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大津一貴のエンジョイフットボールライフ『モンゴル思い出の試合3選』

20・08・11
 上写真/2015年シーズン共に戦ったFCウランバートルのメンバー。前列左から2人目が大津選手


 北のサッカーアンビシャスをご覧の皆さま、こんにちは。新型コロナウイルスの影響により、モンゴル現地へ渡航出来ない日々が続いておりますが、モンゴルリーグ自体は現地のモンゴル人選手のみで、すでに2020年シーズンのリーグ戦が開幕しております。私が所属するFCウランバートルは、開幕から7節を終えて負けなしの2位と、高順位につけております。

 自分がピッチの上でプレー出来ないことはとても悔しい思いで一杯ですが、チームメートたちの頑張りに刺激を受ける毎日です。物理的な距離は離れていますが、私の思いも仲間たちに伝わっていると信じています。きっと、これからも優勝を目指して躍進してくれることでしょう。

 さて今回は、私がFCウランバートルでプレーしてきた2015年、2018年、2019年のシーズンごとに印象に残っている試合を個人的なエピソードを交えてご紹介したいと思います。


■2015年(対ホルムホンFC戦 2−1勝利)

 私が初めて海外でサッカー選手となったシーズンの開幕戦は、今でも思い出深く印象に残っています。まず、当時のモンゴルリーグは運営体制が今より整っておらず、リーグ戦のスケジュールが正式に決まったのは開幕戦の試合前日。しかも、当初予定していた開幕日程から1週間遅れて…、さらに1週間遅れて…、の繰り返しで、「本当に開幕するの?」と感じてしまうような、日本では考えられない状況でした。

 その後スケジュールが正式に発表されたのが開幕戦を迎える前日練習の最中で、「明日の相手は、昨年の優勝チームだよ!」と聞いたときは、さらに驚きでした。前日の夜は緊張のせいでなかなか寝付けず、試合当日は家を出るまでに何度も鏡に向かって「俺は出来る、俺は出来る」と一人で唱えていたことは、今となっては良い思い出です(笑)。

 ようやく迎えることが出来た開幕戦。試合開始のホイッスルが鳴ると、緊張していたことが嘘のように試合に集中することが出来、前半20分に私の先制ゴールが決まりました。最高のスタートで、子供の頃から憧れていたプロサッカー選手の夢を叶えられ、試合も2−1のスコアで勝利。試合終了の瞬間は優勝したかのような盛り上がりで、この試合で一気にチームの結束が増したような気がしました。残念ながらこのシーズンはリーグ戦もカップ戦も2位という結果に終わり、とても悔しい思いをしましたが、このときの悔しさが今の自分の原動力となっています。

下:上段写真/2015年の開幕戦でゴールを決めた瞬間。良いスタートとなった
 上:下段写真/2018年の試合でゴール。感情が込み上げるものがあった

■2018年(対アンドード・シティFC戦 1−0勝利)

 この試合の直前である2018年9月6日に北海道胆振東部地震が発生しました。地震発生当時、私はモンゴルに滞在していたので北海道現地の様子が正確に把握することが出来ず、心配な思いが増すばかりでした。「生まれ故郷である北海道のために自分が出来ることは何か?」ということを考えれば考えるほど、何も出来ない自分に嫌気が差し、自己嫌悪に陥りそうでしたが、「今、目の前のことに全力を注ぐこと」が、当時の自分に唯一出来ることでした。

 そのような思いを胸に迎えた試合当日。この試合は、2位と3位の直接対決でリーグ戦も終盤。試合に負けた場合にチームは優勝の可能性が消えてしまう状況で、とてもプレッシャーの懸かるシチュエーションでした。お互いのチーム同士が「絶対に負けられない」状況だったので、前半から激しい試合展開となりました。プレー中は常に緊張感があり、一瞬たりとも気が抜けない雰囲気の試合でした。

 そんな中、味方選手のセンタリングに反応した私の先制ゴールが見事に決まり、1−0で前半が終了。後半は相手チームに押し込まれる時間帯も多くありましたが、チーム全員でゴールを守りきり、1−0のスコアで試合に勝利。「少しでも北海道の人たちのためになりたい」という思いでプレーした結果、偶然にも私のゴールが決まりました。「人のために動ける人は、何事においても大きなパワーを発揮することが出来る」という事実を学ぶことが出来た試合で、個人的にはとても印象に残っている試合です。


 上写真/2019年の試合の様子

■2019年(対SPファルコンズ戦 3−3)

 2019年はなかなか結果が出なかったシーズンでした。また、給料の未払いや私以外の外国人選手が全員いなくなってしまうなど、ピッチ内外共にトラブル続きで、今振り返ると色々と海外での厳しさを味わったシーズンでした。SPファルコンズとの試合を迎えた時はシーズンの終盤で、チームは下位に低迷していましたが、降格は既に免れていた状況です。要するに「消化試合」の状況でした。

 試合はゴールの奪い合いで、前半終了時でスコアが2−2。消化試合ではありましたが、お互いのチームの意地と意地がぶつかり合うような試合内容で、白熱した試合展開でした。そして、後半開始早々に私のミドルシュートがゴールネットを突き刺します。今までの私はペナルティエリア内でのゴールばかりで、正直ミドルシュートは得意ではありませんでした。しかし、「ミドルシュートを決めてプレーの幅を広げたい」という思いを元に、シーズンが始まる前から体の使い方を見直し、トレーニングに取り組んで来ました。その成果がようやく実を結んだことと、上手く機能しなかったチームの歯車がようやくかみ合ったタイミングが重なり、ゴールを決めた瞬間にチームの一体感を感じることが出来ました。

 リーグ終盤ではありましたが「ようやく“チーム”らしくなってきたな」と、個人的には大きなきっかけをつかむことが出来た試合です。その後、残念ながら相手チームに同点ゴールを許し、試合結果は引き分けでしたが、チームの雰囲気はようやく上向きになり、今シーズンの躍進につながっているのではないかと思います。

 以上、私個人がシーズン毎に印象に残っている試合のエピソードです。過去の試合を振り返って思うことは、「早くピッチに戻りたい!」ということです。新型コロナウイルスによってサッカーが無い生活を送ることになっておりますが、何事においても「当たり前など存在しない」ということを痛感しています。だからこそ、いま目の前にある「当たり前」を大切にしていこうと思う次第です。


◆大津一貴プロフィール◆
少年時代は、札幌山の手サッカー少年団とSSSサクセスコースに所属。中学校時代はSSS札幌ジュニアユース。青森山田高校から関東学院大学へ。卒業後は一般企業へ就職。
2013−2014年は、T.F.S.C(東京都リーグ)
2015年FCウランバートル(モンゴル)
2016年スリーキングスユナイテッド(ニュージーランド)
2017年カンペーンペットFC(タイ)
2018年からは再度FCウランバートル(モンゴル)でプレーし、優秀外国人選手ベスト10に選出された。
2019−20年もFCウランバートル所属
大津 一貴