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大津一貴のエンジョイフットボールライフ『日本ではありえない出来事3選』

20・04・11
 上写真/モンゴルで気温がマイナスの中、防寒具装備で試合に臨む大津選手(中央14番)


 北のサッカーアンビシャスをご覧の皆さま、こんにちは。新型コロナウイルスの猛威が勢いを増すばかりですね。不要不急の外出を控え、手洗い・うがい・マスク着用を徹底し、この不測の事態を皆さまと一緒に協力して乗り越えましょう。

 現在、私が所属するモンゴルリーグも開幕が延期になっており、いつリーグ戦が始まるのか不透明な状況です。そのため、モンゴルに渡航することも出来ず、北海道に滞在中です。コンディションの維持や、体調管理など難しい部分もありますが、今は健康第一で過ごしたいと思います。

 さて、気持ちを切り替えまして、私が海外でサッカーをしてきた経験の中で、日本ではありえないエピソードをまだまだ隠しておりましたので、今回はこっそり3つだけご紹介したいと思います。


■エピソード1【11人対12人!?からの吉本新喜劇?】

 私がタイリーグでプレーしていた2017年シーズン。所属していたカンペーンペットFCは、タイの首都バンコクから車で約6時間ほど離れた田舎町のチームです。もちろん、大きなビルや建物は存在しない、とてものどかな街です。ご近所さんの顔が全員把握出来るほどの田舎だったので、当然のように動物もたくさんいました。

 中でも一番びっくりしたのは、練習場のすぐ隣に牛がいたことでした。練習場に到着するなり「モォ〜〜〜」とお出迎えをしてくれます。グラウンド脇にある草をよく食べていたのですが、グラウンド内に進入してきて練習場の芝生を食べていることも珍しくありませんでした(おかげでグラウンドはボコボコ…)。時には、グラウンド脇に飛んでいったボールを牛くんが華麗なトラップを見せてくれることもしばしば(と、言うよりボールが牛くんに直撃していました)。また、ある時には、紅白戦中に牛くんが乱入。「11人対12人(牛1頭)になったのか!?」と、目を疑う光景が飛び込んで来た日のことを、いまだに忘れはしません。

 そんな超牧歌的な風景のとある日の練習での出来事です。いつものように牛くんが優雅にゴール裏を散歩していた時、一頭の牛くんが、吉本新喜劇のコントのように突然ずっこけました。「おいおい、何をしているんだ!?」と思って牛くんの方を見ると、なんとサッカーゴールのネットに足が絡まっております。そして、慌てて脱出を試みる牛くんが動けば動くほど更に足にゴールネットが絡みつき「ど、どてーん!!」ともうひとコケ。これにはさすがに練習を中断し、チームメート全員で暴れる牛くんの救出に向かいます。

 その後、牛くんは私たちの言うことを聞いてなんとかおとなしくなり、絡まっていたネットを無事に解いてあげました。牛くんはホッとしたのか、心なしか嬉しそうにその場から小走りに逃げていきました。何とも人騒がせな、でも憎めない牛くん救出劇でした。

 上写真/【エピソード1】のどかな風景広がるタイのカンペーンペットFC練習場。ここで牛くんがゴールネットにからまり転んでいた
 


■エピソード2【水が用意されていないハーフタイムのロッカールーム】

 次は私が長年プレーしているモンゴル。真冬は極寒の寒さになる国なので、シーズン序盤(4月頃)と終盤(10月頃)の試合でマイナスの気温を記録することも珍しくありません。試合中でも手袋、ネックウォーマーは必須で、下半身もロングスパッツを着用してプレーすることが多々あります。

 昨年の2019年シーズン、例のごとくシーズン終盤の極寒の中で開催されたある日の試合。試合中は動いているので気になりませんが、一番気をつけなければいけないのがハーフタイムです。汗が冷えてしまうので、とにかく体を冷やさないように、選手各々がダウンコートを着るなどして体を冷やさない工夫を重ねます。

 そして、我がチームには秘密のポットに入れられている、あっつあつのホットドリンクがロッカールームに用意されていました。中身は「スーテーツァイ」と呼ばれる塩入りミルクティーで、モンゴルでは遊牧民をはじめ、一般市民も毎日飲むとされている伝統的な飲み物です。

 このスーテーツァイを用意してくれた気持ちはとてもありがたかったのですが、私は前半を終えてすぐだったので普通の水が飲みたいと思っていました。私はスタッフに「普通の水が飲みたいんだけど。水は無いの?」と尋ねたのですが…。

 「何を言ってるんだ。モンゴルのスペシャルドリンクを飲めば後半も体が温かいままだぞ。さあ、早くスーテーツァイを飲んで!」と強く言われ、紙コップに並々にスーテーツァイを注がれました。どうやら、水は用意されないようです(笑)。チームメートも全員「ズズズっ」とすする音を立てながら、スーテーツァイを飲んでいます。「郷に入りては郷に従えか…」と割り切って、私もチームメートと一緒にあっつあつのスーテーツァイをすすりました。

 結果、その試合は無事に勝利を収めることに成功。きっとこの試合の勝ち点3は、あっつあつのスーテーツァイのおかげだったと思うことにしています。


■エピソード3【異国でも口は災いの元…】

 最後はニュージーランドでプレーしていた2016年の話しです。

 プロの世界は結果が全て、とはよく言われるものです。1つの勝利で大きなお金が動きますし、たったワンプレーで選手の契約にも大きな影響を及ぼします。少しでも軽率なプレーがあれば契約を解除される可能性もありますし、逆に1つのゴールがビッグクラブへの移籍を決める要因になるケースもあります。

 そのような状況下で選手たちはプレーしているので、当たり前ですが試合中は必死です。そして、汚い言葉も飛び交います。特に海外では、汚い言葉のオンパレード。私がプレーしていたニュージーランドでも、例外なく試合中は汚い言葉が飛び交っていました。

 とある試合で、私は右サイドハーフのポジションで試合に出場していました。そのポジションは、相手の左サイドバックの選手と常にマッチアップしている状況です。左サイドバックの相手選手と私は、試合序盤からお互いに負けたくない気持ちで激しい攻防を繰り広げていました。

 そんな中、私がボールをキープしていた時に相手選手が私に向かってスライディングタックル。しかし、北海道のフットサルで鍛えた華麗な足技でスルリと相手選手のスライディングをかわし、私は意図的にファールをもらいました。

 この華麗な足技に自画自賛だった私は「ははは、ざまあみろ」と、思わず日本語でボソッと発言。

 すると、相手選手が「お前、性格悪いな!」と、とても流暢な日本語で話しかけてきました(見た目は完全に白人系のニュージーランド人)。

 私はびっくりしたと同時に罪悪感が沸いてきて「ごめん! ごめん! 日本語分かるんだね。いやぁ〜すまない! すまない!」と、ザ・日本人を丸出しにして平謝りしました。

 試合後にもう一度謝罪をすると、相手選手は日本人とニュージーランド人のハーフだったようで、日常会話程度の日本語はペラペラとのことでした。いくら海外とはいえ、言葉には気をつけなければならないと反省をした、若き日の出来事でした。

 以上、『日本ではありえない出来事3選』でした。まだまだ海外での面白エピソードは豊富に用意しているので、今後も小出しにしていきたいと思います(いっぺんに出してネタ切れで契約解除されないように賢く戦います・笑)。

 上:上段写真/【エピソード2】モンゴルでのロッカールームの様子(この日スーテーツァイはありませんでした)

 上:下段写真/【エピソード3】ニュージーランドでの事件が起きた試合。見事決勝ゴールを決めてMOM(マンオブザマッチ)を獲得した。


◆大津一貴プロフィル◆
少年時代は、札幌山の手サッカー少年団とSSSサクセスコースに所属。中学校時代はSSS札幌ジュニアユース。青森山田高校から関東学院大学へ。卒業後は一般企業へ就職。2013−2014年は、T.F.S.C(東京都リーグ)。2015年FCウランバートル(モンゴル)。2016年スリーキングスユナイテッド(ニュージーランド)。2017年カンペーンペットFC(タイ)、2018年からは再度FCウランバートル(モンゴル)でプレーし、優秀外国人選手ベスト10に選出された。
大津 一貴