにアウエーながら3−0と快勝。翌日27日にはチェルシーがボーンマスにホームで2−0と勝ち、新年への躍進を期待される試合となった。

 しかしである。このチェルシーはこの時点トップのアーセナルとは勝ち点で19点差の9位と低迷していた。「どうしたのだ?」というのがチェルシーサポーターの声であり、その後の結果は元旦決戦アウエーのノッチンガム・フォレスト戦1対1の引き分け、1月6日のホームMC戦は0−1と敗戦、さらに1月8日のThe FA Cup、アウエーの4回戦対MC戦は屈辱の0−4の敗退。そしてロンドンダービーの対フラム戦1月12日プレミアリーグ第7節、アウエーながら今シーズン昇格したばかりのチームに1−2と敗退してしまった。この結果チェルシーはプレミアリーグ10位となり、チャンピオンズリーグへの切符(リーグ4位まで参加出来る)を得ることが出来るのか疑わしくなってきた。

 チェルシーは今年度よりオーナーであったアブラノビッチが自国ロシアのウクライナ侵攻により英国政府から追放された為、アメリカ人のトッド・ボエリーが4.2ビリオンポンド(約6千7百億円)で買収しオーナーとなった。シーズン初めの9月には監督ドイツ人チュシェルを更迭し、ブライトンの監督グラハム・ポッターを引き抜き、契約した。

 ポッター監督は選手としては無名ながら大学の修士を獲得し、プレミアリーグ監督の中では特異の監督として注目されている。スウェーデンのチームを4部から1部へ上げたコーチとしての才能豊かな監督として、ブライトンをプレミアのトップチームに仕立てた立役者であった。ポッターは若手監督として将来のイングランド代表監督にも最適の人材として嘱望されており、オーナーのボエリーは彼にチェルシーを託したのである。

 彼のチーム戦術で特徴的なのは、試合途中にシステムを変更し選手を入れ替え勝ちに行くタイプの監督であり、戦術眼が卓越していると言われている。日本代表の三苫も彼の下で開花した選手の一人である。

 しかし、ブライトンでは成功した戦術がチェルシーでは混乱し、日替わりシステムは機能しておらず、彼が就任して以来5勝3分6敗と振るわず、直近のフラム戦では味方サポーターから前任者「アブラノビッチ!! チュシェル!!」の声が出るほどであり、クラブオーナーにとっても監督ポッターにとっても試練の時を迎えている。

 一方、選手の質はどうかと問われれば多くの選手がフィットしておらずレギュラーの内現在9人が治療台にいる状況である。代表メンバーから言えばGKメンディ、DFではチルウェル及びジェームス(共にイングランド代表)、MFのカンテ(フランス代表)、ロータスチーク(イングランド代表)、FWではスターリング(イングランド代表)、プルシック(USA代表)、ブロヤ(アルバニア代表)たちがケガの為リハビリ中であり、選手の量、質とも現在は不足している。

 その為、この1月の移籍ウインドウ期間中にアトレチコ・マドリッドのFWフェレックス(ポルトガル代表)をローン(期限付き移籍)で獲得したが、そのデビュー戦、対フラム戦1月12日、一発退場となり3試合出場停止となってしまった。

 その中でチェルシーオーナー、ボエリーはスタンフォードブリッジ・スタジアムを拡大したいと熱望しており計画中と発表した。現在の収容人数4万人から6万人程度に拡大したいというもの。

 アブラノビッチ時代にも拡大計画があったが、隣接する住宅から日当たりが悪くなるとの理由に所轄のKensington & Chelsea Council (区に当たる行政府)に訴えがあり、結局その計画は頓挫した経緯があった。

 今回のオーナーの構想では収容人員を約6万人へ拡大する計画であり、この工事期間は約10年とみている。その間はスパーズの新スタジアム建設時代と同じく、仮のホームスタジアムをウエンブレースタジアム(8万2千人収容)にしたいという構想である。

 今後、計画・検討に入るが果たしてCouncilの承認が得られるか今の所不透明であるが、チェルシーファンにとっては地元チェルシー(ロンドン中で一番住宅価格が高い高級住宅街の地区)に新たなスタジアムが出来ることに大きな期待を寄せている。ちなみに筆者もこの地区に居住していたこともあり、チェルシーの試合には歩いて20分で観戦出来た。夢の計画の実現に期待したい。

 プレミアリーグ・ビッグ6(アーセナル、MC、MU、リバプール、スパーズ、チェルシーの6チームの総称)に現在残っているのは1位アーセナル、2位MC、4位MU、5位スパーズの4チームとなり、代わりにトップ6に入ってきているのはニューキャッスル(3位)、フラム(6位)となった。チェルシーは現在10位。ビッグ6として果たしてトップ6に入れるか、今後の結果に注目しよう。さもないと来シーズンヨーロッパチャンピオンズリーグにも、そしてその下部のヨーロッパリーグにも入れず多くのファンを失望させることになる。

 またオーナー問題で売りに出る可能性が強いリバプールも7位と低迷、中堅で活躍しているブレントフォード、ブライトンも追随してきており、今シーズンのプレミアは混沌とした中、今後も息が抜けないリーグとなっている。

 果たしてプレミアビッグ6は崩壊するのであろうか?!


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫