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ヨーロッパフットボール回廊『いまだコロナ禍のフットボール;テレビ観客優先等々』

21・02・14
 はや2月、世界的にもコロナの収束は見えない中、ヨーロッパのフットボールは無観客のまま行われている。

 無観客だからなのか、フットボールも過去の土、日曜日午後に試合という伝統が消え失せ、テレビ放送に都合よい日時に変更されてきている。テレビの画面からチームの激闘を切歯扼腕(せっしやくわん)し応援するしかなくなったのだ。

 クラブは収入源をテレビ放映権に頼っているからでもある。そのテレビ放映もほとんどが有料放送であり、テレビ局側も視聴者次第でその放映権を他局へ譲渡するケースも出てきた。欧州の各国のトップリーグの状況を見てみるとこの無観客試合が見えてくる。

1)フランス:テレビ局「メデイアプロ」がフランスリーグの放映権を保有していたが視聴者不足のため経営難に陥り、リーグとの4年契約をわずか5か月で解除せざるを得ず、カナルプラスへその放映権を売却した。

2)イングランド:1880年代初のプロリーグが成立した当時の試合は土曜日の3時キックオフであった。産業革命が始まり各地の工場労働者は月曜から土曜日の午前中まで仕事に明け暮れ、やっと解放された土曜日午後3時におらが町のクラブの試合に駆け付け応援したのだ。毎週土曜日の午後3時こそフットボールの不動のキックオフタイムであった。

 ところが今シーズン、コロナ禍での無観客試合となり、サポーターはテレビの前にしかいなくなった。その為テレビ放映会社は数多く試合をカバーすることが経営上第一義となったのだ。それに従いリーグもテレビ会社の要請を受け、現在金・土・日・月に試合がばらまかれている。時間も12時・15時・19時などに散らばったのだ。午後3時のキックオフの伝統は消えた。

 その結果リーグ順位の基準となる節がまたがることで土曜日トップであっても月曜日には3位となっていたり、選手がコロナ感染になった為、その週の試合が中止となり、節ごとの同条件での一律的なリーグ順位が定まらなくなってきている。たとえば2月8日のプレミアリーグの順位では

 1位マンチェスターシティ    22試合 勝ち点59
 2位マンチェスターユナイテッド 23試合 勝ち点45
      ・               ・
      ・               ・
 9位アストンビラ        21試合 勝ち点35

 といったごとく試合数が同じではない。アストンビラは練習場がコロナで閉鎖となった為、試合が出来なかったからである。

3)イタリア:日曜日3時キックオフの伝統の時間帯も残しているが、テレビ放映を多くするため、日曜日であっても12時キックオフの試合、そして土曜日の夕方キックオフの試合とちりばめている。フットボールファンにとっては週末に10試合もテレビ観戦ができることになる。

4)スペイン:通常は日曜日17時原則すべての試合のキックオフであったが、コロナ禍の無観客試合を強いられている現在はそれぞれの試合キックオフ時間をずらして行っている。なお試合のテレビ放映時間はあらかじめ決められておらず、試合前日または数日前に決まる。あくまでテレビ視聴者優先となっている。

5)ドイツ:規則に厳しいドイツはまだ土曜日午後3時半キックオフを遵守している。


 そしてホーム・アンド・アウエーのカップ戦もコロナの影響をもろにかぶっている。

1)ヨーロッパチャンピオンズリーグのベスト16のライプチッヒ対リバプールの試合は、ドイツがコロナ死亡者数世界4位の10万人を超えている英国からの入国は禁止されている為試合が出来ず、第3国で双方の国の人々を受け入れているハンガリーのブタペストで行うこととなった(2月16日)。リバプールのホーム(3月10日)は英国リバプールで行われるがこれは英国政府のイベントでの特例扱いとなっている(もちろん無観客)。

2)同じチャンピオンズリーグのマンチェスターシティ対ドイツボルシア・ミュンシェングランドバッハの試合もブダペストで行われることとなった。

3)ヨーロッパリーグのベスト32のイングランドマンチェスターユナイテッド対スペインのレアル・ソシアドの試合も両国とも入国禁止のためイタリアのトリノで行われることとなった。

 今後国によってはコロナ禍によるロックダウンが施行されることもあり試合の会場が第3国になることも当たり前になることであろう。

 そして『Brexit(英国のEUからの離脱)』が成立してから1か月たった現在、イングランドFAはイングランドのクラブが外国人監督及びコーチを採用する場合、Government Body Endorsement(GBE=The FAからの認証書)を必要とすることとした。
 
 この骨子は「外国人監督、外国人フットボールダイレクター、および外国人コーチがイングランドのプロクラブに就任するためには
1.ヨーロッパトップリーグ(例えばセリエA)に2年以上監督として在籍していたこと。
2.または5年間で3年以上監督として在籍していたこと。
3.またはFIFAランキング50位以内の国の監督であったこと。

 上の1〜3のいずれかが必要となり、GBE資格の有効期限は3年とするというもの。またその監督が連れてくる外国人コーチも同じ要件を満たしていることが求められている。

 EUから脱退した英国としては移民受け入れを制限していく方向で動いており、監督のGBE取得は英国のクラブは英国人によってマネージされるという趣旨だ。この制度は2021年1月1日より発効となっている。

 今後プレミア、その下部のチャンピオンズリーグ(2部)の監督を安易に外国から招聘することより英国人による指導のレベルを上げ、ひいてはイングランドのレベルアップに貢献するという趣旨だ。

 現在プレミアリーグ20チームで英国人監督は11人。トップ6のリバプール、アーセナル、Mユナイテッド、Mシティ、チェルシー、スパーズのビッグクラブには英国人監督はいない。元イングランド代表選手でもあった、ランバードがイングリッシュとして、若手監督の見本としてチェルシーを率いていたがこの1月更迭され、現在英国人監督はトップ6にはいなくなった。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08  :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫