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ヨーロッパサッカー回廊『ドラッグ問題とスポーツ仲裁裁判所』

09・08・11
 現在のスポーツ界は、いわゆる『ドラッグ』使用の選手に対して厳しい処罰を課している。特に陸上短距離選手は筋肉増量剤によって記録を伸ばすことが普通の時代があった。ベン・ジョンソンのオリンピックでの100m優勝の金メダルも結果的には剥奪されて以降、WADA(世界アンチ.ドーピング協会)では厳しい処分を下し、スポーツ選手の『ドラッグ』の使用を制限してきている。
 
 この傾向はフットボール界でも同じであり、ワールドカップでは試合後2名の選手のランダム尿検査は義務付けられており、『ドラッグ』使用禁止はFIFAの一つのキャンペーンとなっている。
 
 そのなかで、2003年イングランドのチェルシーはルーマニア代表、アドリアン・ムチュを15百万ポンド(24億円)で獲得したが、1年後検査でコカインを常用していることが判明。その使用の陽性結果が出た為、チェルシーは彼を解雇。その結果を重く見たFIFAは世界中で7か月の出場停止処分を課した。
 
 チェルシーはこの選手の処分によって蒙った損害額17,173,990ユーロ(23億1850万円)をムチュが支払うよう、イングランド協会(FA)プレミアリーグ上訴委員会へ提訴、FAは本件をFIFAのDispute Resolution Chamber(紛争解決室)にかけ、2008年5月FIFAはムチュに上記の額をチェルシーへ支払うよう裁定を下した。しかし不服のムチュはスポーツ仲裁裁判所(Court of Arbitration for Sport以下CAS)へその裁定を覆すべく上告した。
 
 そして今年7月31日、CASはムチュの上告を退け、上記の金額を支払うよう命じた。この裁定が最終結論となり、ムチュはフットボール史上最高額の23億円余の損害賠償金の支払をしなければならなくなった。
 
 ムチュは出場停止期間をへて2005年1月にイタリアユベンタスと契約、2006年にはフィオレンチナへ移籍しており、果たしてこの高額損害賠償金を支払うことが出来るのかは今後の推移を見る必要があるが、フットボール界も過去WADAからは『ドラッグ』に関して甘いという声があったがこの事件を契機に世界の兆候に合った決断がなされたと評価されている。
 
 まだ日本のフットボール界にはこの種の『ドラッグ』問題はないが、昨今の大学生の大麻栽培等々の問題から決して遠い問題ではなく、今後もクリーンなフットボールマナーを培う必要があろう。
 
 なお日本にもJADA(ジャパン・アンチ・ドーピング協会)があり、かつCASの日本版日本スポーツ仲裁機構も存在している。彼らの活動が活発にならない事がこれからのスポーツ界にも求められていることは確かであろう。
 
 
伊藤 庸夫