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ヨーロッパサッカー回廊『フットボールは闘いである』

10・04・11
 英国に遠征で来たU−16のチームの選手が「相手はあまり技術がなかった」と感想を書いている。同年代のコレッジ(日本の高校)のチームとプレミアのアカデミーのチームと対戦した後の感想である。試合の結果はコレッジのチームとは互角であったが、プレミアのアカデミーチームには技術もさることながら、体力、気力、スピード、判断・決断力そして戦術的にも勝てなかった。
 
 たぶんその選手は日本で指導された、技術とは?味方からボールを貰う?コントロールしてダミーで相手のマークをはずし?ドリブルし味方へパスすることであると思っていたのだろう。この一連の動きが出来れば、自分の役目は終わり、こわいコーチからとやかくいわれることはないと思っていたのであろう。彼としては結果は大敗であっても、自分のプレーの中でこの動きは出来たので技術はあると思ったのであろう。それで満足していたのであろうか。何故このような選手が多く生まれてきたのであろうか。
 
 フットボールはボール1つで11人・1チーム90分でいかに多くの得点を入れるかが勝負のスポーツである。目的はただ1つ。得点を相手より多くとることである。90分闘い、ボール保持率は20%で攻められっぱなしでも点を取られず、カウンターで1点取ってしまえば勝ちは勝ちである。
 
 まずは?の味方からボールを貰うのではなく、相手のボールを奪うことから始めなければならない。?奪うためには相手へのタックルもあろう。次にタックルをかわされた時の次の味方の選手の詰めプレスもあろう。?そして奪ったボールをコントロールする(これこそスキル)そして?シュート(得点)へ結びつけるパスなりドリブルでゴールに向かう。そのときのパターンとしては、a.ドリブル→シュート、b.ドリブル→パス(それも得点の可能性あるストライカーへのチャネルを通した強く速いパス)それが出来ない時にやっと、c.空いている味方の選手に親切なパスを出し攻撃の展開を図ることであろう。
 
 この一連の動きの中には、試合を読む能力、決断力、判断力がまずあり、次にその行為が正確に出来る技術(テクニック、スキル)が個人の選手にあり、それを味方の他の10人の選手が共通意識でサポートすることで組織(チーム)としてプレーが出来るのである。
 
 あのルーニーを生んだエバートンユースのシーリーコーチは「U−16までにやらなければならないこと、またそれを自然に出来る選手をスカウトし徹底的に指導していく」とし、「将来世界のトップ選手になるためには、個人個人の選手が持っている特性を生かし、その中でその特性が世界に通じる個人技術を伸ばしながらフットボールの常識・基本戦術を小さい時から植えつけるようドリルしている。 
 
 「フットボールの根源は、相手のゴールに向かいゴールをつかみ取ることである。中盤でボールを奪ったらまず味方のストライカーに強く速いボールを当てる。ターン出来ればそのままシュート、出来なければ単純にはたいて次の選手がシュートを打つ。そのくさびのボールの質は高くなければならない。トップスピードで走りながら正確にパス、シュートである。このドリルではボールは必ず相手ゴールポストの延長線上に出す。タイミングも必要。うまく味方のストライカー、または、シャドーストライカーに渡ればシュート・得点となる。これらのことが出来るためには(1)得点を決めるという意思力、決断力がない選手はおいていかれる。(2)次にシュートの技術、相手の体を張ったタックルより早く振り抜くシュート力、それも低い弾道で、浮かした風船シュートは減点だ」
 
 「ドリブルのうまい選手は得てして試合のテンポを遅らせ相手ディフェンスを戻らせてしまう。絶対取られないというのがドリブルする条件である。ドリブルによってスペースが生まれ、そこに味方が入りこめばそれを読みパスを出す、または思い切りの良いシュートをする。あくまでドリブルは手段であり目的ではない。現代のフットボールではいかにワンタッチ・ツータッチでプレーが展開出来るかが勝負である。Good Playerというのは広い視野を持ち、スペースへ速いボールで正確なパスが出せなければならない。受ける選手はそれをワンタッチでコントロールすることが求められている。」
 
 「フットボールの常識とは、まず相手のボールをどう奪うかの意思力、決断力がありそれに伴うタックルの技術、味方のプレスサポートによるコンビネーションプレーが11人全員共通項として持っていることであり、奪ったら得点を、得点するためにはシュートを打つ、シュートが入る確率はクロスからといったことである。」
 
 「T(TEQHNIWUE)、I(INTELIGENCE)、P(PERSONALITY)、S(SPEED)がフットボーラーの条件とされるが、その中でTは時間(練習)が解決できる。Sもある程度練習で可能。しかし、IとPだけはその個人による。TとSのある選手には、自分のボールにする前に相手のボールを奪うということがフットボールの第一歩であることを子供の時から指導していかなければならない。奪うというのはIとPの要素が大きい。
 
 エバートンではユースはトップのカーボンコピーでもある。トップの選手が行っているところを観て感じて、表現することで成長していくのである。」
 「とにかくフットボールは究極のところ闘いである。1:1の闘いから11:11の闘いなのである。この闘い=ボールを奪うことからはじめることが育成にとって重要な課題である。」とフットボールは“闘い”であることを強調してくれた。
 
 折しも、チャンピオンズリーグの準々決勝でバルセロナはメッシの4得点でアーセナルを破り準決勝に進んだ。170cmもないメッシを止める選手は今のヨーロッパにはいない。メッシに闘う気持ちがないであろうか。いつもチャレンジし突破しゴールを決める。技術・決断力それに闘う気持ちとゴールへ向かう意思力があるからこそメッシが世界一のプレーヤーになれたのであろう。
 
 パスをすることがフットボールとでも思ったのか、全国津々浦々コーチングシステムが画一化したのか、日本のフットボールはぬるま湯の中に浸っていはしないか。もっと「闘う、闘い」がフットボールであることに目を向けてはいかがなものであろうか。

 因みに日本のW杯の賭率は英国ではbottom5(not Best4)である。
 
  
◆筆者プロフィル
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
 
伊藤 庸夫