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ヨーロッパフットボール回廊『欧州のフットボール始まる。期待と失望』

20・09・11
 既に9月となり、従来の正常な年であればヨーロッパフットボールのシーズンは始まっているはず。しかし、今シーズンはコロナがいまだに収束せず、これから通常の1か月遅れでスタートする。

 イングランドプレミアリーグの開幕は9月12日となっている。それに先立つ恒例のコミュニティ・シールドはリーグ優勝リバプールとTHE FAカップ優勝のアーセナルが無観客で8月29日対戦。リバプールの南野が英国初ゴールを挙げたが、1−1の末、PK戦で敗退。アーセナルがシールド(盾)を獲得した。

 先シーズンが7月26日に終了しているので通常は3か月のオフとなるところわずか1か月のオフとなり、選手は十分な休暇が取れずレフレッシュする間もなく新シーズンを迎えることとなってしまった。

 更にリーグ開幕に先立つ1週間前の9月4日からUEFA Nations League(UNL)が開幕。代表選手には過酷な日程となり、全く休む暇なくフットボールに専念せざるを得ない異常なシーズンとなっている。それだけに、このオフシーズン幾多のエピソードが起こった。それをいくつか拾ってみたい。


1)まずイングランド代表であるが
 UNL戦予選A−2組第一戦はアウエーで2016年の欧州選手権で敗退し番狂わせで敗退しているアイスランドとレイキャビクで対戦。休暇明けの選手にとってはフィジカル面でまだ準備不足、そして休暇中、事件に巻き込まれた選手、負傷治療中の選手もあり、ベストメンバーを組めずに対戦せざるを得ないこととなってしまった。

 守備の要マンチェスターユナイテッド(以下MU)のマグアイアーもそのひとり。休暇先のギリシャ・シロス島で乱闘騒ぎを起こし、逮捕され21か月10日の実刑を言い渡された。しかし無罪を主張、上告したことで、次の裁判が行われるまで釈放されたが、イングランド監督サウスゲートは結局選出せず、このアイルランド戦に臨んだ。

 中盤プレーメーカー、リバプールのヘンダーソン及びMUのストライカー、ラッシュフォードをけがで欠いての戦いとなった。その為多くの若手選手を選出、中盤にウエストハムのライス、そして将来のイングランドを背負って立つといわれるマンチェスターシティ(以下MC)の20歳ホーデンを起用。トップにはケーン、スターリング、右サイドにはドルトムンドのサンチョを入れ万全を尽くした。

 しかし、今までの代表戦での速い判断と動きは見えず、また無観客の為盛り上がらず低調な試合運びに終始。左サイドバックのウオーカーが2度のイエローで退場する中で、活きの良さを誇った若手イングランドらしさは寸分も見えず、やっと90分にスターリングがシュート。それを相手バックがハンドボール。スターリングがPKを決めてようやく1−0とリードした。

 その後94分にアイスランドに攻め込まれセンターバックのゴメスが相手を倒しPKを献上。またしてもアイスランドにしてやられたかと思われたが、アイスランド選手が蹴ったボールはゴール上を越え、何とか一勝をもぎ取った。

 その3日後9月8日レイキャビクからコペンハーゲンに飛びデンマークとの試合に備えていたイングランド陣営は、「STUPID BOYS」と新聞の見出しが踊る若手選手が出た為、フットボールどころではなくなった。アイスランド戦に出場した20歳ホーデンと18歳将来のストライカーとして注目されているMUのグリーンランドがホテルにアイスランドのビューティ・クイーン2人を連れ込んだとして即刻帰国させられたのである。

 この大会では、コロナ感染症防止のため各国代表選手はホテルに拘束され、外部の人間との接触は禁止されている。現在アイスランドに滞在している外国人は英国に帰国した時、コロナ対策として14日間の隔離が義務付けられているが、公式スポーツの大会、試合のスタッフ、選手はその対象から外れていた。しかし、宿泊ホテルからの外出、外部の人の接触はできない規則になっていた。この規則を2人の選手は破ったことになり、即刻本国強制送還となったもの。更に外部の人間をホテルに入れたことで2人はアイスランド警察から規則違反としてそれぞれ1,360ポンドの罰金が科せられた。誠に「STUPID BOYS」である。

 この2人を欠き、主力を欠いたイングランドはデンマーク戦、全く試合とならず、多くのチャンスは作るが得点マシーンのハリー・ケーンはあと一歩が足らず再三シュートチャンスをものにできなかった。2試合先発したサンチョはMUが獲得を目指している選手、20歳のホープに100万ポンド(140億円)の移籍金を用意しているが、所属するドイツ、ドルトムンドは移籍させないとして話は進んでいない。そのサンチョもこの2戦全く機能せず、失望するプレー振りは評価を下げた結果となった。結局試合は0−0の引き分けとなり10月にはA−2組べルギーと対戦するが前途不安を露呈した。

 このUNL戦、他の組で戦っているドイツの勢いがない。初戦スペインと1−1の引き分け、2戦目スイスとも1−1の引き分けとまだ勝ち星なしで出だしが遅い。予選A−1組ではイタリアが1勝1分けでトップ。A−2組ではベルギーが2勝でトップ。A−3組ではフランスとポルトガルが2勝でトップ。A−4組ではスペインが1勝1分でトップとなっている。


2)さてプレミアリーグはというと
 9月12日に無観客試合で始まる。10月1日以降観客を入れての試合を予定しているが、ここ数日の感染者数が2,500人/日を超え第2波到達かと警戒、その場合は政府として観客を入れての試合をすることはないとしており、これからのリーグ戦がどうなるかはまだ不透明である。

 しかし英国ブックメーカーはいつもと変わらず賭け率を発表している。優勝したリバプールが賭け率2でトップ、続いてMCが8/11、チェルシーが11、MUが14となっている。


3)メッシの世紀の移籍は『泰山鳴動してネズミ一匹も出ず』となった。
 先シーズンのチャンピオンズリーグ準決勝対バイエルンミュンヘンに8−2と大会最多失点で敗北したバロセロナはベテラン選手を切って新たなチームへ変革したいとし、監督にオランダ人クーマンを任命。クーマンはまずウルグアイのストライカー、スアレスをフリーで放出。そこから始まったのが15歳から在籍しているバルサの至宝メッシ(33歳)が移籍表明をしたことである。

 彼の契約は、2020年6月末までに移籍表明をした場合は自由契約選手として移籍できることになっていた。移籍表明しなければバロセロナは移籍金として638百万ポンド(862億円)を移籍希望クラブから請求できる契約であった。メッシは「今年はリーグ終了が伸びたので8月が期限になると解釈できる」として彼のメンターであったグアルディオラ監督のMCへフリーで移籍できると主張したが、スペインFAは「契約上は6月末までに移籍要請をしなければ自由契約はできない。もしそれ以降に移籍する場合は移籍金638百万ポンドが発生する」と解釈し発表。さすがのMCもその高額を支払うすべもなく手を引き、メッシのプレミア行きは消滅した。メッシの今シーズンはどうなるのであろうか。

 ともあれ当分無観客の試合が続く。ミスしても、素晴らしいシュートをしても無言のファンの中でプレーする選手にとってのモチベーションは何か。その問いにどう答えるのか見守ってみたい。自己満足、それともお金?


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08   :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫