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大津一貴のエンジョイフットボールライフ『モンゴルのスタジアム事情』

20・09・11
 上:上段写真/MFFフットボールセンター・スタジアムの全体写真。周囲には高層ビルも立ち並び、首都ウランバートルの発展もうかがえる

 上:下段写真/観客席(バックスタンド)のサポーターたち。各国のリーグでよく見るゴール裏での応援はない


 北のサッカーアンビシャスをご覧の皆さま、こんにちは。

 まずは、私が所属するモンゴルリーグの近況報告をしたいと思います。現在も新型コロナウイルス感染症対策から、2020年1月から始まった渡航制限は継続中で、外国人はモンゴルへの入国が許可されておらず、その結果、現地の選手のみでリーグ戦を戦っております。

 さらに、今シーズンは開催期間が縮小されてリーグ戦が行われており、9月末には終了する予定となっています。その為、私を含めたモンゴルリーグに所属する全ての外国人選手は、今シーズン1度もプレーすることなくシーズンが終了してしまうこととなりました。

 私が所属するFCウランバートルは、リーグ前半戦は勝ち点を伸ばして首位争いをしていたのですが、途中で4連敗を喫してしまいました。現在は再度調子を取り戻し2連勝中で、順位は10チーム中5位。リーグ終盤、チームメートたちの奮闘に期待したいところです。

 さて今回は、そんなモンゴルリーグが開催されている「スタジアム」についてご紹介いたします。具体的には、モンゴルの首都・ウランバートルの中心地に所在している、「MFFフットボールセンター・スタジアム」についてです。「MFF」とは、「Mongolia・Football・Federation」の頭文字を取った略称で、文字通りモンゴルサッカー協会が専有するスタジアムです。毎年、このスタジアムを中心に集中開催されているモンゴルリーグですが、首都のウランバートルで全ての試合が開催される理由が大きく2つ存在しています。

 まず1つ目は、モンゴルリーグに所属するチームの9割がウランバートルを本拠地とするチームだからです。2020年シーズン、モンゴル1部リーグに所属している10チーム中、9チームはウランバートルのチームです。北海道で例えるなら、札幌を本拠地にするチームが9チームで、函館を本拠地にするチームが1チーム、とういうような感覚でしょうか(函館のチームが断然不利…!?)。これは、モンゴルの人口が約317万人に対して、ウランバートルに住む人口が約145万人と、国の人口が首都に一極集中している事情がサッカーにも大きく影響を及ぼしています。モンゴルの地方都市には人があまりいないので、同じくサッカーチームも存在していません。私のチームメートである地方出身の選手は、ウランバートルに移住してプレーしています。

 2つ目の理由は、ほとんどのチームが自分たちでスタジアムを所有していないからです。その為、試合を開催する際はモンゴルサッカー協会の「MFFフットボールセンター・スタジアム」をホームスタジアムとして利用しています。ですが、ほとんどのチームが自前のスタジアムを所有していないので、ホームもアウェーも関係なく、結果的に同じスタジアムを利用することになります。このような理由が重なり、モンゴルリーグは「MFFスタジアム」で全ての試合を開催しています。

 次はスタジアム内部の様子をご紹介します。まず、とても寒い気候によって天然芝が育ちにくい環境下にあるため、ご紹介した「MFFスタジアム」を含め、モンゴルに存在する全てのサッカー場は人工芝です(ウランバートルの夏はとても短い&真冬はマイナス40度!になる日もあり)。また、人工芝であっても極寒の環境と経年劣化による痛みが激しいので、クッション性がかなり失われています。ボールがはずみやすく、地面も固めです。試合後は体への影響が大きいと私は感じています(特にひざや腰、かかとへの負担が大きいです)。モンゴルリーグで活躍するには、日々のコンディション調整が大きな鍵の1つとなるでしょう。

 
 上:上段写真/バックスタンドから観戦するサポーターの様子

 上:下段写真/ロッカールームでミーティングを行う選手たち


 サポーターたちが観戦する観客席は、5千人ほど収容できるように用意されています。多くのJリーグのスタジアムには、各チームの熱狂的なサポーターが集まる「ゴール裏の席」が存在しますが、「MFFスタジアム」にはゴール裏の席がありません。そのため、一般サポーターは全員バックスタンドでの観戦となります(メインスタンドは関係者席)。ただ、「MFFスタジアム」の魅力の1つとして、サッカー専用スタジアムなので観客席とピッチの距離がとても近いです。選手の会話や激しいタックルの音まで、観客席に大きく響き渡ります。逆に言うと、我々選手たちにはサポーターの声援はもちろんのこと、野次や罵声もよく聞えます(笑)。

 続いて、普段は選手やチーム関係者しか立ち入ることのできない、ロッカールーム内部の様子をご紹介します。まず、2019年にロッカールーム内部は綺麗にリフォームされました。以前もベンチやシャワールームなど最低限の設備はあったのですが、現在はより近代的なサッカースタジアムとなっております。各選手が着替えなど行えるようにパーテーションで区切られた専用のロッカーがあり、マッサージ用のベッドや作戦ボードも準備されています。また、ロッカールームからスタジアムに抜ける廊下は、かつてのモンゴルサッカー界の歴史が振り返れるように、多くの写真やパネルが壁一面に飾られています。これは、選手側からするとモチベーションが高まる要因の1つとなりそうですね。この廊下を抜けて階段を駆け上がると、スタジアムのピッチにつながっています。


 下写真/ロッカールームからピッチにつながる廊下。モンゴルサッカーの歴史も感じながらモチベーションも上がる
 上写真/試合後にサポーターと触れあう大津選手。観客席とピッチが近いのも特徴

 
 この「MFFスタジアム」では、モンゴル代表の国際試合も開催されます。今年の3月に開催予定だった、日本代表とのW杯アジア2次予選も、このスタジアムで開催される予定でした。現地の人々は、自国の代表選手が日本代表と対戦する姿を心待ちにしておりました。開催予定が不透明となってしまっている現状はとても残念ですが、なんとしてでもモンゴル現地で試合が開催されることを私は願っております。この代表戦を含め、新型コロナウイルスの影響が収まった際には、ぜひ雄大なモンゴルにも足を運んでいただき、経済発展の目覚ましい首都ウランバートルにある「MFFスタジアム」の臨場感も味わってほしいと思います。

 ということで、今回はモンゴルサッカーの聖地ともいえる「MFFフットボールセンター・スタジアム」を中心にご紹介させていただきました。私がプロサッカー選手として初めてピッチで、さらにプロ初ゴールを決めた場所でもあり、とても多くの思い入れがあるスタジアムです(プロ生活で初めてレッドカードをもらったのも同じくMFFスタジアム…)。たとえ時間がかかったとしても構わないので、ぜひもう一度このスタジアムでプレーしたいと切に願っております。

 このように読者の皆さんにも思い出のスタジアムはありますでしょうか?


◆大津一貴プロフィール◆
少年時代は、札幌山の手サッカー少年団とSSSサクセスコースに所属。中学校時代はSSS札幌ジュニアユース。青森山田高校から関東学院大学へ。卒業後は一般企業へ就職。
2013−2014年は、T.F.S.C(東京都リーグ)
2015年FCウランバートル(モンゴル)
2016年スリーキングスユナイテッド(ニュージーランド)
2017年カンペーンペットFC(タイ)
2018年からは再度FCウランバートル(モンゴル)でプレーし、優秀外国人選手ベスト10に選出された。
2019−20年もFCウランバートル所属
大津 一貴