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ヨーロッパフットボール回廊『ヨーロッパフットボールの話題』

20・11・17
 まずは先月のコラムでお伝えしたプレミアリーグ改革案についてどうなったのか。

 結論はビッグクラブ6主導による改革案は撤回となりました。FA、そして政府スポーツ省、イングランドフットボールリーグ(EFL)から「フットボール発祥のイングランドの地でアメリカ的なフランチャイズ方式はなじまない」との強い反対の声を前にして、ビッグ6クラブ及び提唱者は撤回を余儀なくされたのです。良識が商魂に勝った判断でした。

 しかし、このコロナによる無観客試合が続き、またイングランドプレミアリーグ(PL)による支援がない限り、下部リーグEFLの存在が危ぶまれている状況は変わっていません。

 そして蒸し返されたのはPLから総額50百万ポンド(約70億円)をEFLへ援助するという案。PLはEFLに対して50百万ポンドのうち20百万ポンドは無償供与、30百万ポンドは貸付としています。しかもこの援助資金はリーグ1及びリーグ2(実質3、4部)の48クラブへ供与する案としており、その上部リーグ、チャンピオンシップリーグ(実質2部:24クラブ)に対しては別途200百万ポンド(約280億円)の貸付をするという案です。

 しかしEFLは30百万ポンドの貸付に対し、現在の経営の現状からして返済できなく、50百万ポンド無償供与にしてほしいと訴えています。現在8クラブがチームスタッフに対する給与を支払えず、銀行より借り入れでしのいでいる中、返済の目途は立っておらず、破産の恐れがあると警告されている状況です。このPLによるEFL救済措置は出口がない議論となっており、政府スポーツ省、The FAの援助なしには暗礁に乗りあがるのではと危惧されています。

 当初10月より観客を入れての試合にするとしていましたが、この11月から英国は感染者数が一日2万人を超え第2次ロックダウンに突入、無観客試合は来年3月まで続くのではとみなされている状態の為、早急に資金供与が必要となっているのが実情です。

 その状況下、アメリカの投資会社JPモルガン及びTGP Capital社がチャンピオンシップリーグを買収するという提案が浮上してきました。その額は500百万ポンド(約700億円)という高額です。EFL会長は売却しないとオッファーを拒否していますが、今後どうなるかまだ不透明な状況です。

 この種のM&A(Mergers&Acquisition=企業買収)は世界的にも資金あるアメリカ、中東産油国の投資会社がビジネスとして魅力あればすぐ飛びつく傾向にあり、英国のフットボール産業がテレビ放映権の拡大により巨大化した現在、コロナ禍で世界的に冷えたマーケットの中で魅力ある投資先となってきたからかもしれません。

 当面はEFLのクラブ救済が急務ですが、どうなるかが、英国のフットボール界の直近の課題です。

 このような裏でのサバイバル交渉の中でヨーロッパ各国のフットボールは無観客ながら取り進められています。その中で明るいニュースも生まれてきました。

 それはスコットランドが1996年のユーロ(イングランド開催)そして98年のフランスW杯出場以来、23年振りに延期された2021年ユーロの出場権を得たことです。11月12日に行われたユーロ予選でのプレーオフC組対セルビアとの決勝戦に1−1となりPK戦にもつれ込み、5対4で勝ち、出場権を得たのです。

 スコットランドにとっては空白の23年を埋める快挙でした。監督ステーブ・クラークは元代表であり、チェルシーのディフェンダーとして鳴らした選手でした。現代表にはマンチェスターユナイテッドのMFであるマックトミー、リバプール左の攻撃的フルバック、ロバートソンを中心としたチームでありユーロ2021でどこまでいけるか注目です。

 既に、イングランド及びウエールズも出場権を得ており英国からは3国が出場することになります。このユーロは2021年6月11日から7月11日までヨーロッパの下記12ホストシテイで行われます。

 過去は一国開催であったのですが今回からマルチ都市開催に変更されました。ロンドン、グラスゴー、アムステルダム、バクー、ブダペスト、ブカレスト、ダブリン、コペンハーゲン、ミュンヘン、ローマ、ビルバオ、そしてセント・ぺテルスブルグです。

グループ分けは下記の通り。
A組:トルコ、イタリア、ウエールズ、スイス
B組:デンマーク、フィンランド、ベルギー、ロシア
C組:オランダ、ウクライナ、オーストリア、北マセドニア
D組:イングランド、クロアチア、スコットランド、チェッコ
E組:スペイン、スエーデン、ポーランド、スロバキア
F組:ハンガリー、ポルトガル、フランス、ドイツ

 一番厳しいグループはF組でしょう。前回W杯優勝のフランス、前回ユーロ優勝のポルトガル、そして大きな大会に強いドイツが同じ組で2席を争う熾烈な戦いが予想されます。

 英国のブックメーカー、ウイリアムヒルの掛け率はフランス、ベルギーが5倍、イングランドが9/2、オランダ、ドイツが7、スペインが8、イタリアは12となっています。ボトムは北マセドニアで24位の500倍です。

 しかし果たして、この時期までにコロナが収束することが開催条件であり、都市によっては変更される可能性もあります。一方で都市分散はコロナ増幅に拍車をかけるのではという見方があり、UEFA事務局は一国開催も視野に入れているとのこと。その場合は英国になる可能性が高いと言われています。しかしまだ7か月先のことであり、東京オリンピックと同じく不透明な見通しであることは間違いないところです。

 それにしても日本のスポーツは野球も、フットボールも、相撲も観客を入れており欧州とは全く違う様相です。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08  :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫