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ヨーロッパフットボール回廊『今年のハイライトはカタール・ワールドカップなのか』

22・01・16
 新年明けましておめでとうございます。

 オミクロンのまん延で明けた2022年果たして収束するのか、はたまた3年目のパンデミックに入るのかまだ不確定な世界です。

 さて、2022年世界スポーツ大会は昨年の東京オリンピック・パラリンピック(オリパラ)に続く北京冬季オリパラ、サッカーでは現在カメルーンで行われているAFCON(アフリカカップ)、そしてカタールのワールドカップ(W杯)がハイライトであろうか。更にいずれもコロナの世界まん延で大会が危ぶまれているなかでの開催であり、加えてスポーツが戦争を中止してでも行うというギリシャ発祥の崇高な精神を保持し続けられるのか問われる年でもある。

 『スポーツに政治を持ち込まない、戦争はしない』というテーゼが、最近はテレビマネー、コマーシャリズムに圧倒され、その中で人権問題までに発展している。

 北京ではウイグル民族抑圧問題が、カタールではW杯インフラ建設に関わる外国移民労働者の劣悪待遇が問題化し、6千人にも及ぶ外国人出稼ぎ労働者が死亡。大会ボイコットまでは行かずとも自主的に参加しない団体、     Diplomatic Boycott(外交的代表を派遣しない)を実施する国も出てきた。スポーツ大会での覇権争いが国際政治にも、経済にも大きく影響してきている。

 その中で行われるカタールW杯はどうなっているのか見てみよう。

1.開催日程は2022年11月21日−12月18日。

2.組み合わせ抽選は2022年4月1日
 現在までに出場を決めたヨーロッパの国はセルビア、スペイン、スイス、フランス、ベルギー、デンマーク、オランダ、クロアチア、イングランドとドイツで、あとはグループ2位同士のプレーオフで決まる。Euroで優勝したイタリアもプレーオフで勝ち抜かねば出場出来ない。

 南米はブラジルとアルゼンチンが既に決定しているが、残る2チームとアジア5位とのプレーオフに臨む国はまだ決定していない。アジアでもこの1月末から3月末まで出場権をかけた試合が4試合も残っており、未定の状態。日本はBグループでサウジ、オーストラリア戦を残しており未定。

3.試合のキックオフタイムは現地時間の1pm、4pm、7pm、10pmとなっている。

4.スタジアム数:8会場のうち6スタジアムは完成しているが2スタジアムの完成は今年中旬になる予定。

 カタールは小さな国でありスタジアム間の最大距離は75km、最小距離は5kmと移動距離が短く、5スタジアムへは新設のメトロ網で移動出来る。そのうち3スタジアムはシャトルバスによる移動。空港はHamad 国際空港のみ使用することが出来る。

5.宿泊:現在W杯時期に、ホテル、アパート、ヴィラはトータル17万5千室用意される。そのスタッフ数は約1万人を充てる。
 それ以外にクルーズ船(4千室)の利用、およびアラブ特有のテント村2か所が用意される。また、隣の国UAE(ドバイ、シャルジャ、アブダビ等)のホテルも利用出来るとしている。陸路は70分で行けるがビザが必要かもしれない。カタール組織委員会の試算では大会を通じて1千5百万人がW杯にくると試算している。

6.イスラム教の国カタールあらゆるところで西欧の慣習も風習も違っている。
 観戦応援に行くときはその対策も十分していくことが望まれる。まず飲酒はご法度である。特にサウジと並び湾岸諸国ではこのカタールが厳しい。私が仕事で行った時代は、飲酒すれば、即地下牢に入れられ、出てきた頃には頭がおかしくなると警告されていた。交通違反も同じくであった。英国政府は飲酒で逮捕されたら即6か月の刑務所入りとなると警告している。フーリガンフリーの大会になるかのか、大騒ぎすることになるのか予断が付かない。また半ズボンはご法度、特に博物館、政府ビル、スーク(市場)は長いズボン着用の事。白衣が現地カタール人のユニフォームである。

 ただしホテルによってはホテル宿泊者用のバーがあり、そこで飲む事は許されている(1パイント=470ミリリットル=5ドルぐらい)。呑み助と応援の景気つけの一杯はこの大会では遠慮した方が良いであろう。2019年のFIFAクラブW杯ではスタジアムのファンゾーン及びVIPの特別エリアでは飲酒は可能であったが本大会はまだ実施するか決まっていない。

7.サポーターはチケット保有者であれば試合当日の交通(シャトルバス、地下鉄)は無料となる。

8.宗教上同性愛者はご法度である。また食事では豚肉はご法度。

9.カタールの人口は288万人であるが地元民のカタリは10%の約28万人しかいない。
 最大の人種は出稼ぎ労働者人足たるインド人(54万人)そして東南アジア諸国からの出稼ぎがマジョリテイ―である。

 少数のカタリが石油ガスの開発で富裕国になった背景にはこの東南アジアからの出稼ぎ労働者なくして成り立たないというジレンマを抱えている国でもある。そこに犠牲者6千人を生んだ背景があるのだ。

 ワールドカップ開催をいわば資金投資で勝ち取り、わずか秋田県とほぼ同じ面積の中に8つもスタジアムを建設しW杯が終わったらどうするのかという問題も抱えている。果たしてこれからコロナ禍がどれほど収束するのかにもよるが、出場国の中には密の国カタールでキャンプを行えるのか、32か国の選手スタッフが秋田県程の半島に集まりトレーニングが出来るのか、課題は多い。

 従来、夏6月のW杯開催を日中40度超の暑さの中では出来ないことから無理やりヨーロッパのフットボールシーズンたけなわの秋に移したFIFAの決定プロセスも今一度検証する必要があるのではないかと思われる。

 日本にとってはドーハへ行く前に『ドーハの悲劇』がまた起こらないよう出場権を獲得してもらいたい。

 筆者はカタールには1970年代石油開発プロジェクトでよく出張したが6月は摂氏52度を経験、当時ホテルは2軒しかなく1ベッド1デイナールのフンドク(アラビア語で旅館)でダニに食われ往生したが、近代化したドーハはいかなるものか訪れたいものだ。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫