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ヨーロッパフットボール回廊『スポーツイベント全滅』

20・04・11
 先月号で紹介したコロナビールス・パンデミックは、この1か月であっという間に世界中に広がりあらゆる社会行動が規制されている。

 この原稿を書いている4月10日現在、世界中で143万人が感染し、うち85,400余人が亡くなっている。当初中国から発症、現在はヨーロッパが最盛期となり、アメリカも一挙にその感染者と死亡者が増加している。

 ヨーロッパでは最初にイタリア北部(4月7日現在135,586人感染17,127人死亡)に蔓延。その後スペイン(4月7日現在140,510人感染うち13,798人死亡)、フランスも爆発的感染が起こり(78,167人感染10,328人死亡)と死者数1万人超えとなっており、本来EU諸国間では人、物の移動は自由にもかかわらず、現在ではロックダウン(Lockdown)を政府が宣言し国境も閉鎖されている。

 その余波は英国にも及び、現在感染者60,077人に及び死者も7,978人にも上っており、初めての犠牲者が出た3月5日から1か月で指数関数的に増加、政府は3月29日から罰則のある非常事態宣言(いわば鎖国)を宣言、このコロナに対抗しているが、チャールズ皇太子、首相ボリス・ジョンソンも感染隔離している状態で、いまだにその終息気配は見えない。

 そのため、あらゆるスポーツイベントは現在中止状態となっている。人間活動に必要なスポーツをする、見る、運営するという機能は停止している。生活上必要な運動(散歩)買い物、医薬施設へ行く以外の不急不要な外出は罰則として規制しており、この状態がこれ以上1年も続けばうつなどの精神病患者も増加することは必至と言われている。

 イングランドのフットボール及びヨーロッパのフットボールもこの状況をみれば正しく、闇の中でもがく暗中模索状態となっている。いつ肩を組み、歓声を挙げ、クラブの唄を歌い応援できるのか、今は誰も予測できない状況下にあり国民のフラストレーションは高まるばかりである。

 大きなスポーツイベントがどうなったのか抜き書きしてみる。
■東京オリンピック、パラリンピック
 来年7月に延期、しかし再度の延期または中止も叫ばれている。

■世界陸上
 2022年7月に延期。

■ウインブルドンテニス
 今年6月開催は中止、戦争以外では134年の歴史で初めての事。

■テニスフレンチオープン
 今年5月は中止し、9月に延期。

■The Openゴルフ
 今年7月は中止。

■USオープンゴルフ
 9月に延期。


 そしてフットボールについては
■UEFAのユーロは2020年6月の開催を来年2021年6月まで1年間延期した。

■UEFAチャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグはもしコロナが9月まで影響する場合は2019/2020シーズンの残った試合は中止とする。

■イングランドプレミアリーグは3月初めから4月30日まで試合中止となっており、今のところ再開を6月に行うとしているが、まだ最終決定はされていない。6月に再開できれば7月中に試合を消化し終了、その後来年度シーズンをスタートさせる案が提示されているが、これまたまだ決定されていない。

■プレミアの下部リーグ(2,3,4部)イングランドプロリーグについては4月25日の理事会で2019年/2020年度は終了とするか決定する。

■プロリーグの下部のセミプロアマリーグは今年度シーズンを終了とすることが決定された。The FAの決定。

 
 このような状況化で大きな問題となっているのは選手の契約、報酬がどうなるかである。
■FIFAは選手の移籍シーズンの期限である6月30日を延期することとした。6月以降も今年度のリーグが行う可能性があるためである。

■イングランドは昨年度8月のシーズン初めの8月9日が移籍期限の終了であったが今年度は9月1日になる予定。

■選手の報酬に関しても現時点、試合はなく各クラブは収入源である入場料収入は皆無。テレビ放映権料もテレビの放送が無くリーグとして750百万ポンド(1千億円)の収入が無くなることでクラブの経営資金は大幅に減額となり、選手の報酬が支払えない状況に陥る可能性が高くなってきた。各クラブは選手スタッフへの報酬カットを辞さないとしている。

■現在、2部以下のクラブのうち多くのクラブは30%カットを模索、それでも経営的に持たないクラブは共同で集団破産宣告をすることを模索している。もしこれが実施されれば来年度から2部以下のプロリーグは成立しないことになる。
 それを避ける方法として、プレミアリーグが行っているFulough(フーロフ=一時帰休制度:英国政府のコロナ対策として月収2,500ポンド(約33万円)を限度に報酬の80%を政府が保証する制度)を適用することとしているが、試合なくしてプロフットボールの経営は破綻する危機に直面している。
 このFulough制度を活用する予定のプレミアリーグクラブはボーンマス、ブライトン、リバプール(スタッフのみ)、ニューキャッスル(スタッフのみ)、スパーズ(スタッフ)が実施する。
 選手に関しては、プレミアリーグクラブのキャプテン全員が同意して『#Players Together』というチャリティを組織し、コロナ医療関係者へ選手報酬から一部を寄付することを提唱し実施している。

■一方、2部以下のクラブのうち、ダービー、レディング、シェフィールドウエンズデイの選手は50%のサラリーカットに直面しており、選手組合へ訴えているが選手組合側はカットされると実質収入が減る。すると課税分が減ることで政府の医療費用充当分の税額減となり、医療関係費用が減額し、コロナ対策が出来なくなるという理屈で反対をしている。そのためクラブの報酬カットは受けないようにと指導、選手間に混乱も生じている。
 いずれにせよ、現在の英国でのスポーツは全滅、フットボール界そしてスポーツ界全体に希望大きな暗雲を立ちこませたコロナの影響は国民生活に大きな影を落としている。

■ただドイツだけはコロナを押し込めている実情ありブンデスリーガは無観客で6月には終わらせたいとしており、欧州フットボール界に唯一光を与えている。

 何はともあれ早期のコロナ退治を期待したいものだ。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫