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ヨーロッパフットボール回廊『2022FIFAワールドカップカタール大会迫る!』

22・11・12
 
 前代未聞の各国シーズン中の真っ只中で行われる種々問題が指摘されている『2022FIFAワールドカップカタール大会』が開幕まであと2週間となった。

 本当に何事もなく無事大会を終えることが出来るのか。世界スポーツ界の2大大会をそれぞれ主催するIOC(国際オリンピック委員会)、そしてFIFA(国際フットボール連盟)は、真のスポーツ精神と選手の技量体力・気力を駆使したスポーツに値する指導力と財政的バックアップをバランス良くマネージ出来るのか問われている大会になりそうだ。

 東京オリンピック2020はコロナ禍により1年延期され、組織委員会は金にまみれ、スポンサーに蹂躙され、多くの不透明な汚職紛いの契約問題が起こっており、その汚名を後世に残した大会となったことは事実であろう。負のレガシー作りに加担した責任は大きい。

 FIFAから追放された元FIFA理事で、北中米カリブ海サッカー連盟元会長トリニダード・トバゴのジャック・ワーナーいわく「すべての大スポーツ大会には金が動く。カタールが2010年にロシア大会(2018年)と共にFIFA総会でW杯の開催国に選ばれたが、すべて陰で動く世界のスポンサーの意向が強かったことは事実であった」とインタビューで吐露しており、「カタールは本来スポーツとしてのフットボールW杯を運営出来る能力は無く、石油ガスからの資金を駆使してFIFAに働きかけて実現した大会であることは間違いではない」と語っている。

 また、当時の開催国決定時期のFIFA会長であったブラッターも追放され訴追を受けていたが、10年にも及ぶ法廷闘争の結果、やっと解放され、「カタールでW杯を行うことは気候・国土(秋田県程度の面積)・インフラ(競技場、練習場、ホテル、交通等)を勘案すれば不適な開催国であることは間違いない。自分は反対していたが、プラチニ(元FIFA副会長)が押し切ったことで開催国として決定された」と語っている。真偽は不明だが、結局、結果的には金がスポーツ精神に勝った結果となってしまったのである。

 あと2週間を切って現地の状況はどうか。

 色々なレポートがあるが、その真偽は大会が始まってからわかること多く予断を許さないが、下記の点が懸念されている。


■参加32チームの事前キャンプトレーニング場と宿泊施設は確保されているというが、例えばイングランド滞在のホテルのプール(サウスゲート監督が要求したというが)は完成されているのか。まだ工事中という情報がある。


■会場8スタジアムは完成しているが、果たしてすべてのスタジアムのピッチの芝が均等に張られているのか懸念されている。夏場の気温40度を超すカタールで、11月とはいえ30度を超える日もある中、芝が順調に育っているのか。その生育に必要な水は海水淡水化施設からの水に頼るが、その量が確保されているのか。大会の後半にピッチが荒れてプレーに支障が出ないのか。
 
 芝の専門家をカタール及びFIFAが常駐させ万全を図るというが、Wimbledonテニスでの後半戦での芝枯れコートで思わぬ勝敗を左右するイレギュラーがフットボールにも起こらないとも限らない。


■世界からの150万人の観客がわずか人口290万人そのうち30万人がカタール人で、残りは主として東南アジアからの出稼ぎ労働者で占められている国カタールに押し寄せその宿泊のホテル、レストラン、カフェが本当に機能するのかも問われている。現在使用可能なホテルは17万5千室しかない。その10倍のホテルベッド数が手配出来るのか、砂漠での野宿も強いられるかもしれない。


■決勝のスタジアムは街からのモノレールが交通手段というが、駅からスタジアムまで1km歩く必要があり、気温30度の中、キオスクも無い・ベンデイングマシーンも無い中で、安全にスタジアムへ到着出来るのかという事が指摘されている。


■FIFAは特別に声明を発表し、「W杯カタール大会には政治は持ち込まない。純粋に試合を楽しんでほしい」と要請している。しかし一方で、ヨーロッパ諸国はスタジアム、インフラ施設建設に携わった多くの外国人労働者に劣悪な労働条件(低賃金、長時間労働等)を課し、今だに給与未払いが起こっている状況、そして直接的・間接的に劣悪条件下での灼熱労働によって約6千5百人の移民労働者が死亡しているとも言われている。

 その為、ヨーロッパ諸国は人権問題としてこの問題を大きく取り上げキャンペーンを広げている。イングランドの立場はサウスゲート監督が代弁し「W杯優勝を目指しておりそれが最優先の課題であるが、カタールの人権問題に目をつむるわけにはいかない」とコメントしている。

 サポーターの中には、当然このキャンペーンを張るグループも出てくる事が予想される。その時、カタール政府、FIFAはどう出るかどう対処するのか大きな課題を背負った大会となる可能性が高い。カタール政府またはFIFAがこの人権問題にかかわり、その救済の資金を提供するという話もあるが、果たして実現性があるのか現在では不透明である。


■そしてこの労働者問題とは別に、カタールのイスラム国特有の文化、法律が西欧のそれとは異なり、あのもめ事の狭間でまた違う騒動が起こる可能性もある。


■カタールはイスラムの中でも厳格なイスラム教国家であり、禁酒はもとより、同性愛も禁止、即拘束され刑務所送りとなる。その警察力も大量のサポーターを相手に対応出来るのか、もし暴動等が起こった場合どう対処出来るのかの対策も見えてこない。

 また大会期間中は禁酒政策を緩め、飲酒も可能となることが決まっているが、その結果サポーター同士の暴動も起こりえないとは限らない。


■従い、高給取りの選手は家族の為、我先にとカタールにある豪華なリゾートマンションを借り切るか豪華客船に宿泊し、試合の時だけ上陸し応援するともいわれているが、その数には限りがある。などが課題として提起されている。


 ともあれ、歴史上予測が出来ない状況の下、試合はしのぎを削って行われることは間違いない。

 どの国がこのW杯を獲得出来るのか、まずは英国のブックメーカーの優勝国予想を見てみよう。『Sky Bet』によれば下記の賭け率を発表している。

1位:ブラジル   1/4
2位:アルゼンチン 2/11
3位:フランス   1/6
4位:イングランド 1/7
5位:スペイン   1/8
6位:ドイツ    1/10
7位:ベルギー   1/14
8位:オランダ   1/14
であり、日本は韓国と同じく、1/200の確率となっている。

日本のグループでの対戦別予想は
対ドイツ戦: 日本勝2/15 引分2/7 ドイツ勝4/11
対コスタリカ戦: 日本勝20/23 引分10/23 コスタリカ勝3/10
対スペイン戦: 日本勝1/7 引分1/4 スペイン勝2/9
となっている。

 しかしこの予想はあくまでヨーロッパのBook Makerの賭け率であり、9月に行われたイングランド対ドイツの試合を分析する限り、日本に勝ち目もあるのではと思われる。ドイツに過去の得点力は望めず、中盤を制しAttack・Attackを繰り返せれば可能性はあるのではとみる。

 イングランドのブライトンで、左サイド攻撃の起点となって来た三苫の活躍が表に出ればドイツに一泡吹かせることも不可能ではないとみるがどうであろうか。

 皆様の予想はいかに?


 P.S 札幌は本当に冬季オリンピックを招致するのか? 今後の動きも注視したい。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)

伊藤 庸夫