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ヨーロッパフットボール回廊『いつフットボールは再開するのか?』

20・05・15
 今年3月初めにいったん休止してしまった世界のフットボールは今後どうなるのであろうか。一部ではコロナウイルス蔓延によるパンデミックはワクチンの開発が先で、いつ開発され、接種することが出来るのかにかかっていると言われている。英国でもオックスフォード大学での新薬の治験が始まっているが、結果が出るのは早くてこの9月、一般に接種可能となるには18か月かかり、来年秋ではないかと言われている。

 このため先月号、先々月号にてレポートしたように、フットボールはこの5月になってもいつ、どのように再開されるのかは依然不透明のままである。

 このままいけば今年度の新シーズンを8月に控えて、現在休止状態の昨年度(この6月には終了する)のシーズンを中止するのか、試合を行いリーグを終わらせるのか決めなければならない状況にある。

 ヨーロッパフットボール連盟(UEFA)は、その措置について5月25日までに加盟国は決め、届ける義務があるとしているため、各国のフットボール協会は、今がその決断の時として、関係リーグ、クラブ、選手組合と協議を進めている。その状況をみてみよう。


◆既に今シーズンを終了した国は、オランダ、ベルギー、フランスの3か国である。


◆そのうちフランスは3月12日に休止したが、リーグ順位をそれまで試合をした相手とのホーム、アウエーの勝ち点に対するポイント方式を決め、その総ポイント数で順位を決めた。
    *ホーム、アウエーともに勝利(2勝):ポイント3
    *1勝1分                :ポイント2
    *1勝1敗                :ポイント1.5
    *  2分                :ポイント1
    *  1分1敗              :ポイント0.5
    *  2敗                :ポイント0
 この結果、パリサンジェルマンがトップで優勝チームとなった。アメリアンとツールーズは降格、2部の優勝チーム、ロリアンが来季1部へ昇格となった。


◆ドイツは欧州の中でも一早くコロナ蔓延から脱出し再開を決めた。再開日は、5月16日シャルケ対ボルシアドルトムンド戦などの6試合が再開幕戦となったが、無観客試合となる。選手、役員、コーチ等総勢300人しかスタジアムに入れないことになっている。最終戦は6月27/28日予定。

 クラブの練習は5月1日より開始したが条件は厳しく、下記を遵守することが義務付けられている。更に練習再開前に1部、2部の選手全員1,724人にコロナ感染可否の検査を実施した。そのうち10人が感染者となっており彼らは練習には参加できないこととなった。

◇選手はマスク着用
◇選手の車は3車線を空けて駐車
◇飲料水は決まった場所でしか飲めない
◇トイレはトレーニング場のみ使用可
◇トレーニングは5人一組以内で行う。15分間準備アップ、75分少人数(5人)のグループ練習、15分リカバリー練習。
◇つば吐き禁止。などである。


◆イタリアセリエA
 3月9日以来休止であったがイタリアのコロナ死者数が減少してきたこともあり、6月再開を模索しているが、イタリア協会は時期早渉としてまだ決めていない。しかしセリアAのクラブは5月4日より個人練習を始め、チーム練習は5月18日以降解禁となり再開に備えている。


◆スペイン
 5月8日よりトレーニング開始したが、リーグ再開日を6月12日、7月31日終了としているがまだ決定はしていない。リスクゼロが条件というのが政府の言い分である。再開しても無観客試合となる模様。練習は8人一組で行う。更衣室の同時使用は3人まで。スタッフは全員マスク着用と手袋をすることとなっている。
 

◆英国プレミアリーグ
 5月11日ジョンソン首相による新たなコロナ対策緊急宣言が行われ、スポーツについてはゴルフ、テニス、バスケット、釣りについては制限を解除したが、それ以外のスポーツ、特にフットボールについては早くとも6月1日以降無観客で行うかを協議するとしておりまだ確定していない。

 しかし一方でUEFAが5月25日までに現リーグ(19年/20年度)の処置を決定する方針のため、改めて5月14日に政府スポーツ省、およびThe FA、プレミアリーグ、選手組合との会議にて方向性を見出し5月18日にプレミアリーグの方針を発表することになっている。

 プレミアリーグとしては6月12日再開、7月27日閉幕としたいとしているが多くの課題を残しており果たしてどう妥協できるかである。

 その課題とは
◇現在リーグで検討している案は残りの試合を中立のスタジアム、例えばウエンブリーとかオールドトラフォードとかで一日2試合無観客試合を行うことで試合数を消化するとしている。しかし現在降格ラインにいるクラブのブライトン、アストンビラ、ボーンマス、ワットフォードなどはホームゲームが無くなる恐れがあるため反対しており、プレミアクラブ20のうち14クラブの賛成を必要とするこの案の実現が疑問視されている。

◇またリーグ期間が7月に伸びると、選手の契約期間が通常6月末までとなっているため、新たに再契約をする必要も出てきており、選手によっては期間中に移籍希望を申立て、移籍することもあり得ることになり、戦力に影響することを危惧している。この点については、FIFAでは選手契約の期間を7月末までと延長することを認めているが、各クラブの意向はそれぞれであり、これまた解決すべき課題となっている。

◇更にテレビ放映権料も3月から6月の試合が無く、このままリーグがキャンセルとなれば、750百万ポンド(約1,000億円)が消えてしまうことになる。

 従い最悪のシナリオとしては、今シーズンは終了としても順位はどうするのか(フランスポイント制度を導入するのか)、トップリバプールの優勝を認めるのか、どこを降格チームとするのか、いつ観客を入れての試合に移行できるのか?
 
 そして、外国人選手が約半分も占めるプレミアクラブで、彼らが英国に入国し練習を始めても、現在のロックダウン条件によれば14日間の隔離が必要であり、それによる練習計画の見直しなど解決しなければならない課題が多い。
 
 ここ1−2週間の政府の方針、スポーツ省の方針、そしてプレミアリーグの運営見通しを注視しなければならない。

 先が見えない敵と戦う、スポーツ界、フットボール界の行く末が思いやられる2020年春である。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫