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大津一貴のエンジョイフットボールライフ『人生初のレッドカードから学ぶ』

20・05・11
 上写真/2018年開幕戦、FCウランバートルのスターティングメンバーの集合写真。前列左端が大津選手


 北のサッカーアンビシャスをご覧の皆さま、こんにちは。新型コロナウイルスの影響で、5月31日まで緊急事態宣言が延長となりました。私が今季プレーする予定のモンゴルにも渡航できない状況が続いており、正直不安な日々が続いております。ですが、サッカーがプレーできない今だからこそ、自分に出来ることを見つけて、実行に移していきたいと思う次第です。

 さて本日は、私がサッカー人生で一度だけもらった「レッドカード」にまつわるエピソードをご紹介します。

 2018年、私は古巣であるモンゴルリーグのFCウランバートルへ3年振りに復帰したシーズンでした。前年にタイリーグでプレーしておりましたが、移籍先がなかなか見つからない状況の中で声を掛けて頂き、海外でプロサッカー選手としてデビューした2015年以来にモンゴルへ戻ることを決意しました。再び古巣チームでプレーさせてもらえることへの感謝の思いと、久々に一緒にプレーするチームメートやファンの皆さんの前で良いプレーを見せたいと思うことは、一人の選手として当然のことでしょう。

 迎えた開幕戦、私は並々ならぬ思いでスタジアムに入場したことを今も鮮明に覚えています。当然、どんな試合でも100パーセントを尽くしますが、この2018年シーズンの開幕戦は相当気合が入っておりました(今振り返ると気合が入りすぎていたかもしれません…)。

 当時はイタリア人監督が新たに就任したばかりで、チームメートにはモンゴル国内の他チームから移籍してきた選手も多く、「これから新たな船出だぞ!」という雰囲気でした。その状況での初戦だったので、なんとしてでも勝利をつかみ取りたいと強く願っていました。

 私は中盤のポジションでスタメン出場。当時は多くの外国人選手がチームに所属しており、限られている外国人枠の選手として試合に出ることの責任もありました(このシーズンの規定は外国人出場枠3人、それに対して私が所属していたFCウランバートルには6人の外国人選手がいました)。そして、何よりもチームの代表として試合に出ることの責任を強く意識しておりました。

上写真/2018年開幕戦、プレー中の写真。中央赤いユニホームが大津選手


 対戦相手は、モンゴル国内強豪のアスレチック220FC。相手チームにも日本人選手が所属しており、一人の選手は私の出身大学の後輩ということで、余計に気合が入る状況でした。試合は開始早々から両者互角の展開で、どちらのチームが勝利してもおかしくありません。

 そんな中、前半に味方選手のゴールで私が所属するFCウランバートルが先制に成功。1−0と理想的な展開で前半を終えましたが、私は前半で1枚警告(イエローカード)をもらっておりました(相手フリーキックを遅らせようと外にボールを蹴った行動が遅延行為とみなされてしまいました。今思えば、このプレーが良くなかったのです…)。

 後半も試合内容は互角の展開でしたが、相手チームに同点ゴールを許してしまいます。残り時間が少ない中、私が考えていたことは「時間が少ないから追加点を決めた方のチームが勝つだろうな。ということは、ここで自分がゴールを決めればヒーローだ。完全に勝利へのシナリオができたぜ。主役の座はこの大津がゲットだぜ。ふふふ」でした(失点したにも関わらず、“スーパー”が付くほどのポジティブでした)。

 そして、同点に追いつかれた後は果敢にゴールを目指し続けます。すると、試合時間残り10分ほどの時間帯に味方のスルーパスから私が裏のスペースに抜けて、相手ゴールキーパーと1対1の場面に。

 「きたーーーーー!」

私の描いたシナリオ通りの展開に身震いがしました。ですが、私のシュートは相手ゴールキーパーのファインセーブにより、ゴールを決めることができず…。

「それでもまだ時間はある。気持ちを切り替えてゴールを狙うぞ!」

 ここでもポジティブに気持ちを切り替えた途端、立て続けにチャンスが訪れます。今度は、右サイドハーフの味方選手が蹴り込んだセンタリングに、私は身を投げ出す形で足から飛び込みました。しかし、ほんの数センチ(足の長さが)足りずにボールに触ることができず…。ここで、相手ゴールキーパーも身を投げ出してボールをキャッチしに来ていたのが間接視野で見えていたので、私は直前でぶつからないように何とか相手選手をかわした“つもり”でした。

 すると、「ピッピピーー!」と審判の笛が聞こえます。

 「何の笛だ?」と思っていると、審判は私に向かって走ってきます。そして、私の前で立ち止まり胸からイエロカードを掲げます。更に、反対の手に持っていたレッドカードを天高らかに掲げ、私はイエローカード2枚で退場を命じられました(相手ゴールキーパーにぶつかったと審判がジャッジし、私の危険行為という判定に)。

 「待て待てーい、GKに当たってないぞ!」

 私は審判へ抗議するも判定は覆ることなく、試合残り10分にして退場。チームが勝ち越せる決定的チャンスを逃し、更には退場でチームに迷惑をかけてしまい、一人空しく戻ったロッカールームで頭を抱えていました。

 結局、試合はそのまま1−1で終了。勝ち点3をゲット出来るチャンスがあったにも関わらず、勝ちきれなかった試合となってしまいました。そして、その原因の一番の理由は何を隠そう私自身にあることは誰が見ても明確でした。サッカー人生で初めての退場は、私にとっては物凄く辛くて苦しい出来事だったのですが、この時のチームメートや監督の言葉が今も忘れられません。

 とあるチームメートは「オレも去年同じ審判からレッドカードをもらったから気にするな」と、落ち込んでいる私に気を使って声を掛けてくれました。

 また、監督からは「お前がこのチームの中心選手であることに変わりない。お前はプロフェッショナルな選手だと私は思っている。だから、次に向けてしっかり準備しておいてくれ」と、わざわざチームメートが居ない場所に私を呼んで、1対1で話しをしてくれました。

 このような出来事を通じて、「落ち込んでばかりではいられない。さらにこのチームの為に全力を尽くして、次こそは絶対に勝利に貢献しよう」と、ポジティブな方向へ進むきっかけとなりました。

 レッドカードはもうこりごりですが、その時に感じた本当の意味での『チームワーク』を、私はいまも大切にしています。それはサッカーチームだけに限らず、全ての人とのつながりにも言えることだと思います。是非読者の皆さまも、自分の周りの方が困っている時には、その人の心にそっと寄り添える関係でいてほしいです。その暖かい心で全世界の人々がつながっていれば、今回のコロナウイルスの猛威にも打ち勝てるのではないかと、勝手ながら考えております。

 現在のコロナ禍を乗り越えるためには、『チームワーク』が大切ではないかと思い、直接つながるかは分かりませんが、私自身のレッドカードにまつわるエピソードを紹介させて頂きました。しかし、どんな状況でもレッドカードはくれぐれも、もらわないように気をつけてください。不必要なイエローカードにも気をつけましょう(前半での余計なプレーが本当に無駄でした…。今も反省し続けています)。

 上写真/味方がゴールを決め、チームメイトと共に喜ぶ中央14番の大津選手


◆大津一貴プロフィール◆
少年時代は、札幌山の手サッカー少年団とSSSサクセスコースに所属。中学校時代はSSS札幌ジュニアユース。青森山田高校から関東学院大学へ。卒業後は一般企業へ就職。2013−2014年は、T.F.S.C(東京都リーグ)。2015年FCウランバートル(モンゴル)。2016年スリーキングスユナイテッド(ニュージーランド)。2017年カンペーンペットFC(タイ)、2018年からは再度FCウランバートル(モンゴル)でプレーし、優秀外国人選手ベスト10に選出された。
大津 一貴