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ヨーロッパサッカー回廊『キャンプ地騒動』

09・11・13
 またまたワールドカップキャンプ地騒動が始まった。前回2002年当時は81ヶ所もの自治体が名乗りを上げたが実際に利用されたキャンプ地は30も満たなかった。
 
 それぞれにそれなりのエピソードが残った。費用がかかりすぎで行政が非難を浴びた所、中津江村のように全国にその地が一躍有名になった所、町作りに貢献しJリーグクラブが誕生した所、悲喜こもごもの話題を提供してくれた。
 
 2018年、2022年のワールドカップのキャンプ候補地は65ヶ所以上なければならない。果たして意にかなう候補地が名乗りを上げるのであろうか。
 
 理想的なキャンプ地はというと「リゾート地」というのはヨーロッパ、南米のサッカー大国であろう。そして第1のテーマは「安全−Security」であることは今も昔も変わらない。
 
 しかも今回からはFIFAの検査が事前に行われる事になった。安全面で問題ある地域は罰点を食らうことになる。「リゾート地」としての立地を持つ候補地も次のような要件を満たしていなければ各国サッカー協会はその地をキャンプ地として選ばないだろう。
 
 まずはチーム(選手スタッフ70名程度)の専用リゾートホテルの確保が各国の一番の仕事である。選手がリラックスできるホテル、大きめなツインルーム(選手は原則2人部屋が普通)、窓からは海が湖が見える風光明媚なホテル。プールサイドのシーデッキに横たわり、読書、居眠りができるホテル。うるさい報道陣、一般客のいない静かな環境が求められる。
 
 そして本業のフットボールの練習ができるピッチ(天然芝−それも試合会場のスタジアムと同じ芝)、当然更衣室もミーテイングルームも、記者会見室もある練習場。更に体育館、プールは勿論選手がリラックスできる娯楽室、そこにはスヌーカー台(ビリヤード台とほぼ同じ)、ダーツ板、カードテーブルも備えられている。
 
 オフの日には近所のゴルフ場でゴルフを楽しめる、またボート、ヨットでクルーズも楽しめる場所も提供する必要がある。ホテルでは専用のダイニングでの食事は帯同したその国のコックが激しい闘いに耐えるスポーツ食を料理できる厨房を持つ。日本にはないBrawn Bread、黒パンも焼ける事も国によっては必須条件となろう。
 
 はたまた帯同してきた報道陣のためのホテル、家族のためのホテルも歩ける範囲にあることもキャンプ地の要件である。そして移動のための交通機関(新幹線か空港)に至近であることはいうまでもない。
 
 そんなところはどこか。多くのヨーロッパのキャンプ地の典型は海、湖に近い、ホテルも完備しているゴルフ場を想像してもらえばよい。セキュリテイもゴルフ場の入り口で制限すれば許可なく侵入する輩もおらず安全が確保できる。
 
 このような環境の中で各国の協会が一番考慮しているのはコストである。あわよくばすべて提供してくれれば滞在するという国は多い。ホテル代、移動交通費(車、飛行機、列車等)、更に地元民との交流会での費用もおねだりする国が殆どである。
 
 どこまで自治体が負担できるのか、2002年当時は初物食いで各自治体は莫大な費用をかけた。2018年・22年にこのような負担ができるのか、そしてそのようなリゾートが日本に実現しているか。
 
 来年は南アでのワールドカップ。日本もキャンプ地を決めたが筆者の友人の関係者は試合場に遠い事を指摘している。果たして結果はどうか。そして日本の各自治体はそのような条件をまた提供できるのだろうか。
 
 
筆者プロフィル
伊藤庸夫(いとうつねお)
現在:T M ITO Ltd.(UK)代表取締役
東京都生まれ、
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
 
伊藤 庸夫