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ヨーロッパフットボール回廊『フットボールシーズンたけなわの中でのトピックス』

21・10・15
 
 10月に入り気温も20度を下回り、フットボールにとっては絶好の季節となっている。

 プレミアの試合も8月末から有観客で開幕し、既に7節を終了、トップは勝点16のチェルシー、2位リバプール(勝点15)、3位から6位までの4チーム(Mシティ、Mユナイテッド、エバートン、そして驚くことにブライトンが勝ち点14で並んでいる。名門スパーズは当初3連勝したが4連敗で8位(勝点12)、アーセナルも11位(勝点10)、そして降格候補の18位バーンズレイ(勝点3)、19位ニューカッスル(勝点3)となっている。

 この激烈なリーグ順位争いと平行して、現在W杯カタール大会の出場権を賭けた予選が月に1回、更にUEFAチャンピオンズリーグも行われており、代表選手となると1週間に3試合もプレーしなければならない過酷なシーズンである。その中でフットボールに悲喜こもごもの話題が噴出している。

本次の4事項を取り上げてみたい。

1.チャンピオンシップ(イングランド2部リーグ)のダービーカウンテイFCの12ポイント削減

2.ニューキャッスルが世界一富豪のサウジファンドに買収される。

3.プレミアリーグ選手のコロナワクチン接種率はわずか25パーセント。問題と指摘される。

4.立ち見席復活2022年1月よりか?


1.現在チャンピオンシップの中堅クラブである、日本のトヨタ自動車の工場がある都市ダービー市を本拠地とする1884年創立のクラブ、ダービーカウンティが破産申請した。その結果リーグから12ポイント勝点が削除された。クラブの債務が既に20百万ポンド(30億円)に達し、コロナ禍でのクラブ収入が限られていたこともあり、経営破綻したもの。クラブとしては新たな投資家を求めていたが買い手が付かなかった為のポイント削除である。

 監督は元エバートン、Mユナイテッドのストライカー、ルーニーであり実際の戦績は、現在11試合消化し3勝5分3敗で、本来なら24チーム中13位の中堅に位置していたが、今や最下位となりこのままで行けば来シーズンはリーグ1へ降格することになる。

 ルーニーは「監督を引き受けた時は自分も選手として引っ張り、何とかトッププレミアへ昇格すべく努力していたが、クラブの経営状況がこのような事態を起こすなら引き受けなかった」と悔やんでいるが「辞任することはしない。選手の給料も遅配だが、何とか降格を避ける21位以内を確保したい」と宣言している。しかし今後投資家が現れない限り残留の可能性は低いとみなされている。プレミアとのギャップが大きくその穴を埋める経営努力が足りなかったツケが回ってきたようだ。

 
2.ダービーとは規模が違うが経営困難と降格の危機を迎えているのがニューキャッスルである。

 オーナーのSport Direct(全国展開している英国のスポーツ用品専門店)であるマイク・アッシュレイは地元出身の熱烈なファンであり、2007年に買収以後、今年のシーズンまで15年間会長として君臨していたが、コロナ禍での事業低迷と15年間に2度降格、一番上位に上がったのは2011年のシーズンで5位が最高位で、ここ数年は10位以下の下位チームに沈んでいた。

 ファンながら15年間に559百万ポンド(840億円)をつぎ込み流石事業としてタイトル獲得もならず、下位に低迷するクラブを立て直す為、世界の投資家を求め売却を計画。その売却先が決まった。サウジの首長であるモハメッド・ビン・サルモンがサウジ国の投資会社として創立したSaudi Public Investment Fund(サウジ公共投資ファンド—総資金額700ビリオンポンド=105兆円相当)が305百万ポンド(460億円)でニュ―キャッスルを買収することを決定したのである。

 サウジのジャーナリストであるカシラギを暗殺したのがモハメッド・ビン・サルモン首長であるとの疑惑があることと、プレミアリーグは『外国国家の投資会社が英国の民間企業への直接投資は禁止されている』為、この買収計画は英国政府の承認が必要であり、その調整に2年近くかかっていたがやっと決着したのだ。

 結局、英国政府もこの投資ファンドが民間であることを認めた為、買収劇が成立したのである。喜んだのはサポーター“ジョーデイ”(ニューキャッスル地区民の通称名)である。「これで世界のトップ選手が買える。フランスのエムバペを!と」熱狂しているのだ。その為、現在の監督ブルースの更迭は時間の問題だと。次期監督にはレンジャーズのジェラードとか、レスターのロジャーズとか、イタリアのコンテとかの名前が飛びかっている。次の移籍オープンの1月には多大な投資で有名選手を獲得することをファンは期待しているが、果たしてお金でチームを強く出来るのかが問われている。

 
3.現在英国のコロナ感染者数は毎日3−4万人を記録している。死亡者数は2桁と少なく、なぜなのかが問題化している。既にワクチン接種率は16歳以上の人口の85パーセントに上り集団免疫化しているともいわれている。

 しかるに、フットボール選手の接種率は現在527名がプレミアリーグに登録されているうち2回のワクチンを接種した選手はわずか130名、25パーセントの低率である。

 全国民へのロックダウンは7月21日に解除されたが、その根拠は接種率が80%以上になっていた結果であった。大規模なスポーツイベントへの参加観戦には、ワクチン接種の証明が必要としている地域もあり、そのプレミア選手の接種率の低さは社会的問題だとして、選手への積極的なワクチン接種を政府及びプレミアリーグはその改善に取り組む方向へ進んでいるが、果たして実行出来るかが問われている。

 発表された接種率トップはノーリッチ(27名のうち14名)が52パ−セント、一番少ないクラブは今シーズンから昇格したブレントフォードでわずか2人(登録は28名のうち)しかいない。Mユナイテッドは28パーセント(29名中8名)、チェルシーは26パーセント(27名中7名)、ウエストハムは11パーセント(27名中3名)である。

 この率を見たプレミアリーグは「これからは接種していない選手は試合に出場出来ない」とすることを検討している。外国籍選手が多いこともありその国での接種は出来ず、英国での接種をクラブが強制的に接種させるべきだとして啓蒙している(まだ接種しない層は統計によれば16歳以下の少年少女以外に、移民、有色人に多いと言われている。全国では接種率85パーセントを超えているがロンドンでは外国人、有色人、移民が接種していない為か60−65パーセントしか接種していないのも英国のコロナ対策の大きな穴となっている。)


4.1994年に当時のサッチャー政権時代にテイラーレポートが法律化され、プレミア及びチャンピオンシップの全スタジアムは座席とし立見席を全廃した。これは1980年代にスタジアムでの立見席での詰め込めすぎで97人が圧死したシェフィールド・ヒルスボロスタジアムの例(1989年)とか、ブラッドフォードススタジアムが火事を起こし、多くの死者が出たことで政府はスタジアムの安全を計る法律を制定したのである。

 それ以来35年経過、スタジアムが全席座席となりサポーターもその処置に慣れていたが、一部フットボールは立ち見が一番というノスタルジアであり、今や暴れるファンはいないとして来年2022年1月1日から6クラブがゴール裏のサポーター席を試験的に立見席(ただし個人個人のスペースにある仕切り棒は残す)とすることを発表した。期限はとりあえずシーズン終了まで実施するというもの。まだどのスタジアムで実施するのかは11月に決めるとしている。その結果を検証して政府DCMS(文化・メディア・スポーツ省)へ上程し、法律化したいとしているのだ。識者からはまたフーリガン復活かと危惧されている向きもあり今後に注目したい。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫